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最終章 旅の続きにて

 「こうして、魔王は剪定の剣で国王に取り憑いていた災禍の化身を倒し、物語は幕を閉じたのでした。

 めでたしめでたし」

 ……これにて話はおしまいじゃ。どうじゃ童ども、面白かったじゃろう?

 ははっ、皆怯えた顔をしておるのう。それもそうか。

 国王を殺した犯人は、未だに見つかっておらなんだ。その正体がなんと百年も前に魔王として君臨していた一匹の魔物だとすれば、まあそう簡単に捕まらないよなぁ。

 それとも、そうだと知って敢えて見逃している、なんてやつもいるかもしれない。無害な人々を殺し続けた災禍の化身を倒した功労者、などと過去の出来事を棚に上げてな。

 まあ、それが人間ってやつじゃろ? 過去に悪いことをしていてもそこに理由があれば同情するし、もっと悪いやつを懲らしめたのであれば正義があるなどとほざく。

 結局な、記憶を積み重ねる生命体にとって、過ぎ去った過去よりも直近の今何を感じるかが全てなのじゃ。腹立たしいことにな。

 ん? なんじゃお主か。なんだかんだ言って気に入ったのかえ?

 魔王が救世主みたいな扱いが許せない? 後付けもほどほどにしろ?

 口の聞き方を弁えろよ坊主。毎日足を運んでおったくせに。

 芸を観に来るついでだと? なんじゃまだそんなこと言っとったのか。

 まあ良いわ。その生意気な態度に免じて答えてやろう。

 魔王が救世主みたいに感じたのであれば、それはお主の勘違いじゃ。

 あやつは確かに剪定の剣で災禍の化身という、災害の精霊を倒した。しかし、それはあくまであやつこそが元々災禍の化身に乗っ取られておったから。

 本来であれば、あやつ諸共、勇者と剪定の剣によって屠られておらねばならなかったのだが、当時の聖女は魔王と災禍の化身を違う者であると見抜けなかったのじゃ。

 あの者の眼に、災禍の化身に乗っ取られた魔王の姿がどう見えておったのかは分からぬ。もしかしたら融合して一つの存在に見えていたのやもしれぬし、化身の存在を感じることはできていたが、姿までは見えていなかったのやもしれぬ。今のワシでは、それ以上の考察はできぬな。

 話を戻すが、救世主としてやつは化身を倒したのではない。ただ、自分と共に滅びなくてはならなかった存在を殺す。自分の不手際で発生した事態の収束こそがやつの旅の目的じゃ。

 真面目よな。ワシだったら知らんぷりして細々と生きる道を選ぶぞ。どうせ化身に完全に乗っ取られて人間が滅びようが、正直どうでもいいし。

 ……まだあるのか。ガレアスとは結局なんだったのか?

 あれは精霊じゃ。幻惑を見せる霧雨の精霊だと、語りの中でも伝えたであろう。

 そうではない? ……ああ、そういうことか。

 ガレアスが待っていたのは主人である魔王と、かつて勇者の仲間の一人だったドワーフの少年じゃ。やつとは友人だったのじゃよ。

 それも、やつが待っていたのは災禍の化身に乗っ取られた魔王ではなく、本来の魔王じゃ。ワシにもよくわからぬが、昔馴染みのようなものじゃったのだろう。どういう経緯であそこで待てを命じられておったのかは、ワシにはわからん。もし知っているのだとすれば、友人であったあいつだけなのじゃろうな……。

 すまん。少し湿っぽくなってしまった。次はなんじゃ。

 聖女とノアの関係性についてか。

 あれは親子ってことになるのじゃろうな。

 ワシは例の宴の席で聖女も他の仲間同様に殺されたと思っとった。だからその死に際を最後まで見れなかったのじゃ。

 どういう経緯かはもう覗きたくもないが、何か思うことがあって聖女は自刃せずに生き延び、自分が生まれた村に逃げたのじゃろう。そして、そこでノアを孕った。

 寿命やら父親やら、よくわからぬ点が多いのじゃが、それを知る鍵は、今はもう原型を留めておらぬ、教会にしかなかったのじゃろう。

 ……失われてしまった真実は、多いのう。

 それで? 剪定の剣とは結局なんなのか、な。

 人の形を象った剣の精霊。いや、実際は剣ですらなかったのかもしれん。

 あれは災禍の化身に対抗するための力じゃった。調和、循環、抵抗、抑止。そう言った自然が持つ世界を存続させるための概念の精霊。

 どうして一度人の形を得るのか。それはその名の通り、選ぶためじゃ。人というのは魔物よりも繊細で狡猾。手足はあるし思考力も理性も感性もある。それら全てを駆使して選ぶために、やつは人の姿を象った。

 なぜ勇者の姿に似せたのか、は――。

 ワシも精霊という存在がどういう条件下で発生するものなのか、詳しいことまでは知らなんだ。しかし、やつは百年前に一度勇者の元に現れて、勇者に力を貸したのじゃ。

 その記憶が記録として刻まれていなくても、なんらかの形で残っていたのだとすれば、もしや……。

 なんてな。すまんのう。定かなことを言えなくて。

 どうした。まだあるのか? ……ワシの正体?

 なんじゃ。ただのしがない語り屋じゃよ。

 魔王みたいな巨大なやつを見た? ならば確かめれば良い。お主は魔王ですかって。

 青い狼に追い回された? 懐かれたんじゃないか?

 金色の瞳の女の子と話した? ワシの孫じゃからな、いじめるでないぞ。

 ……何か言いたいような顔をしておるの。その好戦的な眼、やっぱりそっくりじゃわい。

 ――っと、そろそろ時間じゃ。じゃあな童、芸楽しんでこいよ。


 「おい、待てよババア」


 「次はどこに行くんだよ」


 弔いの旅の途中じゃよ。ここへは知り合いに足止めを喰らっていたにすぎぬからな。縁があればまた巡り会うだろうよ。

 お主が無理でもその子、や孫とかな。ははっ、合縁奇縁っていうじゃろう?

 ……じゃあな、生意気なガキ。次会う時には、そうさなぁ。


 「剪定の剣を探す旅の話でもしようか」

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