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第八百二十一話

「……椿は相変わらずそういう狙いか」


 安全管理委員会の本部で、秀星は処理されて行くメールをボーっと見ながらそんなことを呟いた。


「というか。この『酸素くん』というモンスター。いったい何をもって作成されたのでしょうか」


 横にいるセフィアからそのようなことを言われたが、秀星としても出せる結論は多くない。


「知らん。多分、来夏の『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』を知らない奴が、『コイツを倒せるもんなら倒してみろ!』って感じで設定したんだろ」

「……」


 ちょっとだけ空気が凍ったような気がするのは気のせいではあるまい。

 絶対に倒せないモンスター。という言葉の解釈を『絶対に発見できないモンスター』とすることそのものに対しては特に文句はない。

 事実、その通りだからだ。

 だが、絶対に発見できない。という状況を達成するためにはかなり多くの視点が必要になる。

 というか、攻撃範囲がやたら広い攻撃魔法を使っているといつの間にか倒せてしまうようなイレギュラーの発生要因など設定するものではない。


「ただ……魔法省が作ったっぽくないんだよなぁ。データを見る限り作りはかなり雑だ。来夏のスキルを考慮していないっていうのは魔法省ではありえないだろ。外部の企業が作ったものなのかもしれない」

「そうでしょうね。設定することができる権限をそれぞれの企業に一定数枠を設けることで、ある程度公平性を保っているのでしょうか」


 アトムは公平性を語る場合、『主催者の権利独占』を主張しない。

 わかりやすい例で言い換えると、『公平性という観点から政治の話をしない』のではなく『全ての政党の話をすることで公平性を保つ』という考え方である。

 そのため、基本的に権利というものを配るタイプだ。

 もちろん運営に支障をきたす権利を配るような馬鹿ではないので、その点はしっかり選んでいるが。


「……あと、データを見る限り……マッチポンプを狙ってる可能性があるな」

「確かに」


 ここでいうマッチポンプというのは、『酸素くんの出現場所に関する裏情報のようなものが設定されている』ということだ。

 酸素くんは単なる酸素でしかないので、そもそもちゃんとスタジアムの中にとどまってくれるのかどうかすら不明な存在である。

 それを倒すというのはちょっと常識が行方不明な領域だろう。

 だが、あらかじめその情報を自分たちが送り込んだ魔戦士に裏で伝えておけば、何かあった時に使えるのだ。


「……まあ誤算が一つあるとすれば、スコアのインフレが他でも結構起きてるから、酸素くんを倒せたとしても別に一位には成れないってことだけどな」

「そうですね。特に『高額設定』といえる参加者は、一度も倒されていないメンバーが基樹様と風香様だけになっています。その分多くの魔戦士が倒されており、スコアもかなりの量がいきわたっています。これでは酸素くんだけではどうにもなりませんね」

「まあ、どれだけの量が配備されているのか知らないけどな。それに……スタジアム全域を射程範囲とする参加者が結構多いんだよなぁ……」


 無差別に攻撃しまくってフィールドを更地にしていけばいつか倒せるモンスターなので、なんだかいやな雰囲気になりそうである。


「……結論は一つだ。『そんなにうまくいくもんじゃない』」

「そうですね。魔法省をよく思わない企業の皆様には、その点をしっかり学んでいただきましょうか」

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