第七百九十二話
ラターグからお金を借りることができました。
借りるときに『返済するアテはあるの?』と聞かれたのだが、『その気になればラターグがかかわってる会社に商品や情報を納めてお金を得るから大丈夫』と言っておいた。
それですべてを納得したわけではないはずだが、返済能力がある者が今必要な金を調達するための画期的なシステムが借金であることは知っているので、少しいぶかしげな視線を貰ったがお金は手に入った。
あとは、神兵たちが地球で使っている天界通貨を使える施設に行ってものを購入する。
神でも神兵でなくとも天界通貨を持っているものはいるので、そういったものを対象に使える場所は存在するのだ。そういった場所が存在する方が実際便利だし。
基本的に店を経営しているのは神兵派遣業務に関係する神々なので、秀星のような外部の人間であっても法外な金額を請求されることはない。
……まあ実態としては『別の部署にも経営してるやつがいてそいつに客を奪われないため』である。オマケに天界も今はデフレなので結構物価が安い。
「フフフ。とりあえずパーツはいろいろ揃った。新しくアンテナが完成したぞ!」
「早速使わせてもらうわね……うわ、すごいわね。今までよりもはっきり見える」
「正直パーツは天界ではほぼ使われていないジャンク品だが、神が作ったものを分解して販売するとか普通にやってるからな」
アキバのノリである。
「特に『分解神』がかかわってるところはすごく安いんだよな。神の名は一応全員が伊達じゃないから、そういう存在によって作られたアイテムって基本的に物理的にも魔法的にも分解するのってごっつ苦労するんだが、分解神だけはその工程をすっ飛ばして問答無用で分解するから、コストが全然かからないんだよな」
基本的に神が作ったものは、『完全な状態で保つ』か『本当に使い物にならないくらいバラバラになっているか』の二択である。中間……要するに『パーツ単位で存在』というものはあまりないのである。
神器のコアを作ったゼツヤを筆頭に、生産系に属する一部の神が分解業を使っている。
地球でいろいろ物を売っているが、天界では転移、転送をするコストがバカ高いので、現地で在庫を大量に抱えているのだ。
当然安い。
「意外と天界の経済に関しても詳しいのね」
「神とか神兵とか、そういう普通の人間じゃ考えられない力を持っているやつは多いけど、経済っていう以上は金だからな。原理的な部分は変わらないし……で、わかりそうか?」
「精度は高いけどちょっと範囲が広くて……見つけた!」
「ハッハッハ!……今までの苦労が全部台無しになった気分だぜ」
とんとん拍子で話が進んでうれしいはずだが、どこか今までの苦労っていったい。となってしまって萎えてきた部分があるようだ。
「場所は分かったな……ん?なんか直線距離で五十光年くらいない?ここ」
「それくらいはあるわね」
光の速度で五十年かかるということだ。
まあ物理的な話をすればという前提付きなので、ぶっちゃけ天界じゃないのだから転移すればいいだけのことである。
「さてと、これで重蔵さんを放り込むための準備は一気に進んだな」
「ばれないようにパーツを買っているのよね?秀星は結構天界でも名が知られているから、慎重に慎重を重ねるくらいがちょうどいいはずだけど……」
「大丈夫。さすがに手配書まわってるときに油断はしない」
『Unlimited Rewards』などというアホみたいな手配書が回っているのだ。そりゃ警戒もする。
「あとは重蔵さんを放り込むわけだが……ギャグ補正があると思うし、何かしら警戒をしていてもおかしくはないか?」
「封印神祖を一度相手にしている以上、神々に対して警戒するということはあるかもしれないわね。ただ……人間で九十二歳って、そこまで覚えておけるものなの?」
「知りません」
ちなみに秀星の場合はエリクサーブラッドによって常に完璧なコンディションが続くので、九十二歳になってもバリバリ元気です。
神祖であるライズは言わずもがな。といったところだ。
「ふむ……まあいいわ。とりあえず、放り込むための計画を練りましょう」
「そうだな」
放り込んだせいで重蔵に命の危機が訪れたらどうするのか。という言い分があるかもしれないが、あまりそういったことに発展するとは思っていない。
現在、殺人に関してはやっているように見えないし、そもそも高志が所属していたチームのリーダーだった男が神祖如きでどうにかなるとは思えない。一人ワンパンにしているし。
……ていうか不老不死なのにどうやってワンパンにしたのだろうか。実際に殺したわけではないにしても、撤退に追い込んだその方法をぜひとも聞きたい。
「さて、計画を進めるか」
さあ……重蔵の運命やいかに!




