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第七百八十三話

「ライズ。どう思う?」

「リリスが動いた。ということは、何か特別な段階に入ったということ。正直、彼女を放置すると何が起こるかわからない」


 ミーシェとライズはダンジョンの中を超高速で動いていた。

 それぞれ剣と槍を構えて突撃して、遭遇するモンスターをまき散らす神力の圧力だけで押しつぶして倒す姿は、まさに『災害』といって差し支えないものだろう。

 すでに普通の魔戦士ではたどり着けない領域の階層に到達しているため、人間に迷惑をかけることはないのだが、それでもその影響力はすさまじく、ダンジョンの壁がすごい勢いで抉られている。


 ……ちなみに、神祖対策として秀星がいろいろ頑張った結果、『ヘタにいじられると面倒』というものになっているため、神祖であるミーシェとライズもフロアの床をまとめてぶち抜いたり、そもそも床を剣で粉みじんにしたり、などといったことはしない。

 二人にとっては面倒といえば面倒だが、有効活用は可能である。


「……そろそろです」


 ライズがそういった。

 ライズはリリスがどこにいるのかがわかるわけではない。

 ただ、人間というのは移動する際に、全ての行動において痕跡を残さぬように動くことはほぼ不可能である。

 痕跡を鑑定できるライズを相手に甘えは許されない。


「私でなければ気が付かない程度の痕跡に関しては普通に残してきましたか」

「無駄な集中力を使うつもりはない。ということかもしれない」

「可能性はありますね……さて」


 ライズはダンジョンの通路の横にある部屋に入った。


「あら、いらっしゃい」


 そこでは、リリスがソファに座って本を読みながら待っていた。

 部屋はダンジョンの中では安全地帯という設定なのか、部屋に入るとモンスターに遭遇する気配そのものがなくなっている。

 部屋の中を見る限り、ここで生活していたのがよくわかる。

 ……なんかキャンピングカー置いてるけど。


「あなたほどの人間が『じっくり本を読む』というのは珍しいですね」

「神祖の中で時々流通する『暗号書』のようなものよ。さすがにあなたには通用しないけどね……それで、二人ともわざわざ武器を構えて、何か用?」

「リリスが何を企んでいるのかを確認しに来た」

「あなたらしい言い分ね……だけど、それを話すと思っているのかしら?」

「思っていない。そして、口から出る言葉が真実だと思ってもいない」

「なら、どうやって私の企みを暴くのかしら?」

「……」


 ミーシェはライズの方を見る。

 ライズは『え、もしかしてノープランだったの?』という表情でミーシェを見る。

 ミーシェが剣を持っていない左手でグッドサインを見せてくるが、不安だ。


「基本的に何も考えていないところも相変わらずねぇ……まあいいわ。すぐにわかることだし、今から行ったとしても結果は変わらないわ」

「?」

「あなたたち、最近、元魔王が以前にも魔王として君臨していた。という情報を握っているわよね」

「そうですね」

「?」


 ミーシェは首をかしげる。


「……あなた、何も知らないのね」

「敵なら斬ればいい。味方なら守ればいい。それだけ」


 なるほど、シンプルだ。それを素で出来る人間はそういないだろう。


「まあとにかく、私はその時の魔王とちょっとしたかかわりがあるのよ。だから、そのころの記憶と力を現代によみがえらせたいだけ」

「……それをして意味があるのかわからない」

「神々だって自己満足くらいは求めるわよ。そもそも、社会というものを作らない個体数しかいない神祖にとって、全ての行動の『意味』と『価値』は自分で決めるしかないものよ。そんなものはすべて自己満足に決まっているじゃない」

「言いたいことは分かりました。ただ、あなたがそれだけを狙っているようには見えません」


 常に意識しているのだろう。ライズの瞳には不思議な光が宿っている。

 神祖としての力を行使しているのは分かっている。

 『使っているのはもうわかってるでしょ。正直に全部言え』と主張しているのだ。あまりにも露骨だが、そもそも鑑定神祖であるライズが誰かと話すときに嘘かどうかを判定しないということはほぼあり得ないだろう。


「……フフフ。やっぱりあなたと話すのは良いわね。神祖が相手じゃないと。『対話』すらも意味がないし」


 リリスは微笑む。

 実際、神祖というものが持つスペックは、他の種族の存在を大きく上回る。

 対話することすら意味がないことなどざらにあるし、『自分が付いた嘘を見分けられる存在』もまた周りには存在しないのである。

 そんな関係では楽しいことなどほぼない。

 客観的な評価ができるものは多数いる神祖といっても、見下した意見を持ったままかかわるのは当然のことである。


 退屈を紛らわせるためには、神祖を引っ掻き回すしかないのだ。


「……とりあえず、あなたが基樹さんと関係があることに嘘がないのは分かりました。が……もう少し引き出したいですね。ところで、天界で神祖が暴れまわっているそうですが、あなたはそれに対して何か関係はありますか?」

「ないといって信じてもらうための行動をしたことがないわ」

「なるほど」


 『好きなだけ勘違いするといい。私は私が楽しければそれでいい』

 そういっているように聞こえたのだ。


「……なるほど、私にも何となくわかった」


 頷くミーシェ。


「だけど、あなたと戦っておきたいとも思う。というわけで、いざ尋常に勝負!」


 そういって剣を構えなおすミーシェ。


「相変わらずね……」


 実年齢と精神年齢は比例しないらしい。

 神祖に限らず、長命種を見ていると、なんだかとてもそう思う。

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