第七百八十二話
「お父さん!リリスっていうお姉さんからこれを基樹さんに渡してほしいといわれたんですけど、何か知りませんか?」
「「ブフッ!」」
朝森家のリビング。
家具はセフィアが用意して、秀星とライズとミーシェがくつろぐ空間の中で、椿が帰ってきてそんなことを言った。
それを聞いたライズとミーシェは思いっきり吹き出している。そばでお菓子を運んでいたセフィコットたちにかかった。
『綿にコーヒーがああああああ!』みたいな感じであたふたしている。
……そして洗濯機がある部屋に直行していったが、君たちは何をするつもりなのかな?
「……リリスって誰だ?」
「解放神祖」
「基本的に何を考えているのか、何を狙っているのかわからない女よ。で、それは……カードケースね。ただ、中の内容が私にもわからないってことは、しっかり対策してきたってことかしら?」
とりあえずカードケースらしいものを椿から受け取る秀星。
「基樹にねぇ……最近、俺が力を封印した時よりも以前に魔王をやってた時があったって言ってたし、その時の状態が関係するのか?」
「可能性はあるわね。その時に使っていたカードかも」
可能性はある。盛大にある。
「まあなんていうか……多分これを基樹に渡せば、基樹は強くなるんだろうな。問題があるとすれば、それで基樹がどこまで強くなるのか、強くなるとして、リリスが何をしたいのかってことだな」
ライズが開け方がわからないといっている以上、ここで秀星が解析しようとしてもおそらく開けられない。
リリスの力の本質が解放なので本来何かを縛り付けるのは不得意の可能性があるが、そもそもこのカードケースを作ったのがリリスではない以上、おそらく封印したのもまた神祖なのだろう。
「まあ、渡してみる方がいいか」
とりあえず基樹に電話してみる。
コールは一回でつながった。
「……あ、基樹。俺だ」
『お前から掛けてくるなんて珍しいな』
「そうか?」
『俺のスマホの着信履歴見てみるか?美奈と来夏しかいないぞ。送信履歴は結構あるけどな』
悲しい……というか基樹って電話けっこう掛ける方なんだな。
どうやら秀星の妹とはまだ仲が良好のようだ。椿が言うには将来的に結婚してるみたいだしね。
「解放神祖リリスからお前にプレゼントがあるみたいだ」
『プレゼント?』
「ああ。ほれ」
秀星は手に持っているカードケースを転送する。
『うわっ!……なんだこれ』
「カードケースらしいぞ」
『カードケースって……これ、どうすればいいんだ?』
電話の奥でかなり戸惑っているのがわかる。
「俺もライズもあけ方がわからんからな」
『いや……お前と鑑定神祖がわからんものをどうしろっていうんだ……』
「お前にも開け方がわからないのか?見た感じ、TCGに使えそうなカードケースだし、お前の魔力に反応すると思ったんだが……」
『仮に俺の魔力に反応するかどうかで判断するなら、多分開かないぞ。俺もグリモアから資料を持ってきて時々調べてるけど、ほぼ似てるだけで同質じゃないからな』
「そうなのか?」
『ああ。今の俺は金髪金眼だが、昔は黒髪黒目だったらしい』
「仕事しろよDNA!」
『俺に言うな。ちなみに名前も違うからな……』
「そりゃお前の名前の語源はモトキングだからな」
『痛いところをほじくるんじゃない!』
「で、昔は違うわけか……その名前は?」
『イニシャルすらわからん』
「情報源がポンコツすぎるだろ」
『俺に言うな。昔の俺に言え!』
「……言いに行こうか?」
『勘弁してください』
さて、茶番はこのあたりで止めておこう。
「で、近い将来的に開けられそうか?」
『まあ、調べてみるさ。俺は保管庫を作るときは開け方を何通りか設定するタイプだからな』
「……そうだっけ?」
『いや、時々変わる』
基樹のキャラの安定性などそんなものだろう。
人のことは言えないが。
「まあ、なんとか頑張ってくれ。正直俺くらい強い人間がもうひとりほしいからな」
『もちろんだ……え、そこまで求められんの』
「だって神祖がわざわざ動いて届けに来たんだ。スペック的に俺くらいになってもらわないと話にならん」
『……努力はするが、どうなっても文句は言うなよ』
「わかってるって」
通話終了。
椿たちはどうしているかな。と思って振り向いてリビングを見ると、誰もいなかった。
「……そういう、興味がないってことを露骨に表現するのはやめてほしいんだけどな……」
叶わぬ願いである。




