第七百七十六話
「……早速かよ」
秀星はマシニクルから来ている警告音を聞きながら愚痴っていた。
自分のスマホとマシニクルは常に通信されているのでスマホの画面を見てみると、新しい転移先の指定地に神々の反応があったのである。
「さて、地球にとって敵か味方か……」
ただ、秀星としてはこれだけでは判断ができないのだ。
全ての神が悪いというわけではない。
ただ、今回の場合はどちらでもなさそうだ。
発信機の様子を見る限り、近くの町の質屋に向かっている。
地上で力を蓄えて、時が来たら神祖に反逆するつもりなのだろう。
その時に神祖が天界にいてくれるかどうかはわからないが。
「秀星」
「ん?宗一郎。マスコミの対応は終わったのか?」
「ああ。神が来た時にどう対応するのかはあらかじめ決めていたからな。魔法学校の生徒会長は定期的に魔法省の会議に参加する義務がある。その時に聞いておいたから問題はない」
「議長は誰?」
「アトムに決まっているだろう」
「ですよね」
魔法次官という魔法省のナンバーツーではあるが、実質トップと言っても差し支えないほどの能力を持っている男だ。
生徒会長はマスコミの対応も日々求められるだろうし、どういった返答をするべきなのかもあらかじめ決める必要があるのだろう。
「今回の神々って、魔法省ではどういう扱いにするって決めてるんだ?」
「自称で神を名乗っている集団ということになっている」
「……別に間違えていないな」
秀星は素直にうなずいた。
そもそも現在の神というのは、何かの概念を極めて自分の器と越えた人間が自分でそう名乗ることから始まるのである。
そういう意味では、神というものを名乗っているだけというのは間違いではない。
現在の神は、自分たちとは別の特性を持つ存在に敗北していないからこそ、神を名乗っているのだ。
別にそれそのものは秀星としてはどうでもいい。
神を名乗るだけなら安いことなのだ。それを維持している以上、秀星としては非難することではない。
「本質的に見ても客観的に見ても間違えていないからな。この案が採用された」
「はたから見たら『何の宗教?』ってなるけどな」
宗教というのは一般的に、人や自然の力を超えた存在を中心して、そしてその存在からもたらされる教義や組織によって形成される社会集団である。
そういう意味では、天界というのは『宗教組織』とも言えなくもない。
「かなり真実に近い暫定だな。神々といえど、人から見れば単なる宗教組織か」
「会議室にいたもの達のほとんどが苦笑していたな。まあ、これから自分たちに脅威を与える存在が単なる宗教組織となれば、確かに思うところはあるだろう」
別に宗教組織の存在が悪いといっているわけではないのだが、その教えが法律よりも自分たちの正義を優先する者であった場合はハイパー面倒である。
社会というもので生きていくのなら、まず国の法律に従い、そしてその上の法律である国際条約に従わなければならない。
どれほど正しかろうと、正義という言葉を使わなければ正しさを提示できない時点で、秩序に敗北していることと同じである。
そもそも、基本として『道徳』という宗教にのみ従っている日本人としてには理解できない話なのかもしれないが。
「ただ、マスコミに関してはそれで抑えられるのか?」
「魔法省も自分でマスコミを抱えているから問題はないそうだ。別に嘘を言っているわけでもないし」
「……結局はコネってわけか」
「世の中そんなものだ」
とりあえず、現状として問題はないということは分かった。
「で、他の場所に神が現れた。といったことを口にしていたように思うが、どういうことだ?」
「ん?ああ、人里離れた山があったから、とりあえず天界から地球に神が転移してきたらそっちに強制的に移すようにしておいたんだ。そこに神の反応があった」
「……大丈夫なのか?」
「真っ先に質屋に向かってたから、多分裏で力を蓄えようとしてるんだろう。自分の力で神になってない奴は人間だったころの可能性なんて信じてないから、とりあえず生活する分の金を手に入れてうまく回したうえで、時間をかけて神祖を倒す力を身につけようとしてるんだろう。まあ、基本的に地球人を支配しようと考えているものが多いことを考えると珍しいことではあるけどな。元日本人かもしれない」
「ほう……」
「人間を強制的に神にすることができる命名神が地球人じゃないから、地球に対して何の思い入れもないんだよな。一応、神という概念を作ったのは日本人だから、どこの異世界に行っても日本語で統一されてるけど」
「……よく異世界転移の小説で『なんで異世界なのに日本語が通じるの?』と疑問に思うことがあるが、日本人が世界を作っているから日本語が使われているわけか」
「まあ、それでも方言はあるだろうけどな」
「ふむ……それで、今回地球に来た神が暴走する可能性は?」
「全くないとは言わないが、何かあれば天界に直送するから問題ない」
酷く強引な作戦だが、世の中というのは力こそパワーである。
それで何とかなるのならそれに越したことはない。
……と、いいなぁ。




