第七百五十九話
「知っていますかお父さん!力こそパワーなんですよ!」
「……椿は一体何を学んできたんだ?」
家でライズと共に計測器とにらめっこしていた秀星だが、休憩ということで一度リビングに戻ると、椿と風香がすでにいた。
高志や来夏はまだ重蔵と話しているそうだ。
風香から『ギャグ補正を使いこなしてるおじさんがいるみたいだから、椿ちゃんたちを連れてあってくる』とメールしていたので、何かしら話してから帰ってきたと思われる。
椿が少し汗をかいているので運動してきたことは分かるのだが、その結果としてわかったことがそれでは何も解決しない。
「で、権藤重蔵さんだっけ?どんな人なんだ?」
「身長が二メートル以上あって体重が私の四倍くらいあるんですよ!」
「本当にそれ人間か?」
しかも聞いてみればかなりの高齢者とのことだ。
それを考えてみると圧倒的である。
「むっふー!すごいんですよ!私を肩車したままでもスクワットできますからね!」
椿は四十二キロなのでぶっちゃけできる人が多そうだ。
「まあとにかく、あんまりよくわからなかったんだな」
「うん。あまりにもわかってないことが多すぎるね。もうどうすればいいんだろうって思うくらい」
「……まあ、ギャグ補正については保留にするか。これ以上考えても仕方がないし」
秀星は溜息を吐いた。
すると、リビングのドアが開いた。
「秀星さん。重要なことがわかりましたよ!」
異世界グリモアの真実国ユイカミからやってきた女王のヴィーリアだ。
手に資料を多数抱えている。
「あっ!ヴィーリアさん!お久しぶりです!」
「……そんなにあってませんでしたっけ?」
「あってないな。だってヴィーリアはあまりこの家にいなかっただろ。近くの図書館で出没してるって聞いてるけど」
まあ、それはそれとして。
「で、何がわかったんだ?」
「グリモアにおける魔王についてですけどね」
「魔王についてか」
気晴らしに聞く程度でいいか。と思っている秀星。
「グリモアでは、魔王を倒されたとしても、百年後には魔王が誕生するというルールが存在することは知っていますね」
「ああ」
「現在のグリモアは、基樹さんが新しい魔王として存在することで魔王が存在する状態になっています」
「再臨魔王モトキングだな」
「ブフッ……はい、その通りです」
「笑ってやるなよ」
「そうですね……百年前、秀星さんが魔王の力を封印し、そしてその時の勇者が魔王を倒したことで、その百年後に魔王は誕生しました。しかし、神聖国が魔力をかき集めていたことで、その実力はとても低いものになっていました」
「その通りだな」
「ここで一つ疑問ですが……百年前の魔王である基樹さんが魔王を務めていた期間は一億年という膨大な長さです」
「ああ」
「そんな桁が大きな数字が出てくるほどの年月です……百年後に魔王が誕生するという『ルール』が、伝承として残ると思いますか?」
「……いや、無理だろうな」
秀星は断言する。
言語というものは多種多様な概念を吸収して発展するものだ。
実際、日本人は千年前の文字を読むことすら苦労するだろう。古文というものを勉強せずに源氏物語を読み解くのはほぼ不可能だ。
異世界の場合は神々にとって管理がしやすいように、言語を全て日本語に統一させている。
これは一番最初の神が日本人だからという説が有力だが、これがあるので、異世界独自の言語というものは存在せず、神々にとっての管理難易度を下げるため、古文と現代文レベルの変化が発生しないように調節されている。
そのため、限度というツールとして引き継がれないということは発生しない。
異世界には『魔法文字』などの『別種の文字』は存在しても、『古文』という概念が存在しないのだ。
だが、一億年もの年月君臨していた基樹が、倒されたら百年後に新しい魔王が復活するなどという情報を漏らしていたとは思えない。
エルフや天使といった長命種も存在するし、不死鳥族のような実質不老不死すら存在はするが、だからといって記憶力は持たないのだ。
基樹が君臨しているという『安定』『安泰』が崩れるとは思っていなかったであろう当時の魔族領土民が、真の意味で百年後の魔王に希望を持つことができていたかと言われれば、秀星は首を縦に振られても納得しないだろう。
「様々な観測データをもとに研究した結果ですが……基樹さんは、秀星さんたちが終止符を打った一億年よりも以前に、魔王を務めていたとのことです」
「魔王を二回やってたのか?」
「はい。おそらく一度封印された後、解放されて魔王となり、そして一億年もの間魔王として君臨していたということになります。その間に、何度も何度も、倒されても百年後に誕生する魔王のデータが蓄積されて行きました。そして封印が解除された後で、基樹さんはそれを解析。『忘れられるほどの伝承』ではなく、『常識』となったのだと思います。基樹さんが君臨し続けていてもその知識が頭の中で残るほどの、『常識』となっていたのですよ。だからこそ、だれも疑っていなかったのです」
「なるほどなぁ……」
「そしてはるか昔の文献を調べたところ、基樹さんは、『初代魔王の息子』であることがわかりました」
「魔王って世襲制なの?」
「いえ、本来はそういうものではないはずなのですが、基樹さんは実力で勝ち取ったようです」
謎の多い男である。
「それだけの年月を生きていたのなら、神祖にも何かがつながるかもしれませんよ!」
「……そういうものか?」
「長く生きるということは多くのことにかかわれますからね!未来でおじいちゃんは『大した能力のない老人なんて歴史の生き証人くらいの価値しかないんだよな』って愚痴ってましたけど!」
「父さん……椿に何を吹き込んでるんだ?」
一度、椿の常識を知る必要があるようなないような……こればかりは結論が出ないので放置しよう。




