第七百六十話
「俺、記憶にねえんだけど」
「まあ、そうだろうな」
魔王を務めていた時期がまだ以前にもあったという情報を話したが、基樹は全く記憶にないようだ。
もちろん想定していたことではあるし、それに対してとやかく言うことはない。
「で、わざわざダンジョンに連れ込んで何の話かと思ったら、そんな過去の話か」
ダンジョンに入って、モンスターを遊ぶかのように倒している秀星と基樹。
ダンジョンの中は外に対して情報の発信力がかなり薄い。
そのため、圧倒的な力を持っている神祖たちが姿を隠すときはいつもここなのだ。
「ああ。まあ、神祖についても色々話しておくことがあるしな……」
「神祖?」
「そうだ。まあいろいろ理由はあるが……基樹が持ってる神器。最高神の神器だろ」
「そうだな」
基樹が魔王として戦うときの剣、『魔宝剣ダーク・オリハルコン』は最高神の神器だ。
それは言い換えれば、神祖たちが挑んでくる要因になりえる。
そもそもこの地球は最高神の神器の数が少ないので、狙ってくるとなれば基樹は必ず候補になるのだ。
「……でも、その割にこないよな」
「まあ。それは実際に最高神を狙ってるからだろうな。探すとしてもそっちの方がわかりやすいし」
そもそも神器の格を決めているのは、それを作った神が一体どの階級に属しているのかなので、どんな神が作ったとしても、それが最高神という階級に属しているのであれば、それは最高神の神器なのである。
とはいえ、命名神に名を貰って神になった者は、第二世代と言われて、それよりももっと簡単な方法で神になった者はそれ以降の世代になっていく。
ラターグがちらっと第四世代までいるといっていた。
最も人間の状態から神になるのが困難な第一世代の最高神であるラターグはそれ相応にとんでもない存在であり、それはリオ先生……天界神ギラードルも同様。
まあ神になる方法は今は置いておくとして、最高神の神器は当然、最高神が自分用に作っているものなので、そっちを狙った方が速いのである。
「なるほど……で、今のところ、この地球ではだれが襲われてるんだ?」
「アトムだな。ただ、基樹を入れてもこの地球にいる最高神の神器の持ち主は十人程度だから、いずれ狙われると思うぞ」
「秀星は?」
「俺が持ってるのは全部下位神の神器だから多分狙われないんじゃないか?まあ向こうの事情が変わったら狙われるだろうけど」
「……下位神の神器なのか。よく世界一位になれたな」
「神器もまた道具に過ぎないってことさ。発想の問題」
「そうか……で、一つ言っていいか?」
「どうした?」
「マグマの海の上を歩きながら話すようなことなのか?」
「俺が知るか」
というわけで、秀星と基樹は現在、マグマの海の上を歩いていた。
二人とも全身にマグマの上で歩くために必要な付与魔法を使っているので何も問題はないが、確かにこんなところで話す内容なのかと言われると返答としてはかなり困る。
「はぁ……椿ちゃんたちのギャグ補正の鍛錬も進んでないし、神祖も思ったより地球では動きがないからな……こう、空気はピリピリしてるんだけど、その割に何も起こってないっていうか……」
「そうなんだよなぁ……まあ、とりあえずギャグ補正を使えるから、戦えるといえば戦えるが……ん?もしかして、マグマの上を歩いてるのって、ギャグ補正を鍛えるためか?」
「俺たちは今技術的に問題がないように歩いてるだろ。これでギャグ補正が鍛えられるなら俺ギャグ人間になってるって」
「……すでにそうなんじゃないか?」
「それは父さんと来夏だろ」
なんだか不毛な言い合いになってきたのでやめておくことにした。
「ただまあアレだな……俺たちがギャグ補正を使うのと、来夏たちがギャグ補正を使うのって、なんだかこう……質が違う気がするんだよな」
「何となくわかる」
ギャグという言葉はあくまでも言葉や行動で相手を笑わせる概念である。
ただし、時には他人の怒りが密になることもある。
実際、ギャグマンガを読んでいて、誰かのギャグによって『こんのクソッタレがああああ!』となっているのは面白いだろう。アレだ。
「まあ、これに関しては……勘で何とかするしかないか」
「そうだろうな」
そう思った時だった。
「わーいわーい!セフィアさんが作ったホバーボードがとっても早いですうううう!」
元気そうな様子で椿がホバーボードに乗ってマグマの上をスーッと移動していた。
「……あの子は一体何をやっているんだろう」
「……てか、大丈夫なのか?」
「ああ。安全装置がめっちゃついているし、特別な許可がないと時速三十キロしか出ないようになってる」
「でもあれはさすがに原付扱いはできないよなぁ……」
「当り前だろ。まあ、セフィアがさっきからそわそわしながら見守ってるから大丈夫だ」
椿がホバーボードを乗り回しているが、その近くに曲がり角でソワソワしながらセフィアが見ていた。
敷地内で乗り回すのかと思っていたらこんなところに来てしまったので驚いているようだ。
「……てか、なんでこんなところで乗れるんだろうな」
「未来でいろいろ体験してるんじゃないか?多分」
不思議な子である。
……まあいまさらだが。




