第七百五十六話
自分の家にある物よりもかなり文明力がありそうな冷蔵庫を開くと、多種多様な食材がしっかり揃っていた。
「……普通にケーキがおかれてますね」
チラッといろいろ視線を向ければ、紅茶などお客さんに出せそうなものはいろいろある。
何故地獄のおやつのようなものを出そうとしたのだろうか。
理解に苦しむが、それが重蔵という人間の特性なのだろう。
これ以上追求しても仕方がないので、普通のものを出していって、テーブルに用意する。
「しっかりした嬢ちゃんじゃな」
「私がしっかりしていないと将来が何となくヤバい気がしてくるので」
そういいながら、高志、来夏、椿、沙耶の四人を見る。
高志と来夏がグッドサインを出してきたので、風香は追及をあきらめた。
「さて、神祖が相手になった時に戦えるためにギャグ補正を極めるとかそういう話じゃったの」
「そんな感じだぜ。爺さん。何かあるか?」
「というより、高志、お前神祖と戦えたことがあるのではないか?」
「!……わかるのか?」
「勘じゃな」
尚更なんでわかるん?
「その前に、ギャグ補正が一体どういうスキルなのかが、おぬしらにはわかっておるのか?」
「「全然!」」
「私もわからないですね!」
おバカ三人組が胸を張りながらそういった。
「……なるほどのう」
「あの、重蔵さんは何かわかってるんですか?」
「ワシもわからんよ」
風香は一瞬『表の大豆畑潰したろか?』と思ったが、大豆に罪はないので置いておくことにした。
(というか、こんなアホみたいな男に育てられた大豆だし、なんだか強そうになっている可能性が……私は何を考えているんだろう)
単純に毒されているというだけのことだ。致命的ではあるが問題はない。
「とはいえ、ワシも考えていないわけではないぞ?一応答えはある」
「ほう……だてに……爺さん何歳だっけ?」
「九十二じゃ」
それを聞いて、風香は『確か……標さんの自称年齢と同じだね』と思った。
高志がリーダーを務めるユニハーズのメンバーで、酒瓶を抱いたまま寝ていることが多い、綺麗な黒髪を伸ばして白いワンピースを着たロリババアだ。
名前は生島標で、確か自称年齢が九十二歳だった気がする。
戦闘手段は周辺のゴミを使って敵にぶつけたり、ゴミを強制的に魔力に分解し、塊にして敵にぶつけるなど、現実に対するメタのような能力を持っている。
まあ、人間が生きていく以上、ゴミは出てくるものなのだが。
「あの、生島標さんって知ってますか?」
「ん?おお、標ちゃんか。ワシの妻じゃよ」
「ええ!?爺さん標と夫婦だったのか!?」
「まあ、標ちゃんはワシのこと苦手じゃからの。年賀状とかは大体孫の凛名ちゃんが出してくる」
「ほえ~……でも、名字が違いますよね?」
「戸籍上は標ちゃんも権藤じゃよ。ただ、生島というのは旧姓じゃ。ただ、標ちゃんの娘が生島という苗字の男性と結婚したからのう」
要するに、標に関しては生島という性は通称だが、凛名にとっては戸籍上も同様ということだ。
「なんだかおもしろいですね!」
確かに聞いてみれば複雑な部分は一切ない。
ただ、過去に何かがあったことを思わせるものだ。確かに面白いといえる範疇である。
「……」
風香はいろいろ考える。
「もしかして、標さんのあの体格って、ギャグ補正が何か関係があるんですか?」
「いや、あれは標ちゃんの体質じゃな」
「あ。そうですか……」
「ただ、あの頃はまだギャグ補正というものを認識していなかったからのう。可能性はあるぞい?あと、標ちゃんの場合は母親が長生きでのう。標ちゃんが九十二歳になるまで母親が生きておったんじゃ」
「そうなんですか……」
自称九十二歳を主張し続けるのはそこに何かあるのだろうか。
「標さんは優しい人ですし、そのお母さんも優しい人だったんですか?」
「そうじゃな。基本的に物静かな人じゃった。怒ると怖かったがのう……まあ大体ワシが悪かったんじゃがな」
「重蔵さんは昔からやんちゃしてそうですもんね!」
椿の言葉に遠慮はない。
「爺さんは俺がチームにいた時もかなりやらかしてたもんな」
「例えば?」
「実験って称して何かやれば大体爆発する」
「よくあることですね」
よくあることなのだろうか。
「まあええじゃろ。とにかく、ギャグ補正を鍛えるために来たわけじゃな?」
「そんなところだな。で、ギャグマンガを読む以外で何かコツってあるか?」
「ふむ……ノリと勢いじゃな」
それはコツとは言わん。
「さすがにそりゃないぜ。爺さん」
「しかしのう……本当にノリと勢いじゃぞ。まあ要するに、自分に自信を持てばいいのじゃ」
「そんな少年漫画みたいなこと言われても無理ですよ。そもそも偏差値八十いるんですし」
「ん?そうなのか?ワシの学校の成績ヤバかったし、ワシ自身もパーフェクトレッドじゃったぞ?」
「え、そうなんですか?ていうか学校としてそれって大丈夫なんですか?」
「問題ない。赤点も みんなでとれば 平均点 とよく言うじゃろ?」
言わん。そのノリは赤信号だ。
あと赤点が平均点だろうが言ってる本人の成績がゴミレベルであることに変わりはない。
「……世の中って学歴で決まらないんですね」
重蔵の暮らしぶりを見ていて思う。
かなり文明的な家具や家電が置かれており、相当金を持っているのがわかる。
「オンリーワンになれる才能があるのなら学歴なんぞ要らんよ。そういったものは自分にしか先を見据えることができないサービスを生み出すことができる。消費者は基本的に、便利なものを使えるのであればだれが作っていようと変わらんからのう」
「そんなものですか?」
「そんじゃもんじゃ。しかも、魔戦士がいて、モンスターもいる時代じゃ。腕っぷしが強い方が世の中わたっていけるってもんじゃぞ」
「ふむふむ。でも勉強はできた方が学校は楽しいですよ?」
「そんな眩しい目で残酷なこと言わんでほしいのう……」
椿に遠慮と悪気はない。
「とはいえ、一応意識しておることはあるからのう……まあとりあえず、嬢ちゃんたちが今どれくらい強いのかわからんからな。ワシと戦ってみるか?」
見た目通り脳筋なのかもしれない。




