表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

749/1408

第七百四十九話

 秀星が部屋を出ていったあと、アトムは机で腕を組んで少し考え込む。


「……神祖。か」


 アトムとしても、圧倒的な出力を持つ神器を使う身だ。

 ただ、それでも最高神の神器であり、神祖というランクには至らない。


「……神が死というものに対して答えを持った時に進化するという話を聞いたことがあるが、それでどこまで進化するのだろうか……」

「それは死ではなく、恐怖という概念がかかわるものだ」

「!」


 部屋の中には誰もいないのに、答えるものがいた。

 そして次の瞬間、アトムがいる部屋のドアがバラバラに斬り刻まれて、崩れていく。

 その奥には、紫色の長髪をなびかせる貴族風の格好をした男が立っていた。

 右手には黄金に輝く剣を握っており、その剣でドアをバラバラにしたと思われる。


「……ドアの入り方がかなり斬新だね。で、どちら様かな?」


 アトムは余裕を崩さずに問う。

 男はそんなアトムの様子に笑みを浮かべると、問いに答える。


「俺は強硬派所属、破城(はじょう)神祖ドーラー。貴様が持つ最高神の神器を手に入れるために来た」

「ほう?強硬派。しかも破城とは……」


 城の『破壊』というよりは、城の『廃止』という意味を持つ言葉だ。

 厳密には必ずしも城を壊す必要はなく、石垣や土塁を撤去したり、内堀や外堀を埋めることで判定されることもある。

 アトムはそこまで考えて、『思ったよりも攻撃の種類が多いのかもしれない』と判断する。


 そしてとりあえず、アトム自身も立ち上がると、右手に剣を出現させた。

 彼が持つ最高神の神器。『豪速神剣(ごうそくしんけん)タキオングラム』である。

 面倒な能力は持っていない。

 ただ、速くて重い斬撃を可能とする。それだけである。


「……なるほど。それを使いこなしているというわけか」

「この剣に見覚えがあるのかい?」

「ああ……剣術神祖ミーシェが最高神であった時代、自分用に作った剣だ」

「なるほど」


 基本的に神は神器をかなりの数作成可能である。

 しかし、神器に数多くの制限を設ける必要があり、神器を入手したとしても装備できないパターンも存在する。

 そして、制限に同じ『意図』を設けることもまた不可能。

 言い換えるなら、『作った本人が装備できる神器』を作れるのは一つだけである。

 剣術において神祖というランクに立って、神力を剣にする技術も向上し、結果的に物質としての剣を用意する必要すらなくなったのだ。

 その結果としてダンジョンの奥に安置されたものだが……。


「行くぞ」


 ドーラーは剣を構えなおして突撃する。

 圧倒的に速いが、少なくとも本気ではない。

 アトムもまた剣を振って、ドーラーと鍔迫り合いになる。


「ほう、この俺と力比べができるとは……人間のスペックとは思えんな」

「生憎、天才と言われるくらい強さはある。なめてかかってくるのは自由だが、後悔しないことだ。それと私の知り合いが言うには、神もまた人。あまり自分に対して人間を超えた扱いをするべきではないよ?」

「フン!」


 ドーラーは鼻を鳴らす。

 次の瞬間、ドーラーの目が光った。

 それを見たアトムは、即座にドーラーの視界から消える。

 すると、アトムがいた部屋の全てが破壊された。


 バカでかい破砕音と爆撃音が鳴り響く。

 窓がある壁が完全に破壊されて、部屋の中にあったものが粉々になりながら外に出ていった。


「ふむ。あまりこういう部屋で戦うのは狭すぎるね。というか、このスーツは百万円を超えるから、ちょっとそういう攻撃は遠慮したいのだが?」


 空中に立ったアトムが剣を構えながらそういった。


「……そこまで高級感があるスーツには見えないが?」

「ああ、見栄えの方ではなく、あくまでも戦闘用としての話だよ。見栄えに関しては大体五万円といったところかな?まあ私からすれば普段着みたいなものだよ」

「ふむ。この時代の価格に関しては調べているが、やはり一筋縄ではいかんな」

「それで済んだら面白くないだろう?」

「なるほど、違いない」


 ドーラーは部屋から飛び出た。

 そして、空中で立っているアトムに対して剣を叩き込む。

 アトムはそれに対して剣を振って、ドーラーの剣を弾いて蹴りを脇腹に叩き込んだ。


「グッ……」


 魔法陣がしっかり乗った蹴りであり、ドーラーが山の方に吹っ飛んでいく。

 そのまま山の一部が破壊されているが、神祖の戦いだ。アトムとしてもこの程度で気にすることはできない。


「アトム魔法次官!」


 破壊されたドアから職員が入ってくる。


「ああ。神祖が攻めてきているだけだ。すぐに戻ってくるから、ちょっと集まってきている野次馬とマスコミの対応を頼む」

「ええっ!?」


 めちゃくちゃである。こんな上司は嫌だ。


「少々、場所を変えさせてもらおうか。私の仕事場で暴れないでいただきたい」


 そういって、アトムは空中を蹴って吹っ飛ばしたドーラーを追った。


 ★


「椿ちゃん。一つ聞きたいことがある?」

「む?なんですか?ミーシェさん」

「破城神祖ドーラーを知ってる?」

「ええと……紫色の髪を長くしてた人ですよね」

「そう」

「確か……給料明細をエプロンの中に入れて洗濯機で回していたような?大豆屋さんで働いてますけどエプロンに給料明細の欠片がついてました。食品に混ざったらどうするのかと店長にキレられてましたよ」

「……大豆屋?」

「はい。大豆農家と契約してるそうですよ。よくシカラチさんが買いに行くそうです」

「意外と未来では真面目に働いてる……」

「で、ドーラーさんが何か?」

「いや……もう何でもない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ