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第七百四十話

「そういえば、リビアさんは学校でどんなことを学んでるんですか?」


 土曜日と日曜日は休日である。高校生にとっては大体そんなものだ。

 この日に何をするのかは確かに人それぞれだが、椿は外に出てはしゃぎまわるタイプだ。

 もちろんテレビゲームなどもやるが、そもそも人と何をして遊ぶかというタイミングでジェンガを持ち出すことを考慮すると、思ったより流行っていない可能性はある。

 まあそれはそれだ。

 さすがにリビアという神兵がやってきたら話は変わる。


「主に、それぞれの星における基本部分が変わらないように調節する方法を学んでいる」

「……?」

「要するに、紡がれる歴史みたいなものがあらかじめ決まっていて、それを逸脱する原因を取り除くことだな」

「そうともいう。そして、その星ごとで行うべきコツのようなものも学ぶ」

「例えば?」

「『草原で目覚めたらステータスオープン』みたいな感じ」

「……その闇雲な確信の根拠はどこから来るんですか?」

「そういう文化」

「事前知識がかなり必要だな……」


 確かにまず『ステータスが存在する異世界に来たんだ!』ということを確信していないとできない行動だ。

 普通なら驚愕し、困惑し、何もできずに呆然だろう。

 その状況下で即座に『異世界転移確認』ができるメンタルは計り知れない。


「秀星君は百年前の時間軸のグリモアに行ったことがあるんだよね。どんな感じだったの?」

「あ、私も気になります!未来ではあまりお父さんが教えてくれないんですよ!」

「俺が一人で転移した時か?あたり一面荒野だったよ」

「草原じゃないんですか?」

「そもそも草原っていうのは牧草地として使われるものだからな。不必要な草を抜いて、牧草の種をまいてきちんと手入れをする必要がある。まあ、放置したら荒野になるからな。別に不思議な点はなかったぞ」


 秀星が言うように、基本的に草原というのは牧草地である。

 中世のヨーロッパなどでは、この牧草地を利用して牛を育て、乳を取り、そこから作り出すチーズが貴重な栄養源であり、収入源なのだ。

 草原の手入れを怠ると、家畜が適さない草を食べて乳の質が低下し、チーズの味に影響する。


 RPGではよく雑魚モンスターの出現地帯。もしくは岩山などを避けて通る場合のフィールド上の道のような役割を果たすことがあるが、さすがにモンスターが出てくる中で草を見極めて抜いて手入れをするというのは地獄である。秀星だってできないわけではないがやりたくはない。


「何か面白い話ってありますか?」

「初めて人が集まる街にたどり着いた時の門番が転生者だってことが後で分かったんだが、そいつの前世がUSBメモリだった」

「無機物って転生できるんですか!?」

「できるぞ。というか、人が無機物に転生することだってあるからな。だったら逆もしかりだ」

「さすがに無理があるような……」

「事実だから仕方ないね」


 世の中いろいろあるのだ。

 何の変哲もない普通の人間がビルを根こそぎ持ちあげてシャカシャカしたりお手玉することに比べれば何も不思議なことはない。


「まあそれはいいか。で、リビアはこれからどんなことをする予定なんだ?」

「神祖を相手に戦うことを想定して、手段の開発をすることが主な予定」

「なるほど」

「それで、最初に頼みたいことがある」

「なんだ?」

「日本円の資金援助」

「……お金持ってないの?」

「持っていないわけではない。ただ、私が派閥に参加している神が音信不通で、私との金銭的な部分の事務処理が止まってる」

「その神って?」

「堕落神ラターグ」


 そういえばあの人、音信不通扱いなのか。

 シカラチと一緒にどこかに行って、『秀星君の家には戻らないからね』とか言っていた気がするが、どうやら天界にすら戻っていないらしい。


「全知神レルクスがかかわってるのに持ってないのか……」


 全知神レルクスは文字通り、すべて知っている。

 すでに起こったこと、これから起こること、それらすべてを知っているのだ。

 そしてたった一つの目的があり、それに沿って行動する。

 ただ、密接にかかわる場合はそれ相応に援助してくれるので、日本円くらいはくれると思うのだが……。


「どのみち秀星はたくさん持っているからもらえば問題ない。と直々に言われた」

「雑すぎますね……」


 椿が苦笑する。

 一応事実ではある。

 世界樹商品の販売は今も続いている。

 世界樹から取れるものの多くが消耗品であることがその最大の理由だろう。

 しかもアトムに言われて販売戸数に制限を掛けているのだ。


 ……加えて、今は魔力量調節の一環として、そもそも地球ではなくグリモアに世界樹がある島を移動させている。

 結局世界樹関係の商品を提供できるのが秀星だけなのだ。

 しかも需要がまだまだある。

 そりゃ金だって集まるというものだ。競合する組織がいないのだから。


 日本中のインフラ予算に金を突っ込んではいるものの、それだけでどうにかなるほどの量ではないのである。

 そもそも膨大な魔力と十個の神器があるので、金が必要になることが少ない。自力でオーケーなのだ。

 確かに資金援助として渡すことは可能である。


「はぁ……まあいいや。どれくらいいるんだ?」

「大体二千億円くらい」

「わかった」

「感謝する」


 というわけで、二千億円を援助することになった。


「あ、口座に振り込んでおくからそっちから使ってね。現金用意は面倒だから」

「わかってる」


 とりあえず援助金としてはそんなものらしい。


「……秀星君。そんなに持ってたの?」

「いや、まだ結構残ってる方です」


 世界一位の魔戦士だからね。これくらいは持ってるのさ!


「というか、二千億円って何に使うんだ?そもそも日本国内で、金で買える範囲のもので神祖をどうにかできるとは思えないんだが……」


 秀星のツッコみどころはそんな感じだ。

 そもそも秀星自身、神を相手にする際に金を使っていない。

 十個の神器の力を使って戦っていたのだ。


「どちらかというと余波の問題。神祖と戦うとなると周りのあらゆるものが破壊されてもおかしくない。金で解決する方が都合がいい場合も当然ある」

「まあ、それもそうか」


 神祖を相手に普通に戦っていた高志と来夏がおかしいだけで、本来ならすさまじい出力を持っている。

 確かに金があれば解決が速くなるパターンもあるだろう。


「そういえばお父さん。今のところ神祖の動きはどうなんですか?」

「いやー……これがさっぱりわから――」


 ピンポーン


 ……とインターホンが鳴った。

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