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第七百十七話

 椿はスポーツブラとホットパンツとスポーツシューズのみというドエロい格好で走り回るとしても恥ずかしがるような子ではない。

 ……ちょっと常識の教育を間違えている気がしなくもないが。


 ただ、それは言い換えれば『その格好で走り回ることに対して何の思い入れもない』ということである。


「飽きました」


 地面に座ってセフィコットと話す椿。

 ……セフィコットはあくまでもぬいぐるみであり、発声機能が備わっていないので話すことはできないのだが、なんだか椿ならできそうなのでこれ以上の追及はしない。

 椿の言葉に『そうか』と頷くセフィコット。


「あと、なんだか強い生徒が近くにいるような気がします。そろそろ、私が考えた戦闘用の付与を緻密に積んでいる制服の方に着替えておいた方がいいと思います!」

「!?」


 セフィコットは驚いた。

 椿の提案そのものには何の違和感もない。

 ただ、『椿が実用的で、しっかり考えた手段を取れる』ということに驚いたのだ。

 椿は本当の馬鹿ではないのである!

 ……じゃあ今までなんだと思っていたのかということになるのだが、その追求は不要だ。墓穴しか掘らない。


 ちなみに、すべてのカメラと直接通信が可能なセフィコットは、生徒がどこにいるのかが全てわかっている。

 これは、盤壁のマスターキーを使ってダンジョンの外で準備をしている英里に対しても適用されている。

 そのため、椿が感じた気配は間違っていないのだ。

 そして、『強い生徒』という情報も。


「というわけで、セフィコットさん。私の着替えはどこにありますか?」


 というわけで簡易更衣室を取り出して設置する椿。

 このままだと、椿がこのダンジョンの通路の中で着替えだしかねない。

 ……未来では実際にその手の事件が発生しているのである。

 未来からのセフィアの情報を数多く受け取っているため、放送コードに引っかかりそうなことが発生したら止めなければならないのだ。


 ここまで言っておいてなんだが、未来のセフィアは椿にどんな教育をしていたのだろうか。


 十数秒後。


「着替えました!」


 沖野宮高校の制服姿に戻った椿。

 セフィコットは『こっちもいいね。うん。何を着ても似合うよ』とほっこりした。

 椿は素直で元気いっぱいで倫理観があって可愛らしくてしかも胸がでかいのだ。

 愛されやすい体質である。いじられやすいかもしれないが。


「さて、れっつごー!」


 元気いっぱいな様子で再び歩き出す椿。

 そしてそれについていくセフィコット。

 神出鬼没設定が地にめり込んでいるが、椿はセフィコットにも愛されるのである。多分。


「おやっ?黒馬先輩です!」


 角を曲がると、そこにいたのは黒馬と雫であった。


「つ、椿ちゃんだったのか」


 なぜか嫌な汗を流していた黒馬だったが、椿を見て安堵する。

 嫌な汗を流していた理由は隠すほどのものではない。

 グラスプネックレスという『チケットの量と場所を把握する』アイテムを持っている黒馬は、『自分の近くにとんでもない量のチケットを持っている人間がいる』ということを認識できるのだ。

 ただし、彼が認識できるのはチケットの量であり、もっとわかりやすく言えば『現金』だけなので、預金通帳に預けられている場合はわからない。(ただし、生徒たちがセフィコットから買った金庫の中身は分かる)


 そして、預金通帳を持っておらず、一歩二百ポイントで走り続けていた椿の所有ポイント量は尋常ではなく、最高譜面である一万ポイント券を膨大に所持している。


 黒馬が認識する限り、個人単位で見ればポイントチケットの量と実力はほぼ比例する。

 勿論、ランキングをガンスルーして、チケットを効率的に使い、個人間の推移しか見ていない生徒もいるので一概に言えないのだが、おそらく水や食料程度しか購入していないと思われる千秋のような生徒もいる。

 ただし、千秋はすべてのチケットを銀行に預けていて所持現金がゼロ。

 みたいな形で結構複雑なのだが、椿のように『現金で大量に持ち歩く』という生徒がいるのかと焦っていたわけだ。

 椿だったので安堵している。


「椿ちゃん。その頭の髪飾りは……」

「むむっ!やはり気が付きましたか!」


 そりゃ気付くわ……。


「ですが、まだ黒馬先輩と私は同盟関係ではないので、教えることはできません!」

「あはは……」


 雫が苦笑している。

 椿は『他人が図鑑を使ってアイテムを確認している』という認識がないのだろうか。

 ちなみに、黒馬と雫が『これはヤバイな』というアイテムでこの髪飾りについて議論しているので、当然認識している。


「椿ちゃん。ボスモンスターは一人で倒したのかい?」

「いいえ、英里先輩の派閥に混ざって倒しました!」


 黒馬は『なるほど、英里ちゃんか。だから椿ちゃんは預金通帳をもってないんだね』と納得する。


「英里ちゃんは何をしてるのかな?」

「むうう……全然わからないですね。盤壁のマスターキーを持っているので、外にいる派閥の人とごにょごにょやっていると思います!」


 ペラペラとしゃべる子である。


(英里がマスターキーを……外にいる派閥の生徒まではまだ情報を集めてないな。どうしたものかね?)


 黒馬は少し考えたが、ここでは結論は出せないと判断する。


「椿ちゃん。あまりチケットを手に入れすぎるのもマズイかもしれないよ」

「え、なんでですか?」

「アイテム図鑑に『課税保証書』っていうアイテムがあったでしょ?あれを使えば定期的に徴税を可能とするわけだけど、そこで『累進課税設定』をされたら悲惨なことになるからね」

「?……累進課税ってなんですか?」

「簡単に言うと、多く持っている人から多くもらって、小さく持ってる人からは小さくもらうってことだよ」

「なるほどです……あっ!確かにヤバイです!」


 このバトルロイヤルにおいて、預金通帳はかなりセフィコットに対して発言権を持っていると言い換えていいのだが、チートアイテムに関してはおそらくすべて秀星が作ったものだ。

 現金だけなのか、それとも預金通帳の中身も抜くのかは不明だが、いずれにせよ『免税保証書』がなければ抜かれることに変わりはない。

 英里の『派閥』のような集団を抱えている生徒は尚更だろう。

 加えて、派閥としての組織力を活かして、所属していない生徒とも『契約』を交わしている可能性もある。

 いずれにせよ、抜かれると面倒だ。


「むうう……あっ!いいことを思いつきました!チケットで保有するのではなく、同じ価値の貴金属を購入すれば、チケットを抜かれることはありませんよ!」


 むっふーー!と胸を張る椿。

 ……黒馬は盛大に迷う。

 黒馬は課税保証書の現物を知らない。

 そして書類という形を取っているためか、アイテム図鑑にもレイアウトが記載されたものはなかった。


 そのため断言は出来ないのだが……。


(う、うーーーん。椿ちゃんに教えるべきかな。固定資産税……ていうか、『所有する』ということに対して課税できるってこと)


 ついでに言えば、それほど価値のあるアイテムを持っていたとしても、税金を払うときは現金で払わなければならない。

 盛大に迷った結果……。


「そうかもしれないね。ただ、一個にすると盗まれるとアレだから、数を用意しておくといいと思うよ」

「はい!」


 黒馬の発言の裏には、『もし一個のダイヤモンドに変換しておいたとして、徴税されたとき、ダイヤモンドが削られるのではなくまるごと差し押さえされたらそれこそ悲惨だけど、これなら大丈夫でしょ』という考えがある。

 ダイヤモンドの価値が莫大。

 だから資産税をチケットで払え。

 え、チケットがない?ならダイヤ没収な!

 という流れが実行されかねない。


(金に対する知識が薄い生徒たちに『管理能力』を要求するとは……このバトルロイヤル。もうランキングどころの話じゃ済まないぞ。絶対にわかってないだろ秀星君!)


 勿論、最もいいのは誰も課税保証書を手に入れないこと。使われる前に消滅させること。椿の作戦に限れば、次にいいのは『ものに対する税金』というものを保証書を手に入れたものの知識にないことだろう。


 いずれにせよ、金という概念が前提になっている現状で、『税金』は面倒なのである。

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