第六百九十六話
風香は寝ているときは普通でした。
……というわけで、次の日。
沖野宮高校は魔戦士学校であり、魔戦士は『モンスターを倒してその素材を手に入れて魔戦士市場に貢献する』ことが最大の目的である。
もちろん、世界には『創造魔法』が存在するため、ダンジョンに潜らなくとも素材を手に入れることそのものが不可能というわけではない。
しかし、そのような創造魔法を使えるものは少なく、大人数がダンジョンに向かう方が大量に素材を確保できる。
という風潮が広がり続けることで、日本全体が強くなっているといえるので、それは悪いことではない。
……まあ、そのような風潮だと、『国に力を持たせるべきではない』と言い張るグローバリストがうるさいのだが、秀星をはじめとした頭のおかしい魔戦士たちの存在により、魔戦士市場は非常に金になるので次第に反対は薄れていくだろう。否定されていたものが金になると判断すればメディアだって反対しなくなるものだ。オタク文化と同様である。
「私はお父さんと戦ってみたいです!」
とはいえ、『モンスターを相手にした戦術だけ』を学ぶのは少年少女たちにはストレス発散が足りない。
日々、沖野宮高校で授業を受けていて、そして新しい魔法に対する知識を獲得しているのだが、ダンジョンでしかその力を発揮することはない。
その場合に何をするのかとなれば、当然、人を相手に戦うのだ。
お互いに後遺症が残らないように緻密に作り上げられた結界を使うため、多少痛いことはあるが大きな怪我をすることもない。
……神器持ちを含め、一部の魔戦士には『いいか。絶対に本気を出すんじゃないぞ。フリじゃないからな!いいか!絶対に本気を出すんじゃないぞ!』と念を押される。
さすがに修繕費ばかりに金をかけるわけにはいかないのだ。直すのはタダではない。
「あー。まあいいぞ」
椿からの提案に頷く秀星。
授業中に生徒同士で模擬戦をすることになったのだ。
木製の武器を使って最大限に安全に配慮されたものだ。
魔戦士社会になったからと言って、すべての大人が刃物を子供が振り回すことに抵抗がないわけではない。
むしろ抵抗があるのが普通である。
もちろん、新規参入がしやすい上に金になる部分が多いのは事実なので入ってくるものは多いのだが。
「椿ちゃんの行動って……なんかすごく突発的だね」
「まあ、何も考えずに生きているからだろうな」
「かわいらしいですけど……将来がちょっと不安になるような……」
雫、羽計、エイミーの意見だ。
そしておおむね間違っていない。
「私も強くなっていることを証明しますよ!未来ではお父さんもお母さんも私に過保護ですからね!自分でもいろいろできることを示します!」
そういって両腕を振り上げて『ムッハーーーーー!』と主張する椿。
それを見て、『そういう仕草が入るから、『頑張ってる子』扱いされるんだよなぁ』と生徒たちは思う。
椿はかわいいし、基本的に何も考えていないと思うが、強くなりたいと考えているのだろう。多分。
そして自分の力を示したいと考えているのだ。
まあ要するに……見た目以上に幼く思えるが、椿もまた十五歳の少女なのだ。
評価が気になるのではなく、『自分でできる!』と言いたい年頃なのである。
「うん。まあ、頑張れ」
そういって椿の頭を撫でる秀星。
「えへへ♪」
そして気持ちよさそうにしている椿。
椿は強い。
だが、『強くなる』のはまだ先である。
戦う前から、そう分かった。
★
「どりゃああああああ!」
「ふああ……」
そして実際に、秀星は木の剣を握り、椿は木刀を構えて戦っているのだが、一発も秀星には当たらない。
未来ではかなり教育が進んでいるのか、椿のセンスは悪くない。
だが、秀星が相手ではどうにもならない。
「えい」
「はうっ!」
そして時々、剣の腹で頭をベシッ!とたたかれる。
「お、おおおお……」
そしてこんな感じで悶絶するのだ。
「お、お父さん強いですね」
「当然だ」
さすがに娘には負けません。
「ですが、私にもいろいろ考えたことはあります!」
「ん?」
椿はそういって、ポケットから魔法袋を取り出した。
容量の小さい異空間袋である。
その中に手を突っ込んで、何かをつかんで引っこ抜く。
……バールだった。
「……」
秀星は頭痛が痛くなってきた。
「フッフッフ。いくらお父さんでも、ギャグ補正にはかないませんよ!」
椿がバールを振り下ろすと、空間が『バキャッ!』と破壊される。
そして、秀星のすぐ横に空間がひび割れた。
「どうです。すごいでしょう!」
秀星はポケットからその辺で売っていた水鉄砲を取り出してひび割れた空間に向かって放出。
そのまま空間を通って椿の顔面にぶっかかった。
「むぎゃあああああああ!」
悲鳴を上げる椿。
単なる水であり、市販故に威力も大したことはない。
純粋に驚いただけだろう。
「……」
だんだん言葉を発しなくなっていく秀星。
椿がギャグ補正に手を出したことで、『そうか、椿もそういえばこっちに来ていたんだな』と黄昏ているのだ。
まあ、そのカテゴリの範囲で言えば秀星は黎明期から属しているのだが、さすがに歓迎するべきかどうかは迷う。
「はっはっは。まあ頑張れよ椿」
「むううううううう!絶対に一発当てて見せます」
そういって頑張ろうとバールと木刀を構える椿。
それをみて、秀星は『ついに世界はここまで来てしまったか』とほほ笑むのだった。
現実逃避ともいうが。




