第六百八十話
「……思ったより進んでいるな」
宗一郎は様々な偵察機を飛ばして、生徒たちの様子を確認していた。
手に持っているスマホには様々な角度からの映像が表示されているが、それらを見る限り、宗一郎の想定よりもはやい速度で進んでいる。
「というより……今回私たちは地図は渡されているが、そもそも山登りに関する知識は入れていないはずだ、引率の先生もいない。そう考えると予想以上だ」
予想以上の速度で進んでいることが悪いことだというつもりは全くない。
ただ、正直なところ、この場にいるほとんどのメンバーは山登りは初心者のはずだ。
彼らは確かに地図は渡されているが、本当にそれだけである。
マスコット・セフィアも見張っているので何かあったらわかるので、管理している側としては問題ない。
とはいえ、地図一枚で山を登れるかどうかとなると、宗一郎としては疑問に思う。
「英里は訓練をしっかり積んでいるから問題ないといっていたが……本当にそうなのかもしれないな。ただ、英里が率いている二十人の沖野宮高校の生徒の動きは全体の中で遅い方だが」
別に競争しているわけではないので遅くても問題はないし、団体行動をしていれば遅いのは普通である。
「さてと、何やら最高神やら神祖がいるようだが……まあ、今は少し拗ねているようだし、私はかかわるようなタイミングではないか」
一応、宗一郎もラターグとシカラチに関しては情報を持っている。
ただ、その情報は持っていたからと言って宗一郎に活かせるものではない。
宗一郎は神獣と戦ったことはあるくらいで、神を相手にしたことはない。
ぶっちゃけ興味あるの?と聞かれれば『ない』と断言するが、それはそれとしよう。
自分に迷惑が掛からないのであれば、どこで何をしていたとしても文句を言うつもりはない。
そして聞いてみると、その神はどちらも日向ぼっこをしているというではないか。
触らぬ神に祟りなしというわけではないが、そっとしておけばいい。
秀星も来夏にちょっかいを出させてみたそうだが、結果的に何か大きなことがあったわけではなかった。
元々、来夏とその神祖では何かが起こるような組み合わせではなかったのだろう。
「秀星は『ギャグ補正の強さで来夏に負けてるかも……』と言っていたが、それはどういうことなんだろうな」
宗一郎は一点だけ、その部分が気になった。
例を挙げるならば、秀星がバールを振り下ろしてシカラチたちの傍に行こうとしたとき、その空間は腐ったようにボロボロになって『元に戻った』そうだが、来夏がやった時にはそのようなことは何も起こらなかった。
魔法でも物理でもなく、『ギャグ補正』という力しかかかわっていない現象で、明確に差ができている。
単純にシカラチが面倒だと思ったわけではないだろう。
秀星の空間破壊だって計画性がないことで、割った後ですぐに対応したのだ。
であれば、来夏のそれに対しても即座に対応しても不思議なことはなにもない。
だが、現実として来夏の空間破壊はそのまま来夏が思う通りになり、秀星のそれはすぐに元に戻された。
……もちろん、秀星自身もその空間破壊を戻すことは可能なのだが、シカラチが『同じ手段を用いて直そうとしてできなかった』可能性があるので、考えざるを得なくなった。といったところだろう。
「ギャグ補正の強さか……」
自分もあると確信する宗一郎。
当然だが、彼も一応『常識』と呼ばれるものは理解している。
自分があまりにも持っている『頑丈さ』だろう。
正直。怪我をしたことは一度もない。
英里もひょっとして持っているのではないかと思うときもあるが、今は宗一郎の話だ。
仮に持っているとして、それがどの程度なのか。
というより、『ギャグ』という言葉の強さを数値化できるってどんな世界だ?とも思うのだが、そこに行きついてしまうと議論する意味がないので一度回避する。
「……はぁ、神器使いとしてここに立っているが、まだまだ周りに追い付いていないことが多いな」
宗一郎はそんなことを呟きながら、スマホで再び監視するのだった。




