第六百七十九話
「ほう、なるほど、あいつが神祖ってわけか」
来夏、降臨!
……というわけで、ラターグとシカラチが日向ぼっこをしているところに、来夏が到着した。
当然、空間をぶち割って登場である。
シカラチはうっすらを目を開いて、来夏を見る。
「……それ、どうやったの?」
「ん?……ああ。バールを振り下ろしたらなんかこうなるんだ」
「末期だなこの世界」
同意しよう。
「それで、君はここになにしに来たんだ?」
「いや別に。特に何も用はねえな。ただ、神祖っていうのに会うのは二人目だからよ」
「……なるほど、ライズと戦っていたのは君か」
シカラチは納得したようにうなずいた。
「確かに気になるのは分かるが、だからと言って力を見せるわけにもいかないんだけど」
「いや、こうして話してるだけでも、多分何となくわかるような気がするからいいぞ」
「断言ゼロじゃないか……」
来夏の『実は何もわかってません!』発言に溜息を吐くシカラチ。
とはいえ、来夏の『悪魔の瞳』は基本的に、『何がどこにあるのかがわかる』スキルであって、それを理解する機能は存在しない。
そのため、来夏の『わかっていない』という言葉に嘘はない。
ただし、『わかるような気がする』となった場合、その判定は本人の中でもかなりあいまいだ。
ギャグ補正という概念は、秀星にもまだその答えが出せない代物。
油断は禁物だ。
そして、ライズを正面から相手にした時点で、シカラチは来夏に対して油断はない。
来夏のスキルはライズの中に寄生していたパライドを見つけ出すほどの性能がある。
それだけで、来夏の『悪魔の瞳』がよほどの『特別製』であるという判断ができる。
神祖であるシカラチ自身、あまりおイタが過ぎると全知神レルクスから何をされるかわからない。
必要以上に争いを望んでも仕方がないのは事実である。
そもそも面倒と思っていることもあるが。
「それで、見に来て、これからどうするんだい?」
「まあ、オレもここでだらだらするさ。人間っていうのはな。ただ単に話しているだけでも意外に面白い組み合わせっていうのがあるんだぜ?」
「僕は一応『神』なんだけどね」
「でも、『神ってなんなんだ?』って言われても説明できないだろ?せっかく『人』とは違う存在になれたにも関わらずだ」
シカラチは一瞬口を開きかけて、そして閉じた。
おそらく『君も人間が何かを言われてわかるのかい?』と問おうとしたのだろう。
だが、来夏の言葉で、『神になったんだから、人と比較できるはずだ』と言われたのだと理解する。
そして返答しようとして、頭の中に陳腐な言葉しか思いつかなかったから、口を閉じた。
来夏の『今までとは別の視点を持つための質問』に対する答えは、ひとまず、シカラチは一つのことを認めたうえで返答する。
「まあそうなんだろうね。所詮、神っていうのは『人の想像力の範疇にしかいない』という概念的限度がある。そこは認めよう。だが実際、僕らのような神というのは人とは体を構成する物質そのものが違うものだよ。そして、君たちより圧倒的に性能が高い」
「オレたちよりも性能が高く、そして違う物質が使われていたら『神』になれるのか?だったら、『脳以外を全て高性能な機械に変換したサイボーグ』は『神』になるってことだな」
来夏の答えにシカラチは顔をしかめる。
実際シカラチも、サイボーグ如きが『神』を自称しているところを見て、怒りと感じた経験があるからだ。
「……なるほど、確かに『単に話しているだけでも面白い組み合わせ』はあるものだね。ただ、君のそれが極論だと指摘させてもらうが」
「何言ってんだ。もともと極論の押し付け合いだろ。『普通の答え』なんて存在しないんだからな」
極論を提示する。ということは、普通の議論であれば『逃げ』や『論点のすり替え』に使われる。
だが、『もともと答えがないこと』や『真実が定着していない概念』に対する議論の場合、極論をぶつけ合って、少しずつ認識を変えて妥協案を出すしかない。
『普通の意見』が出てきたところで、互いの意見は上下に動くことも、左右に揺れることもない。
この場において『極論だ』という指摘をするシカラチの方が、『逃げている』といえる。
「……」
シカラチはめんどくさがり屋だ。
人の意見を聞き入れるつもりもなければ、人に合わせようとすら考えない。
だが、なんとなく、『押されている』『負けている』と思うような立場になるのが嫌なのは、変わらない。
「今、悔しいって思ったな。聞き流せなくなったな。オレはそれがわかっただけでも十分なんだが……」
「なら、もう話は終わりかい?」
「ああ、オレの降参でいいぜ」
ただ、負けたくないと考えているシカラチに対して、『勝ちたい』と来夏が考えていない。
勝った時の報酬もなければ、負けた時の罰もない。
そんな『子供みたいな口喧嘩』で、来夏は面倒なことを続けるつもりは毛頭ない。
もちろん、本気になるべき子供みたいな口喧嘩というものがあることを来夏も認めるが、それはお互いの強烈な『思想』がぶつかった時だけだ。
少なくとも……諸星来夏という人間と、シカラチという神祖では、その『思想のぶつかり』は起こらないだろう。
あまりにも立場が違いすぎる。
ただこの場では、少しだけ、来夏の言葉が真理に近づいていただけ。
それだけのことだ。
ただシカラチは、『明らかに負けたと思っていない降参』を提示されて、悔しいと思わないわけではない。
「フフフッ。シカラチ。思ったより人間って面白いでしょ」
「……そうだな。そこも認めよう」
楽しそうに微笑むラターグに対して、溜息を吐くシカラチ。
「ずっと長い間封印されてて、頭の中が全然起きてないんじゃない?」
「うるさいな。数兆年という年月を睡眠に使う君にそんなことを言われたくない」
「言っておくけどね。僕だって数多くの思考実験を繰り返している身だよ。君よりも視野は広いさ」
「……」
シカラチは来夏とラターグに背を向けた。
「あれま、すねちゃったみたいだね」
「意外と子供っぽいんだな」
「普段から変なことを考えてない証拠さ」
「なるほどな。変なことを考えて、そしてそれを実行してるやつが、『世の中』ってものを変えていくのが世界だ。ひょっとして、『神祖』の中ではあまり成功してない方なのか?」
「そんなもんだよ。僕らにとって『安定』なんてクソみたいなもんさ。神っていうのはね、常に『挑戦』しないとダメなんだよ。要するに、僕はダメな奴なのさ」
「ラターグは芯があるんだな」
「そういうこと♪」
どうやらラターグはシカラチを友達だとは思っているが、誰と合うのかとなるとそれは来夏や高志のような馬鹿になるようだ。
「まあシカラチ。頑張れよ。お前は時間があるんだし、いいことあるって」
「……」
「フフフ、人間にそういうところを指摘される神祖ってあまりいないもんねぇ。シカラチ。このまま『箱だけ頑丈な権力者』のままで終わりたくなかったら、変なことをたくさん考えた方がいいよ。それじゃあお休み」
そういってラターグは『zzz……』と寝始めた。
「オレも見回りに戻るから、じゃあな!」
そういって、来夏も自分がぶち破った空間に戻っていった。
「……うるさいなぁ」
シカラチは最後にそれだけぼそっと呟いた。




