第六百六十九話
次の日に出発するということは、その日は準備に使う。
というわけで、夕飯と風呂。寝床に関しては、沖野宮高校の生徒たちも天窓学園がもつ宿泊施設を使っている。
「よし、お前たち、用意はいいか?」
「「「おう!」」」
とある暗闇の中。
天窓学園の生徒たちの男子が集まり、作戦会議をしていた。
暗視スコープ。
透視レンズ。
マジックハンド。
その他諸々『とあること』に使えそうなものがたくさん置かれている。
「いいか?いま女子たちは入浴中だ。よって、我々はとある作戦を遂行できる」
「「「おう!」」」
「俺たちは同士だ。一度のミスも許されない任務になるだろう。だがお前たち、俺はその桃源郷にたどり着くため、俺に力を貸してくれ!」
「「「イエス!ボス!」」」
「それでは行くぞ。ポイントチケットが大量に入ったアタッシュケースを割り当てられた自室に放置する。愚かな朝森秀星の部屋に!」
男子たちが全員うなずく。
……が、一人、手を挙げた。
「どうした?」
「いえ、なんでわざわざ女湯を覗きに行くときの掛け声なんだろうなって思って……」
「そのほうが雰囲気出るだろ」
「当然ですね」
「俺も質問いいか?リーダー」
「なんだ?」
「リーダーは女湯を覗こうとは思わないのか?」
「俺は悪鬼羅刹の巣窟にノープランで踏み込むほど馬鹿じゃない」
女子が聞いていたらぐるぐる巻にされてボコボコになるかもしれないが、その悪鬼羅刹たちは入浴中である。
「あと、今は諸星来夏が入浴中だ」
「あのゴリラが?」
「脱いだときは体格変わってめっちゃグラマーになるって聞いたけどな。で、そもそもこの話題になったとき、アイツがいると絶対にバレる」
確かに、生徒たちの力で『悪魔の瞳』を突破するのは不可能だろう。
まあ、『脱いだときは体格変わってめっちゃグラマーになる』という意味不明な説明で納得しているところを見ると、どうやら彼らも毒されたあとのようだが。
それは今更なので置いておくとして、鑑定神祖すら対決時は危険視するほどのスキルなのだ。ちょっと才能がある程度の生徒たちでは、隠蔽魔法に過信して特攻し、地雷を踏むだけだろう。
ドカアアアアアアアアアアアン!
……誰かはわからないが地雷を踏んだようだ。
「……あんな目にあいたいか?」
「んな訳ねえだろ。ていうかタイムリーすぎて怖いんだけど……!」
何が起こったのかわからないが、体が震えてくる生徒たち。
「秀星は今どこにいる?」
「購買にいていろいろ確認しているみたいだ。時々買って魔法袋に突っ込んでひやかしだと思われないようにしているようだな」
「世間体、気にするタイプなのか?」
「しらん」
というわけで、現在、秀星に与えられた私室に秀星本人はいない。
「というわけで、鍵を開けてさっそく侵入するぞ」
「ああ。いつ戻ってくるかわかんねえしな」
「転移で戻ってきたら最悪だ。いくら見張ってても意味ねえしな」
「ていうか見張られてたらその時点で気付かれそうなんだけど……」
「それはあるが考慮しなくていいだろ。だってそれだと『ゲーム』にすらならねえしな」
というわけで、まずは開錠スキルを持ったものが突撃し、そして鍵を開けに行く。
そして、ピッキング技術を使おうとして……。
「なあ、鍵が開いてんだけど……」
「……完璧になめられてるな」
「いや、よくよく考えれば、この施設ってイベント用に作られた設備じゃねえから、『そもそも俺たちに開けられないくらい強固』なんじゃないか?」
可能性は十分にある。
要するに……開けられたらまずいのだ。
「なら、突入!」
「オオオオオオ!」
というわけで、メンバー全員で突入する。
で……。
「なあ、ベッドの上にアタッシュケースが一個あるだけなんだが……」
「いいから持っていくぞ!」
というわけで、アタッシュケースをもってぱっぱと退散。
彼らの一人の寮室に入って、アタッシュケースを見る。
「……あ。紙が貼られてる」
「なんて書いてあるんだ?」
「ええと……【『すべてを貫くという情報』を持った槍と、『すべてを貫通させないという情報』を持った盾がぶつかるとどうなる?『誰にもわからないことが起こる』や『エラー』以外の答えで入力せよ(笑)】って書かれてる」
「完全になめられてんな……」
だが、これをどうにかすれば開けられるはずだ。
「ていうか、いつの間にかスパイ作戦がなぞ解きになってんだけど」
「あいつらがお約束守ってくれるわけねえだろ。さっさと解くぞ」
「いや、これって考え方の問題じゃね?頭をいくらひねっても解けるようなもんじゃねえだろ」
あえて言えば、『誰にもわからないことが起こる』とか、今回は『情報』という言葉が存在するため、『判明せずにエラーが生じて答えがわからない』とか、そういう答えを出すべき問題なのだ。
「これってどうすればいいと思う?」
「秀星本人に聞くわけにはいかねえ」
「けどこういうのって、出題者が納得するキーワードを使わないと開けられないと思うぜ?」
「……そういや、あいつは確か本を出してるって言ってたな。俺たちに出すような問題だからハードな内容じゃねえだろうし、本の題名で何かヒントが得られるかもしれねえぞ」
「確かに!」
というわけで、通販サイトで『著者・朝森秀星』と打ち込んで検索する。
「あー……いろいろあんな」
「ていうかほぼ全部売り切れてるぞ。内容に答えがあったら終わりだぜこれ」
「まあ、他の魔戦士が持っていない視点を持ってるもんなぁ」
スクロールして名前を見ていく男たち。
「なんかそれっぽいのがないな……ん?『結果が不明な現象がたどりつく領域』っていう題名の本があるぞ」
「ネーミングセンスゼロか」
酷評である。
「で、あらすじ読んでみろ。どんなことが書いてある?」
「うーん……あ、帯に『提言・結果は決まらないことが正しいこともある』って書かれてるぞ」
「結果が決まらないほうがいい……か」
「言い換えれば『決めないべきだ』ってことなんじゃね?」
「あ、それもあるな」
こういう問題は数人ほど頭の柔らかい人間がいると会話が進む。
「あ、もしかして……『答えは決めないべき』ってことは、『答えを決めさせないための現象が発生する』ってことじゃないか?」
「どういうことだ?」
「ほぼ言葉通りだ。で、問題文見てみろよ。盾の方は『守る』って抽象的な言葉を使わずに『すべてを貫通させないという情報』て言って限定してる」
「確かに、それなら、『槍が盾を貫くかどうか』っていう一点に議論が絞られるな」
「てことは、『盾と槍が衝突する直前で停止する』ってことか?」
「守るっていうと、盾は貫通してもいいのかとか、人体はどうするのかとか、『衝突後』の話になるし、それであってるかもしれねえな」
キーボードがあったので、『盾と槍が衝突する直前で停止する』入力してみる。
すると、ガチャリと音が鳴って開いた。
中には、『10000ポイント』と書かれたチケットがきちんとブロック状に分けられて収められている。
「おおおおお!すげえ!バトルロイヤルの時ですらここまですごい中身はなかったぞ!」
「戦闘力よりも知性や視点を評価するってことなんだろうな。しかし……秀星って普段からこんなことばっかり考えてんのか?」
「そして実験を繰り返してるわけか。そりゃ強くもなるだろうな……」
げんなりするとともに、『新しい視点を得た』と納得する男子生徒たち。
そんな彼らを見ながら、秀星は『あいつら答えにたどり着くの早すぎじゃね?』と真顔になるのだった。




