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第六百四十話

 グリモアから帰ってきた剣の精鋭たち。

 魔戦士チームである彼らは、ドロップアイテムなどのノルマが課せられているのだが、これに関しては秀星が五秒で集めて納品所にぶち込んだので、異世界で夏休みをつぶしていた剣の精鋭が裏でごちゃごちゃいわれることはなかった。

 ……スタッフからは恨まれているかもしれないが、リーダーと最強メンバーがそれを気にしないので一時的に治ることすらないと考えていい。


「ふーむ……」


 剣の精鋭の人事権を全て握っているのは来夏である。

 基本的に『剣の精鋭に入りたい!』という意見は来夏でストップする。

 これに関しては、素の戦闘力なら来夏を上回る秀星や基樹でも変えようとはしないため、世界有数レベルで高レベルと言っていい魔戦士が所属する『剣の精鋭』というチームに新規のメンバーが入ってこない理由でもある。


 ただし、剣の精鋭に所属するメンバーは、その所属経緯も、所属理由も大きく異なる。


 基本的に魔戦士チームは、最初は近い人間同士で組んで、そこから大きくなるか、理念に合わせてメンバーが入れ替わっていくことがほとんどだ。

 大きくなりすぎて汚職まみれになることや、少数精鋭でもリーダーがまとめきれずにつぶれていくことは珍しくない。

 その点で言えば、剣の精鋭はリーダーがめちゃくちゃなので、今まで何とかなっている。


「『剣の精鋭に入りたい』じゃなくて、『剣の精鋭のメンバーを引き抜きたい』って意見が増えてるな……」


 剣の精鋭に入りたいというのであれば、それは来夏が突っぱねるだけだ。

 しかし、メンバーの引き抜きに関しては本人次第だろう。


「秀星が入ったあたりからメンバーが抜けてねえけど、その前はメンバーが抜けることはなかったわけじゃねえし……」


 剣の精鋭を運営するうえで、来夏が決めていることは多くはない。


 『精鋭、の名に恥じないレベルの者を加えるが、大所帯にはしないこと』

 『同列の扱いになる契約を交わす同盟を組むことはあっても、傘下組織は作らないこと』


 少なくとも、来夏が剣の精鋭をアレシアと結成した時からずっと変わらない要素はその二点だ。


「正直、剣の精鋭に所属するよりも、良い環境になるパターンもないわけじゃないんだよな……」


 戦闘力、知識、人脈、財力。

 様々な点において秀星は最高峰だろう。

 だが、秀星は『根本的な部分』を追求し、『明確な格の差』を解明し、習得することを目的に研究している。

 そのために必要な思考実験を繰り返し、そしてそれを実演し、習得することで、どれほど強い敵が現れても、そのすべてを様々なアプローチと理不尽さで打ち勝ってきた。

 そこに妥協はないのだが……。


「土台がいくら頑丈でも、多種多様なものに触れないと何も乗らない……これ、誰に言われたんだっけなぁ……」


 来夏は秀星が入ってからの活動を思い浮かべて、そんなことを思った。


「うー……zzz」

「沙耶。本当に寝るようになったな」


 迎えに行ったとき、鑑定神祖であるライズから『淑女ガス』が体内で生成されている。と言われた。

 来夏が『なるほど』と頷く中、秀星とラターグは『なんだそれ』と言いたそうな顔をしていたが。来夏はスルーして帰ってきた。


「まあ、それはそれでいいか。オレもそうだったし」


 十六歳までは淑女だった来夏。

 そのころに、『獣王の洞穴』というチームのリーダー、金山剛毅(かねやまごうき)にあって、人間として超えてはいけないものが解放されたが、それまでは淑女だった。

 そのころの写真もある。


「うーん……まあ、なるようになるか」


 秀星も色々準備をしているようだが、だからと言って時間がないわけではないだろう。

 ゆったりやっていけばいいことだ。


 ★


 ……まあ、ゆったりやっていけたらいいと考えているのは来夏くらいのもので、メンバー個人単位で見るとそれ相応に状態は動いていた。

 さすがに夏休み全部、地球にいないというのは不味すぎたといえるだろう。


「……うーん。引き抜きの誘いが結構来るようになった」


 始業式が終わってすぐのことだ。

 雫が封筒を五つほど取り出して、教室で秀星、風香、羽計、エイミーに見せてきた。

 それに対して頷いたのは、羽計とエイミーだ。


「私の方にも来ているな」

「あ、私もですね。千春ちゃんと一緒に来てほしいって誘いでしたけど」

「私来てないよ」


 風香が『嘘でしょ』と言いたそうな顔で羽計とエイミーを見る。


「秀星君は?」

「俺も来てないな。まあ、俺を敵に回したくないし、俺を所属させたくないって考えてるチームは多いみたいだからな」

「そうなの?」

「部下にしたら何をしでかすかわからん、同僚だったら周りが絶望する。上司にしたら苦労が増える」

「うわ……」

「確かに最悪だ。そう考えると来夏ってすごいんだな……」


 チームに所属するうえで秀星がもたらすデメリットを聞いて、雫は苦笑して羽計は溜息を吐いた。


「で、実際どうするかってことなんだよね……」

「まあ、よく考えたうえで、もしもチームを抜けたいと思うのであれば、それを来夏に言えばいいだけの話だな」


 羽計は何でもなさそうに言った。

 風香が驚く。


「そ。そんな簡単な感じなの?」

「私が中学二年生の時、剣の精鋭の人数は今より多かったくらいだ。秀星が入る段階になったときは五人だったが、まあ、あれはタイミングの問題だな。それに、美咲は一度、四か月ほど脱退して、その後でまた入っているし、似たような例はそこそこある。人が入るときは本当に入るが、出ていくときもかなり豪快だ」

「へぇ……やっぱりみんな事情があるんだ」

「ああ。剣の精鋭は、諸星来夏という魔戦士が作った家のようなものだからな。ただ、許容することはあっても、誰かを優先することはない。優先するのは来夏本人だけだ」


 その『優先順位の一位は断然自分』というところは絶対にブレないだろうな。と確信してしまえるのが剣の精鋭の空気というものである。


「そういう考え方もあるんだね……ただ、厄介ごとを持ってきた人たちもいるんじゃないの?」

「来夏曰く、『その時はオレがどうにかするからいいんだよ!』と言っていた」

「そうか」

「綱引き用の縄でがんじがらめにされてなかったらカッコよかったのにと最も思った瞬間だった」


 さすがである。

 来夏はやっぱり来夏だ。

 だからこそ頼られるのだろう。周りが十割くらいやけくそになるが。


「で、元メンバーが脱退した理由ってなんだ?」

「ああ、まあ最も多かったのは、魔戦士として個人で稼げる程度の実力を身に着けた後、何かを極めるために抜けていったという感じだな」

「何かを極めるためか」


 あり得る話だ。

 秀星はとにかく『格としての深い階層』を求めるゆえに、何か一つを極めることはほぼない。

 おそらく来夏自身もそうだろう。

 来夏の基本思考が『でかく稼いだらでかく使って、またでかく稼ぐ!』というものであることもそれを裏付ける。

 極める。という点において、剣の精鋭は適していないのだ。

 秀星、来夏、基樹など、本当に強いメンバーの視野が広すぎるので、『極める』ということに対する価値が他の人間よりも低く見える。

 最も、視野の広さゆえの倫理観も当然存在するため、今の剣の精鋭の空気を維持するためにはこういうスカウトを続けていくつもりなのは分かっているが。


「秀星が入る前の段階では、剣の精鋭は『評議会』に所属していた。で、チームメンバーに発生するノルマや税金がいろいろあってな。剣の精鋭そのものが認めれたチームであることも含めて、そのあたりのノルマが大きかったんだ。だが、何かを極めるためには研究室や道場に移籍する方が近道になるからな」

「いざ抜けるとなっても、確執はそこまでないんだろ?」

「ないな。お別れ会をするわけでもないし、来夏はああいう性格だから、『いつでも帰って来いよ』って言われてる気がするそうだ。美咲もそれがあったから戻ってきたし」

「なるほど」


 どうやら、そういう空気らしい。


「というか、まだ誰かが抜けるって話にもなってないのに、結構話しちゃったね」

「……」


 風香の言葉に秀星は一瞬黙ったが、言葉を続けることにした。


「現時点で、チームを抜けて移籍したいって考えてるやつはいるぞ」

「え、いるの?」

「ああ」


 風香は驚いているようだ。


「剣の精鋭の居心地が悪いわけじゃない。だが、なんとなくぬるま湯につかってるみたいで、少し距離を取りたい、そんな考えを持ってるやつはいる。まあ、俺はどうでもいいと思ってるけどな」


 秀星の表情は変わらない。


「それに、抜けようが残っていようが、来夏は最近、バールで空間跳躍するからな。会いたいと感じたらそのまま会いに来るだろ」

「それもそうですね」


 エイミーは微笑んだ。

 それに合わせて、全員が苦笑する。


 秀星としては、どうしたものかと思う。

 秀星は強いが、チームを運営したことは一度もない。明確に何かに所属したのは、剣の精鋭が初めてだ。

 一応世界樹の商品を販売しているが、店を動かしているのは全てセフィアである。

 そういう面で言えば、来夏の方が経験値は豊富だろう。


(別に、今のままやっていても、悪いことにはつながらない。剣の精鋭にいることでしかつながれない人間は少なからずいる)


 だがそれと同時に……。


(とはいえ、このままだと友情を演じているだけなのではないかって思い出す奴もいる。そういう奴をちゃんと送り出せるかってことを考える必要はあるか)


 そのあたりの微妙な関係について、秀星は答えを出すのが下手だ。

 その点で言えば、諸星来夏にも、同じくチームのリーダーを務める朝森高志にも及ばないのだろう。

 ギャグ補正全開で、自分本位。

 しかし、みんなに好かれるリーダー。

 カリスマがあるかどうかとなれば、そりゃある。


(こればかりは俺が考えることじゃないか)


 秀星が判断できるのは合理的な最善のみ。

 しかし、『合理性』というものは突き詰めていこうとすると、他の全てと両立しない。

 だからこそ、秀星が口を出すべきところではない。


(誰が抜けるのか……加えて、多分誰かが加わる可能性もある。諸星来夏という魔戦士のやり方を見せてもらうとするか)


 ただ強いだけでは解決できない『人間関係』というパズル。

 その解き方を、秀星は来夏から学ぼうと考えるのだった。

感想で、ざっくりとでいいので『章』や『編』を入れて分けてくれると助かる。との意見がありました。

六百話を超えていますし、そりゃそうだということで入れてみました。

名称は、自分なりに作品を振り返ってつけたものになっています。正直、ど忘れしてる部分が多数あるはずなので……。


それでは、本日から第十章、『ツルギノセイエイ編』を開始します。

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[気になる点] > 風香が『嘘でしょ』と言いたそうな顔で羽計と風香を見る。 風香が2人いる。 風香と秀星いつ付き合うのか
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