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第六百三十九話

 夏休みも終わりが近い。

 そして、ヴィーリアを隊長とする地球捜査隊(という名の秀星ストーカーズ)の地球での活動を問題ないように調節することや、ライズが地球に来ることも考える必要がある。


 加えて、椿と星乃も未来に帰るのだ。


『今回はいっぱい遊べて楽しかったです!』


 とのことである。

 前回は、一泊二日の中に混ざっただけだったので、全然関われていなかったのだ。

 その反面、今回は夏休みほぼ丸ごとである。

 そう考えると圧倒的な差であり、椿にとってはとても楽しかったようだ。


 椿は基本的にストレス耐性がかなり高く、見えているときはいつも笑顔があふれている。

 加えて、椿が暮らすのは王城だ。

 雇われている人間がある程度の容姿のランクを求められているということもあり、嫉妬などもあったそうなのだが、椿が突撃してそれらの空気をシェイクしてしまったので、王城勤務の者たちの空気はそれ相応に良いものになったようである。

 そんないい関係になった王城で過ごしたため、椿は様々なものからいろいろなものを貰ったようだ。

 基本的に餌付けされていたと思われるが、そこはご愛嬌ということで問題はない。


 星乃もいろいろと調べまわっていたようで、充実していたようだ。

 剣の精鋭メンバーは、王国や帝国を観光していたのでそちら方面で満足している。


「さてと、そろそろ帰る時間だな」


 アルトたちが地球に来るときに使っていた船。

 それを使って秀星たちを乗せて地球に行くことになった。


「私たちは未来に帰りますね!」

「一か月ちょっとですけど、お世話になりました」


 高志たちが普段活動している島に突っ込んできたときにも見たことがあるタイムマシン。

 そこに乗り込む前に、皆と話している。


「それでは、皆さんと一緒に参りましょうか」


 ヴィーリアを含め、探索隊に所属することになった隊員たちも準備万端である。


「それでは、私はお土産を一杯もらいましたし、鮮度が重要なものもあるので、このあたりでお先に失礼しますね!」


 椿がそういうと、手をブンブン振った後、タイムマシンに乗り込んだ。


「はぁ……姉ちゃんは元気だなぁ」


 あんな元気で素直な姉がいると、弟としては思うところがあるようだ。


「星乃も頑張れよ」

「ですね。全盛期の父さんの本気を見られなかったのが痛いですけど……あ、そうだ、言い忘れてました」

「なんだ?」

「これは未来の父さんから伝えるようにって言われたんですけど、俺たち、またお邪魔することがあるみたいです。未来では過去に行くことができる人間が払うべきコストみたいなものがあって、それがでかいから行く予定はなかったんですけどね」

「ほー……他には?」

「あとは……そろそろ、『器』をどうにかして回収しておけって言ってましたね。俺は詳しくは聞いてないんですけど」

「……そうか。まあ、未来の俺にはよくわかったって言っておいてくれ」

「はい」


 秀星としても詳しく話すつもりはない。

 ただ、秀星の中では核心ではなかったことが、いくつか考える必要が出てきた。

 それだけのことである。


「それでは、また」

「ああ。その時にはちゃんと鍛えておけよ」

「はい」


 星乃は椿が座る運転席の後ろに座った。

 それを確認した椿が、目の前にあるレバーを引く。

 タイムマシンが起動して、エンジンが唸り始めた。

 こちらに手を振る椿と星乃に手を振り返す。


 数秒後、タイムマシンが加速して、そのまま次元の壁に飛び込んで消えていった。


「ふう、それじゃあ、俺たちも地球に行くか」


 その秀星の言葉に反対する者はいなかった。


 ★


 難しいことなど何もない。

 全員で船に乗り込んで、若干定員オーバーでガタガタ揺れる船内で各々過ごしながら地球を目指すだけである。

 秀星が改造すればよかったのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれないが、機関部を操縦する船員たちが思ったより船を勘で動かしているので、秀星が改造すると動かす際に支障が出るのだ。

 それに、秀星もまだ次元間の移動に関しては疎い部分があるので、完全自動で動くことはできない。


 椿が乗っていたタイムマシンがどれほどの性能なのかがわかるというものだ。

 未来の秀星視点で、今の秀星に構造がばれると面倒なのか、重要部分のプロテクトがエグくてさっぱりわからなかったが。


 それはともかく、秀星たちは地球に帰還。

 真昼間に帰ってきて、とりあえず剣の精鋭メンバーをそれぞれ送った後、頂上会議改め、魔法省の本部に直行。

 ヴィーリアたちとライズに関する書類の登録を行った。

 アトムからは『神祖ってなんだよ……』という顔をされた。

 アトムも神器を使っているため、『神』という概念には知識や経験があるようだが、『神祖』は知らなかったようだ。

 異世界云々に関しては世界樹のあたりで電話して受け入れているようなのでいいとしても、神祖に関してはおなか一杯らしい。頑張れ。


 そして彼女らがどこに住むのか、普段は何をするのかということに関してだが、ヴィーリアたちは秀星の情報を追いかけてきたので、秀星の知識が加わってなかなかの量になった魔法関連の図書館に入ることになる。ライズに関しては秀星の家に住むが、他の神祖に対抗するために動くことになった。


 これからいろいろ決まるにしても、基本的な姿勢はそのような形である。

 アトムは溜息を吐きながらこれに了承したので、問題はない。多分。


「よっしゃあ!面倒な部分は終わったぞ!ただいま!」


 秀星は元気な様子で帰宅。

 夏休みの宿題もなければ、特に重い用事もない。

 本当にすることがなく、解放された瞬間なのだ。


「「zzz……」」

「おー。ラターグと沙耶ちゃんが寝てるな……沙耶ちゃんが昼間から寝てる!?」


 来夏の娘である沙耶。

 ギャグ補正に溢れた幼女というより赤ん坊だ。

 それが、ラターグが寝ているソファで一緒にすやすや寝ているのである。


「まあ、来夏だって寝るんだから、沙耶ちゃんが寝たって不思議なことはないんだけどなぁ……」


 どうしたものか。

 と思った瞬間、着信音が鳴った。


「来夏か……はいもしもし、君の娘なら俺んちのソファでラターグと一緒に寝てるぞ」

「沙耶が寝てるのか!?」


 来夏も驚いていた。

 お前の娘だろ。と言いたくなるような感じだが、ここで責めても仕方がないので話を進める。


「なら、すぐに迎えに行くぜ」

「ああ。待ってる」


 さて、沙耶ちゃんは迎えが来るそうなので置いておこう。


「……おい、ラターグ。起きろ」

「えぇ……ずっと眠いのに……」

「ふざけんなおい……」

「はぁ……ん?なんか懐かしい匂いがするような……」


 そういった瞬間だった。


「ラターグちゃん。お久しぶりね」

「ゲゲッ!?師匠!?」


 部屋に入ってきたライズに驚くラターグ。


「師匠ってどういうことだ?」

「神々の間でも師弟関係はあるけど、その相手が神祖になることがあるっていうだけの話さ」

「なるほど。で、ライズがラターグの師匠ってわけか」

「そういうことになるね。しかし、久しぶりだなぁ。最後に会ったのは大体六百穣(じょう)年くらい前だよね」

「そうね」

「……」


 秀星は何を言えばいいのかわからなくなった。

 一応言うと、兆は十の十二乗で、穣は十の二十八乗である。

 実をいうと、前に一度この単位を使っている。

 神々の派閥の情報の時の話だったはずだが、そんなことはもうどうでもいい。

 あてになるかどうかという問題だ。そしてあてになるわけがない。


「確か惑星魔法でとらわれてたんだっけ?」

「そうよ。ずっと封印されていたんだけど、解放されてね。ちょっとパライドに操られてたけど、高志と来夏が止めてくれたのよ」

「あの二人バケモンだな……」


 それには同意する。


「で、ラターグ。夏休みの間何かあったか?」

「自宅警備員としての給料が欲しくなるくらい襲撃があった」


 秘密がいっぱいなのでよく狙われる。

 秀星の家では、自宅警備員は命の危険を伴う職業なのだ。

 当然だが募集はしていない。


「そうか。でも基本ダラダラしてただけだろ?」

「もちろん」

「とりあえず百万くらいでいい?」

「そんなに使わないけどね」


 神々で使われる通貨の方がよほど価値があるが、当然秀星はそっちに関しては手持ちが少ないので出す気はない。

 そして、ラターグは神々の中では資産家なので、多少人の家を守る程度なら気にしないのだ。


「で……異世界から誰か来たみたいだね」

「ああ。異世界で百年くらい前に俺が転移したが、その時に残した技術を復元しようとしてた国があって、その国の女王が来た」

「なるほど。普通だね」


 普通なのだろうか。

 ラターグは再び寝転がった。


「ふう……ん?ちょっと待って、師匠が復活したってことは、他の神祖も動き出すの?」

「そうなると予想されるわよ。だから、ラターグも頑張ってね♪」

「……」


 ラターグは死にそうな顔になった。

 ……神なのでもともと生きているわけではないが。


「秀星君」

「なんだ?」

「僕、天界に帰っていい?」

「それがダメだから地球での待機命令を出されてるんじゃないのか?」

「……クッソオオオオおおぉぉぉぉ」


 いつもは気楽なラターグもぐったりしている。

 秀星も神祖に関しては情報しかほぼ持っていないので遭遇は少ないくらいだ。

 これからどうなるのかは、備えていくしかない。

 そしてその上で、ラターグという戦力は重要である。

 とても嫌そうだし、秀星も嫌なのだが。


「はぁ、仕方ないね。師匠も動くんでしょ?」

「当然よ。私の鑑定神祖としての力は当然必要だからね」

「……じゃあ、ギャグ補正に関して何らかの結論を出しておいてね」

「アレは無理よ」


 頑張れ、鑑定神祖。


「僕も動かないとなぁ……はぁ、これから数万年は楽だと思ってたのに。まさかギラードル君が言ってた『神よりも上に立つ組織が動いたときのための備え』が今必要になるとは……」


 元々は『神よりも上の存在』に対抗するために成長するべきだといっていた天界神ギラードル。

 天界政府として新しく地球を作り変えようとすらしていた彼だが、その彼が望んだ情報がすぐに必要になるとは思っていなかった。

 長い長い準備が必要になるが、パライドだけならまだしも、他の派閥の神祖まで出てくるとなれば、その準備時間すら稼げない可能性も出てくる。


「とにかく、ラターグにもしっかり動いてもらわないと不味いからな。頼むぞ」

「はいはい。わかりましたよ……」


 嫌そうな顔をするラターグだが、それが通らないことは分かっているようだ。

 秀星としても動くしかない。


 神祖の相手は、楽ではない。

 ……ギャグ補正が頭に浮かんでしまうので、だいぶアレだけどね。

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