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第六百十九話

 騎士団長が『さあ!我々の切り札を刮目し、絶望せよ!』といって、水晶を掲げる。

 水晶から巨大な魔法陣が出現し、そこから全長五十メートルくらいの真っ白いドラゴンが出現する。

 秀星は『懲りずのドラゴンかい……』と思ったのだが、来夏と高志と椿がグレネードランチャーを取り出して爆撃し始めたので思考の外に蹴り飛ばしておいた。


「アレ、どこに売ってたんだ?」

「通販」


 世紀末か。


「……え、マジで通販で売られてんの?」

「父さんは未来では権力あるから、父さんが管理する場合なら買えるんだよ」


 どうやらいい役職についているようだ。

 というか、変わってはいけない法律がいろいろ変わっているような気がしなくもない。


「思いっきり三本も購入して来夏と父さんに渡してるけど、大丈夫なのか?」

「なんとかなりますよ……多分」


 確定で大丈夫というわけではない模様。


「……まあいっか。異世界だし、銃刀法なんてないだろ」

「そういう問題じゃないと思うよ。秀星君」

「いやだって、なんかめんどくさそうじゃん。さすがの俺も未来の法律は知らんよ」


 もちろん、頂上会議でアトムたちが考案している法律なら知っているが、流石にそれが未来で決まるかどうかはわからない。


「あー……なんかドラゴンが可愛そうなことに……」


 星乃がため息混じりに呟いた。

 爆撃されまくっているドラゴンは時々ブレスを使って高志たちを倒そうとするわけだが、全然狙えてないので簡単に回避している。

 しかもかなり余裕そうだ。


「さて、あのドラゴンがやられるのも時間の問題だな」

「奥のほうにいる騎士団長の髪がどんどん風に負けて抜けてるし、亡くなるのも時間の問題だな」


 秀星と星乃の親子がそろって『時間の問題』という始末。


「あ、星乃、髪はちょっとデリケートな話題だからやめたほうがいいぞ」

「いや、すでにもう髪が……」

「秀星君も星乃も、そのあたりにしておきなさい」

「「はい」」


 うなずく二人。

 逆らわないのか、逆らえないのか微妙なところである。


「しかし、爆撃だけしかしてないのに、対応力がないドラゴンだな……」

「まあ、未来でも全然使われてないネタ武器扱いですからね」

「グレネードランチャーがネタ武器扱いって、すごい時代だね」

「まあ二十年後だしな。単純な強化だけされた武器はほぼ使えないだろ」


 というより、連射数だけはすごい。

 弾倉と連結しており、すさまじい物量で攻めている。

 ただ、一発の威力は確かに高いので、ちゃんと当たるのなら効果的なのだろう。

 一応、耐性を貫通する魔法がグレネードには備わっているようだ。


 ただ、それを加味しても、ドラゴンのほうの強さはそうでもない。


「これが切り札なんだろうか……」

「神聖国は施設が重要って話だし、ドラゴンの召喚はあくまでも魔道具の開発段階でできた産物って可能性もあるよ」

「それもそうか。ただ、あんなにグレネードランチャーを乱発するような子に育つとは……」

「姉ちゃんはストレスを感じない体質っていうか……仮に感じるとしても、その耐性が高いんだよなぁ」

「ストレス耐性?」

「基本的に嫌いなものがないし、何か思うところがあったら基本的に全部口に出るタイプだから、頭の中にイライラが残らないんだ。その結果、いろいろなことを体験して、その感想を全部言うんだ。その結果あんな風に育ったんだって周りの人はよく言ってる」

「そしてその姉を見た結果、苦労人の素質がありそうな雰囲気に育ったのが星乃ってわけか」


 現在中学三年生である椿の一つ下なので、当然星乃は中学二年生だ。

 思春期としていろいろなものが見えて、そして考えていく時期なのだが、姉をよく見すぎている。

 仲が悪いわけではないが、物事に対する取り組み方の姿勢は大きく違うのだろう。


「あ、ドラゴンが倒れた」

「というわけで、向こうからの侵略が終わりだな。さて……次はこっちから攻める番だぜ」


 黒い笑みを浮かべて楽しそうな表情になる秀星。


「何か予定はあるの?」

「来夏からは『朝一で襲撃するからモーニングスターを作っておいてくれ』とは頼まれてるけど、それ以外はノープランだな」

「モーニングスターって明けの明星って意味じゃなかったっけ?」

「具体的に言えば金星だね」

「ってツッコんだんだけど、『細かいことはいいんだよ!俺たちが楽しめばいいんだからな!』って言ってて、父さんと椿がうなずいてた」

「高志さんにはちょっとお仕置きしておいたほうがいいかもしれないね」

「何をする気なんだ?」

「沙羅さんからいろいろ聞いてるからね」


 風香がフフッと笑った。

 秀星は『もしかして俺のこともいろいろ聞いているんじゃ……』と若干顔が青くなるのだった。

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