第六百十八話
「な、なんなんだあれは……」
今回のユイカミ侵攻の指揮を執るのは聖竜騎士団長である。
一般的な隊員よりも倍以上ある大きさのドラゴンに乗っている特殊部隊である。
もちろん、全長が倍になれば体積は四倍くらいになっているので、威圧感は結構変わってくることに変わりはない。
しかし、空から隕石が降ってくるという『災害のようなもの』が引き起こされるなどという状況は想定外だ。
「あ、ありえん。本当に人間かアイツは……」
神器を持っているだけで人間であることに変わりはない。
もちろん普通ではないし、隕石にしてもすべて幻惑魔法なので、『ちょっと派手な演出家』という程度である。
本当に隕石を降らせるとなれば膨大な魔力が必要なのだが、ヴィーリアからは殺さないようにと言われているので、秀星が適当に遊んでいる。
「……いざとなれば、アレを使わざるを得ん。これは正義の進軍。奴らは悪なのだからな」
左手にある水晶のようなものを握りしめて、騎士団長はそうつぶやいた。
★
戦場に飛び交う無数の声。
秀星は、そのすべてを聞き分けていた。
アルテマセンスの影響で圧倒的な聴覚を得ていることに加えて、『遠くの音を拾う』と『情報処理能力の強化』の魔法を使っているため、ありとあらゆる声を聞いている。
そのため、騎士団長のつぶやきは全て聞こえている。
(俺たちが悪か……まあ、どうでもいいか)
正義とか悪とか、あまりそういう部分に執着がない秀星。
ただあえて言うならば、秀星が好きなのは『正義』ではなく『依怙贔屓』である。
いろいろ言われることは当然とするが、それはそれとして――
――椿が頬を膨らませていた。
「……どうした?椿」
「私、楽しくないです!」
ということらしい。
「そうだぞ秀星!幻惑の隕石を降らせ続けてばかりだと、オレたちが来た意味がねえじゃねえか!」
「俺だってドラゴンをぶんなぐりに来たんだぞ!このままだと面白くないだろ!」
秀星は星乃と風香を見る。
「まあ、好きにすればいいと思うよ」
「とりあえず父さんが何を考えてるのかは俺にはわからないからな」
未来の妻と長男からは丸投げであった。
「そういうことなら、とりあえず隕石はやめるか」
指パッチン。
隕石の落下が終了し、向こうのドラゴンたちは落ち着いて……いないように感じるが、隕石があるよりはいいだろう。
「さて、それでは行ってきます!」
椿が脚に風をまとわせて、ドラゴンたちに向かって突撃していく。
「よっしゃあああ!いくぞおおおお!」
「おおおおおお!」
来夏と高志も突撃していった。
「……秀星君。どうするの?」
「いや……俺は別に何も考えてなかったからな。だってどうせ父さんと来夏が勝手に動くだろうし……」
「やっぱり……」
星乃が溜息を吐いた。
「二十年後でもそうなんですよね……父さんって基本的に敵の感情を動かしたがるから……」
「どういうこと?」
「父さんって、やろうと思えば、次の瞬間には敵すべてを強制的に眠らせることだってできるんだ。完全に緊張を解く魔法をかけて、耐性無視の睡眠魔法を使えばいいだけだし」
「あー……それもそうだね」
星乃が言ったとおりである。
睡眠魔法を使えるわけだし、敵をだれ一人として殺さずにとらえるとなれば、睡眠魔法を使えばいいのだ。
秀星の場合はこの魔法を使った場合、抵抗不可なので、確実に通る。
「でも、そういう手段はあまりとらずに、こうして悪質ないじめをするんですよね」
「ひどいぞ長男」
とはいえ、幻惑ではあるものの全力で隕石の雨を降らせるとなれば、確かに悪質ないじめである。
「あ、姉ちゃんがドラゴンの頭を斬り落とした……普通だな」
「未来でもそんな感じなのか?」
「そうですね。オマケに理不尽慣れしてるんで……」
「理不尽慣れって……」
「いやあの、父さんって、このころからバトルロイヤルってやってますか?創造魔法でバトルフィールドを作るタイプのアレ」
「やってるな」
「未来では、そのバトルフィールドの中で、父さんが作ったチートアイテムが宝箱やアタッシュケースの中に入ってるんですよ。そのラウンドでのみ使えるものですけどね」
「めちゃくちゃゲーム化してるな」
「実際に会社も作ってますね。なので、未来では意外とチート慣れしてる人が多いんですよ」
「世紀末か……」
「いえ、父さんが一番強いことは変わってないので……」
「それはよかった」
どういう会話なのだろうか。
「しかし、バトルロイヤルに俺が作ったチートアイテムをねぇ……」
「ちなみにランキングの上位陣は剣の精鋭とユニハーズとドリーミィ・フロントとエボルートと『沖野宮連合』が独占してます」
エボルートは確か、高志が活動している島にいた『情報屋』である新藤英司をリーダーとするチームだったはず。
「なんだその連合って」
「リーダーが……今の父さんの生徒会長って言えばわかりますか?」
「なるほど」
そのようなチームができているようだ。
なかなか楽しい話である。
「あ、もう終わってるね」
風香が砦から下を見ると、そこではドラゴンがすべて墜落していた。
現在、ドラゴンから降りた騎士たちが戦っているが、時間の問題だろう。
「さて、向こうの騎士団長が何か切り札があるようだが、一体何なんだろうねぇ」
騎士団長のつぶやきがばっちり聞こえていた秀星は、多少の期待をしながらそういうのだった。




