第六百十五話
「お父さん!買い物に行きたいです!」
「おー。行こうか」
秀星は椿に言われてフラーっと買い物に行っていた。
ちなみに……二人がいるのは神聖国である。
秀星がフルボッコにしたわけだが、神聖国ではどんな風に報じられているのか、それとも報じられていないのかが気になった。
とはいえ、秀星がその気になれば、別にユイカミにいたままだったとしても、それらの情報を手に入れることができるのだが、椿が『買い物に行きたいです!』と言って、そして求めた場所が神聖国だったので、行くことに決めた。
ちなみに、
「なんで神聖国に行きたいんだ?」
という秀星の素朴な疑問に関しては。
「二十年後には神聖国がなくなって、その領土をユイカミがすべて獲得しているからです!」
という、なんというか、内心で『んんんんんなああああああにいいいいいい!?』と叫びたくなるような返答をされた。
で、秘密裏に星乃に聞いてみたところ、椿がゲロッたことに対してはかなり苦笑した後、『まあ、今回の騒動は間接的な原因って感じなんですけどね。結局、自業自得でつぶれたんですよ。そのあとの領土ですけど、ユイカミは研究するための権限確保のための国だから土地は関係なくて、全部もらったんですよね』とのことだ。
五秒間くらいフリーズしたのは秀星の心が貧弱だったからとは言えないだろう。
「あ、お父さん!あれがおいしそうです!」
「お、なら買うか」
露店に並んでいた焼き鳥を買って食べている椿。
幸せそうな表情で食べる椿に焼鳥屋のおっちゃんもほっこりしているようだ。
大変気持ちはわかる。
一本オマケしてくれた。
「ふーむ、市場に何か影響があるようには見えないなぁ……」
新聞をチラ見したが(読むのが早いのでチラ見で十分)、ユイカミに攻めたことは書かれているが、まだ帰ってきていないことになっている。
さすがに、正義も何も主張せずにいきなり攻めるようなことはないと考えていたので、攻めていることが書かれているのは当然として、まだ帰ってきていない設定になっているとなると、どうやらまだ隠しておきたいらしい。
「はふはふ……新聞にはお父さんのことは全然書かれてないですね」
「まあ、ちょっとだけ書かれてるが、戦ったことは全然書かれてないな」
ユイカミという国にとって、秀星は重要人物だ。
さすがに書かれている。
と思ったら、『ズゾゾーー』という音が聞こえたので、何を食べているのかと思ったら、四玉くらい入った巨大どんぶりを片手にうどんを食べている椿の姿が。
「……」
「?……何ですか?」
「いや、なんでもない」
よく食べる子だな。と思う秀星。
ちなみに、秀星の場合はエリクサーブラッドによる自動的な状態維持が存在するため、何かを食べる必要がない。
秀星にとって、食べることは生きるためではなく楽しむためのものである。
「むぐぐ……」
うどんがのどに詰まったようだ。
……詰まるっけ?と思ったが、秀星が指をパチンと鳴らすと、スルッと入っていく。
「ぷひゅーー……」
なんだか変な声が口から出ているが、まあ前例のない感覚だろう。
「むむ、そういえば、この国ではお父さんはどういわれているんですか?」
「さあ?ただ、ユイカミを攻めた理由だが、『秀星を奪還する』だそうだ」
「どういうことですか?」
「要するに、ユイカミは俺がやったことに対して研究しているし、俺が残した技術で救われたものが多いが、百年以上前に魔王を倒した勇者は教会の支援を受けて倒した。で、俺はその勇者を手助けしたから、『秀星という人間のルーツは神聖国にある』って言ってるみたいだな」
「……?」
「要するに、『最初に関係があったのは俺たちなんだから、奪ったのはお前だ!』って言ってるんだよ」
「百年前、お父さんは神聖国に協力していたんですか?」
「むしろ施設を全壊させていた」
「アッハッハ!」
椿、爆笑。
「まあ、そんな感じだ。ていうか、神聖国だって、俺が勇者に協力していた証拠なんて提示できないし」
天理が元勇者だが、天理だって秀星が裏で動いていた証拠を持っていないだろう。
そもそも、秀星は元魔王である基樹の力を封印しただけで、それ以外のことは何一つやっていない。
協力していた。などと言われても事実無根である。
「要するに、すべてこじ付けなんですね」
「だって証拠がなくても有罪にできるんだもんな。神の言葉がーとか言えば全部通るから」
「あ、そういえばそうでしたね」
納得しちゃう椿も椿である。
「まあでも、食べ物がおいしいですね!」
世界中からレシピを無理やり奪っているからこそなりたっているという情報が秀星にはあるのだが、ここで言っても仕方がない。
いずれにせよ、『まだユイカミを攻めている』という情報を手に入れることができたし、椿も秀星と街をめぐって満足しているようなので、とりあえず現状は今のままで妥当だと思うことにした。
攻めるかどうかはあくまでもヴィーリア次第である。




