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第六百十話

「なんだか……しっかりしてるわね」

「そうですね、石のタイルを敷き詰めた地面が存在するとは……」

「まあユイカミはコンクリートだったがな……」


 ゲイボルグニル帝国にやってきた千春、エイミー、羽計の三人。

 最初国の名前を聞いた時、『なんで混ぜた』と思ったものだが、実際に来てみると、国力は高かった。

 ただし、『国力がある』ということが『最先端を走る』とはならないのが世界の嫌なところであり、現状、ユイカミを超える技術を持っている国はいない。

 ただそれと同時に、人口も経済規模も大きいのは帝国だ。


「ここに来るまでにかなりの数のモンスターに遭遇したな」

「繁殖地に適した場所が多いって言ってたけど、本当みたいね」

「ランクが低いモンスターがしっかりした数出現していたので、しっかりと経験を積めるという点は他の国にはない長所ですね」


 王国に行った四人と同様。羽計たちもそれ相応に金銭を受け取っているが、実は国境に近い街に来るまでにもそれ相応にモンスターに遭遇した。

 とはいえ、千春の特殊な投げナイフ、エイミーの文明兵器、羽計の飛ぶ斬撃ですべて一撃必殺だったが。

 

 モンスターが少なく、実戦が少ない代わりに、穀物と文化が育った王国に対して、帝国は圧倒的な実践経験と危機管理能力で『総合戦闘力』が高くなっている。

 経験豊富なものが多いので、王国は自国の戦力ではどうにもならない場合、帝国に戦力提供を要請する場合もあるようだ。

 他国に戦力提供してもらうって国交的に大丈夫なのか?という問題が浮上するが、帝国も食料や娯楽品に関しては王国に頼っている部分があるので、持ちつ持たれつの関係を構築しているようだ。当然水面下では争っているようだが。


「ただ……教会があるな」


 国境から近い場所ではあるが、今いる町は神聖国よりもユイカミの方が近い。

 そのような場所ではあるが、教会があった。

 もちろん、教会があるからと言って別に嫌な顔をするつもりはない。

 末端の人間まで悪いことしていると最初から考えることはないからだ。

 ただ、上の方がヤバそうな印象がある教会という認識があるので、ちょっといい顔はできない。

 ……それだけではないのだが。


「……どう思います?」

「私は別にどうでもいいわよ」

「私もそうだな。ただ、経典の内容を考えると……受け入れられない」


 そう、このグリモアで大昔に使われていた言語で書かれている書物を使うというのは構わないのだが、その内容を知ってしまうとちょっと遠慮したい。

 十七歳である彼女にそういった類の趣味はない。


「……気持ちを切り替えましょうか」

「そうだな」

「ハハハ……ただ、町を見ていて思いますが、かなり魔道具が安いですね」

「武器も同様だな。質が高いものが店に並んでいる。まあ、中にはぼったくり価格でゴミを売っているところもあるが……」


 戦闘力というのは、人数×武器の性能である。

 ぶっちゃけると、『健康的かつ丈夫な体で長生きできる人間』に『質の高い装備』を与えれば戦闘力は高くなる。

 そのため、質の高い武器を作って、それを格安で販売できるようにしているのだ。

 騎士団も抱えているため、安定して強い。ということだろう。


「こういう世界って、最終兵器として核兵器とかないもんね。やっぱり人間がしっかり動かないといけないから……」

「秀星は『核ミサイルって核融合とか核分裂ができなかったら単なる重い物体なんだろ?』と言っていたがな」

「秀星さんが出てくると、核兵器はその優位性を失うんですね……」


 科学というものは本当に優れているのだ。

 魔法は便利なものだが、科学も本当に優れている。

 だからこそ、神器には勝てないのだ。


「ちょっと残酷なことを考えすぎたな。もうちょっと楽しいことを考えよう」

「そうですね」


 というわけで、普通に買い食いを始めた三人。


「スパイスは薄いけどおいしいね」

「そうですね」

「塩しかかかっていないようにも見えるし、なんだかその塩も地球にあるものと比べるとちょっと純度が低い気がするけど、これはこれでいけるわね」


 食文化だけサバイバルでも始めるのではないかと思うような言動である。

 とはいえ、現代文明になれている女性にとって、中世ヨーロッパの文明などサバイバルと変わらない気がするのだがそれは偏見だろうか。


「げふっ。ご馳走様。この町に入るまでにいろいろモンスターと戦ったけど、繁殖地が多いっていうだけで、本当に強いモンスターはそこまで多くなかったし、そこはまだ安心できるのかな」

「途中に寄った村でも騎士団みたいな恰好をした人が巡回してたし、本当に、戦闘力が高いのね……」

「ただ、武器が安い代わりに、食品はちょっと高めですね。もちろん、生きていくうえでは問題ない価格でしたが、やはり食料品は王国にあるみたいですね」


 土地柄に左右されている国家、というものは少なからず存在する。

 ただ、三人が見る限り、帝国はその印象がとても大きい。

 王国もそのようになっている可能性が十分ある。


「……思ったんだけど、神聖国の土地柄って、何なんだろうね」

「「……さあ?」」


 さすがにそこまでは予測できない三人である。

 ただきっと、ロクなことを考えない人が、なぜか成功してしまった国なのだろうと思う。

 いずれにせよ、国を大きく動かすとなれば、できるのは秀星くらいである。

 三人は秀星が何を考えているのかさっぱりわからないので、今は帝国でフラフラしておくことにするのだった。


 為せば成る。

 というより、為るように成らせる。強引に。

 これを地で行く三人が神聖国に向かっているのだ。

 そりゃ変わるだろう。というだけのことだ。

 振り回されるのは、もう慣れた。

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