第六百九話
真実国ユイカミは、王国と帝国に挟まれ、そしてその王国と帝国の北側には神聖国が面している。という状態である。
もともと、ユイカミそのものは『権力的に周りから侵害されない組織を作ろうと思ったら建国しかなかった』という……なんだか学生がビルの一室を借りるために起業したような勢いだが、とにかくそのような経緯であり、技術を除けば言うほどの規模ではない。
人が集まりすぎた結果、外部から余計な人がたくさん入ってきているのだが、逆に周りからの侵略はほぼない。
今以上の権力の拡大を狙っている神聖国にとっては邪魔。という神聖国の裏側が存在するため、アルトにとっては『すごくウザい』と言えるものになっている。
なお、王国と帝国は表立って敵対してくることはないものの、ユイカミが持っている技術を盗もうとしていることもあり、無警戒というわけではない。
そして、ユイカミという国はあまりにも娯楽が少なかった。
剣の精鋭はほとんどが未成年であることを考えれば、娼館にいくのは来夏に止められる。
というわけで、『帝国や王国にも行ってみようぜ!興味あるやつがな!オレは興味ないけどよ!』と来夏が言ったので、分かれることになった。
まず『ユイカミ待機→神聖国侵入組』
秀星 風香 来夏 高志 椿 星乃
二つ目『王国探索組』
アレシア 優奈 美咲 雫
三つ目『帝国探索組』
千春 エイミー 羽計
四つ目『魔族国探索組』
基樹 美奈 天理
というものだ。
★
「ほほー!なんだかとても文化が育ってる感じがするね」
「美術的な観点で見ると、かなりすすんでるみたいね」
「そうですね。ただ、ここに来るまでにモンスターの数が少なかったように思います」
「兵士が思ったより少ないです。ね。ポチ」
「ふにゃぁ~」
というわけで、『シナスタジア王国』に雫、優奈、アレシア、美咲。そして美咲の従魔であるポチがやってきていた。
その四人の感覚だが、王国は戦力という視点で見ると最低限と言えるものだが、そのかわり文化がかなり育っている。
市場を見れば、紙媒体の娯楽品の数はユイカミよりも圧倒的に多い。
「あ、漫画もあるよ」
「そこまで発展しているのですか……しかも、装丁もかなりいいですね。値段もかなり良心的です」
秀星が散々稼いだので、金銭に大した執着がない秀星が来夏に金を預けて、それを剣の精鋭のチーム内で分配した結果。全員にそれ相応の金がいきわたった。
あとは、外交官の施設に行って王国の貨幣に両替してもらい、王国の平均的な賃金を聞いた結果、値段も良心的と判断。
どうやら『文化が発達している』ということに関しては事実らしい。
王都に来ていない段階でその感想が出る。と言えば何となくわかるだろう。
「これって、買って帰っても大丈夫です?」
「ふにゃ~」
「秀星のメイドさんがちゃんと管理してくれるから、地球に持って帰っても問題ないそうよ」
「というか、私たちの鞄の中でもマスコットのセフィアさんがいるしね」
雫のその言葉に反応したのか、鞄の中からマスコット・セフィアがひょこっと顔を出して敬礼……いや、二頭身のマスコットスタイルでとても腕が短いので敬礼はできていないのであくまでも敬礼しようとしているのだと判断するしかないが、とにかく手をブンブン振っている。いや、振っている時点で敬礼ではないのか……どうなのだろう。
「……何を主張してるんだろう」
「わかんないわよ」
「感情表現は豊かです」
「フフフ。そうですね……あら?」
二人は冒険者ギルドに向かっていた。
日帰りでできそうな物があればそれを受けて、なければ遠慮するという方針である。
そのアレシアが振り向いたとき、冒険者ギルドは騒がしい。
「何かあったのかな」
「入ってみればわかるでしょ」
で、入ってみると……。
「おい!俺たちが向かった途中でドラゴンが暴れたからクエストそのものが無効だって?ふざけんなよ!」
なんだか事情は一発でわかる叫び声をあげている男がいた。
ただ、険悪な雰囲気になっているのはその男だけではない。
どうやら、この冒険者ギルドを利用している範囲で冒険者の活動をしているもの全体に被害が発生しているようだ。
「申し訳ございません。規則で……」
「ドラゴンが出たんだから例外措置が出るに決まってんだろ!ギルドマスターを出せ!」
どうやら怒鳴っている様子だが……。
「あの、ちょっとすみません。これ、一体どうなってるんですか?」
雫が近くの冒険者に聞いている。
「ん?ああ、アイツはBランク冒険者なんだが、仲間を庇って大怪我してて冒険者活動を休んでたんだ。このあたりは療養施設があるから来てたみたいなんだが、昨日やっと復活してな」
「なんとなく読めてきました」
「Bランクに設けられてるクエストの受注期間制限が今日受けたクエストがギリギリなんだよ。このままだと降格だ。Bランククエストを受けられる街や、補填扱いできるダンジョンがある場所が遠いからこの街でクエストを受けてたんだが、ドラゴンが出たらしくて、クエストそのものが有耶無耶になったんだ」
「ふむふむ」
「あいつだって、別に金銭を要求しようとはしてないさ。ただ、Bランクとして継続するために、制限期間を伸ばしてくれって言ってるだけなんだよ。前のギルドマスターだったらすぐに出てきて、延長のための資料を作ってくれてたんだが、なんか神聖国から入ってきたっていうやつが出てきてからおかしくなったんだよな……」
「情報ありがとうございます」
雫は銀貨一枚をテーブルにおいて、アレシアたちの所に戻っていく。
「なんだか裏を感じるね」
「そうですね。まあとりあえず、ちょっと止めたほうがいいかな。他の冒険者の迷惑になってるし」
ただ、先程から受付嬢が淡々としているところを見ると、受付嬢も神聖国から入ってきたのかもしれない。
国境に近い街なのでなにか起こりやすいのだろうか。
と思ったら、美咲がその男の方に歩いていった。
(美咲ちゃん。何する気?)
雫たちは、美咲が負けるとは実は思っていない。
だが、何をするの?とは思う。
「よっ」
美咲はその男の膝を裏から蹴った。
「うおっ」
膝カックンのように、ガクッと体勢が崩れる男。
次の瞬間、美咲は男の襟を掴んで、グイッと引っ張って地面に叩きつけた。
……ちなみに、美咲のような体の小さい娘が、大男の襟首を掴んで全力で引っ張ると、当然、後頭部から床に衝突する。
「ガッ!?」
男は衝撃で完璧に気絶した。
周りの冒険者は『うそやん』と思った。当然である。
だが、彼の仲間は黙っていない。
しかし、その仲間が何かを言う前に、美咲がカバンから袋を出した。
「対応してくれないのなら、自分たちで解決策を見つけたほうがいいです。普通よりも速い特急馬車がまだ残ってるですよ。リーダーさんに対する迷惑料としてこれをあげるです」
しっかりした娘である。
……剣の精鋭の影響がありすぎてなかなかアグレッシブだが。
ただ、流石に十歳を超えた程度の娘から馬車の駄賃をもらっては男の沽券に関わる。
「済まねえな嬢ちゃん。俺たちも冷静じゃなかったよ」
特急馬車の存在を知らないわけではなかったようだが、普段使う冒険者がほぼいないことは事実である。
大手商会のためにあると言われるほど料金が高いそうだ。
ただ、一度も使えないほど稼いでいないわけではない。
メンバーがリーダーの男を肩に担いで、冒険者ギルドをでていった。
冒険者ギルド内部は歓声が響いた。
それと同時に、受付嬢がものすごくアウェーだったが、そこはそれとさせてもらおう。
(神聖国か……正直やってることはくだらないけど、倒したらそれ相応にスッキリするくらいには悪いことをしてるみたいね)
優奈はそんなことを考えながら、しっかりした態度で受け答えをする美咲を見守っていた。




