第六百七話
感づかれたのか、それとも目障りと思ったのか、ドラゴンがよく襲ってくるようになった。
ただ、一瞬で終わらせてしまう秀星たちにとっては目障りなのだ。
RPGをやっているときに、数分おきにスライム一匹との強制戦闘が始まったらイライラするだろう。それと同じである。
というわけなので、秀星はドラゴン君で遊ぶことにした。
「ほーれほーれドラゴンく〜ん。君の大好物のお肉だよ〜」
実年齢が二十二とは思えないが、大きなジューシーな匂いが漂う棒付き肉を振る秀星。
肉は直径五メートルほどの球のような形である。
なお、本当にこの肉が最高品質、かつ完璧な焼き加減で料理されたことは言うまでもない。
……そんじょそこらのセフィアでもできるレベルだけど。
「グルル……ギャオオオオオ♪」
そしてそんな肉を見て目を輝かせるドラゴン。
実は神聖国が余剰分の魔力で作って放った個体なので、正直使い捨てだ。
そのため、このドラゴンは何も食べていない。
そんなところに、とっても美味しそうに焼けて、とっても美味しそうなタレがかかっているお肉を見れば、そりゃ楽しい気分になるだろう。
ドラゴンの嗅覚は優れているが、毒が入っているようには見えない。
……ただ、一つ気になることがあるとすれば、この棒付き肉。ハンバーグのように一度ミンチにして固めたのではなく、何かしらの動物の部位をそのまま使っているように見える。
では……この棒付き肉、一体どんな大きさの動物からとったものなのだろうか……。
「ギャオオオオオ♪」
ドラゴンは肉に向かって顔面からダイブ。
ドラゴンの全長は十メートルを超える。
当然、その肉を支えている秀星にはとんでもない圧力がかかるわけだが、そんな程度で体勢を崩す秀星ではない。
……崩したほうが人間らしいが、突っ込まないほうがいいだろう。無駄だ。
なかなか大きかった肉だが、ドラゴンの食欲は凄まじく、どんどん食べていく。
ちなみに、棒にもかぶりついているが、これも柔らかい食べ物である。
本来は硬いが、食べようとするときだけ柔らかくなるのだ。
そして、完食。
最後はちょっとだけ秀星に唾液がかかりそうになっていたが、魔法で防御したのでいいということにする。
「ほっほー。うまそうに食べたなぁ……ん?なるほど、魔法で生み出されるときに、魔法陣に支配系統の魔法がかかっていて、あいつらの言いなりになってるんだな。よーしよし。俺が解除してやるよ」
秀星が指をパチンと鳴らすと、ドラゴンの表面に鎖のような紋章が存在する魔法陣が出現し、そのすべてが砕けていった。
すべて砕け散ると、ドラゴンは、全身を縛る拘束具が完全に外れたように、首や腰を回したり、翼を動かしたりしている。
「ギャオオオオオ!」
そして咆哮。
どうやら、お腹いっぱい食べて、支配魔法も解けて『スッキリ!』したようだ。
「さあドラゴン君。君を生み出して使い捨てにしようとした者たちに、目にもの見せてやれ!……あ、罪のない一般市民を襲っちゃだめだよ」
そういって、強力な支援魔法をかける秀星。
基本的に防御力特化のものだ。
集中砲火されても二兆年は耐えられるだろう。
「あとは、支配系統の手段に対する耐性だな」
更に魔法を付与する秀星。
「よし、行ってこい!」
「ギャオオオオオ!」
ドラゴンは全速力で飛んでいった。
★
そんなドラゴンを餌付けしている様子を、来夏、高志、風香、椿、星乃の五人が遠くから見ていた。
「お父さんが出したあのお肉。とっても美味しそうですね!」
「だな。俺も涎出てきた」
「あんなものをポンっと出せるんだもんなぁ。実際に料理してあれを作ることは可能だろうけど……」
「秀星君の場合、魔法一回だからね」
「未来では父さん料理しないからなぁ」
「そうなの?」
星乃のつぶやきに風香が反応した。
「そうですね。基本的にお母さんが作ってますよ。お父さんは調理するときがあるくらいですね」
「そうなのか」
「父さんが作ったものって、本当にうますぎるんだよな。未来の母さんが『常識を知るため』ってことで母さんが作ってる」
「秀星ってマジで何でもできるんだな」
来夏がうんうんと頷く。
「さて、あのドラゴンを強化返品された神聖国はどうなるんだろうねぇ」
「秀星は全体的に強化してるけど、抜群に高いのは防御力だな。あとは支配系統の魔法を防げる耐性が高そうだ。神聖国でのドラゴンの扱いはよくわからねえけど、場合によっては暴れまわるぞ」
「そうですね。ただ、お父さんを相手にする場合はこれくらい普通ですよ」
「だな。俺だって父さんを相手に生半可なイメージで挑めないし……」
椿と星乃が苦笑している。
「未来の秀星ってそんなに大人気ないのか?」
「いや、今よりは断然落ち着いてるけど……大人にはならずに成長し続けたっていうか……結構子供っぽいところがあるんだよな」
「あ、そんな感じですね。というか、外見がほぼ変わっていないので、グラウンドで高校生と遊んでいても違和感が無いんですよね」
ナンテコッタ。
「まあ、うん……どうにかなるだろ!」
「そうですね!」
「秀星だもんな!」
謎の納得をしている高志、椿、来夏を見ながら、正直雑だと思う風香と星乃。
外見として比べれば、星乃は秀星に、椿は風香に似ている。
ただ、性格は逆なのかもしれない。
第三者視点と言えなくもないセフィアは、そう思うのだった。




