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第五百九十七話

 ユイカミの政府の幹部。言い換えれば『大臣』と呼ばれるポジションは、基本的にヴィーリアをリーダーとしていたチームのメンバーで構成されている。

 女王はヴィーリア自身が、そして弟のアルトは、表向きには『Sランク冒険者』として今も活動を続けている。というものになっている。

 アルト自身が言っていた『王城勤務』というのは、『ユイカミの城の地下に存在する最高ランクダンジョンから物資を手に入れるため』に活動している。という意味だ。


 ヴィーリアはチーム内で最強。そして、アルトはサブリーダーに続くナンバースリーの実力らしい。


 ただ、普段からアルトがしている愚痴を考えれば、単なるSランク冒険者としての仕事しかしていないようにもみえる。

 これは事実で、主に貴族や商会の動きを見ているのだ。


 ヴィーリアから聞いた話だが、アルトは『パズルのピースから情報を判断して組み上げていく才能』がヴィーリアを超えるらしい。もちろんヴィーリアが低いわけではないが。

 アルトは逆に、『ピースが欠けたパズルを解くのが苦手』らしいのだが……まあそれは置いておこう。


 とにかく、ユイカミが持っている『情報』を知ろうと思えば、そのチームのメンバーに会うことになる。


「で、アルト。その情報関係ってどこの部署になるんだ?」

「情報部門というより、計測関係の部署が存在しますから、そこに行きましょうか」

「そんな部署があるのか」

「魔物の発生に即座に対応できれば、それに越したことはないですからね」

「なるほど」


 秀星はあまり考えたことはなかった。

 そもそも、秀星は強いので、『人体実験をしていなければ大体放置』という方針である。

 そうでなければ全然敵が来ないのだ。

 秀星を実物で見たことがなく、映像で見ただけで『合成だろこんなもん!』と判断した一部の人たちが遊びに来てくれるのだが、最近はそれも少ない。

 時々ヤバいモンスターが出てきたら倒しに行くのだが、それすらも大体一撃で終了するので面白みがないのだ。

 できれば敵に知性があればいい。


 剣の精鋭というチーム単位で見ても、来夏が『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』という、『何処に何があるのかがわかる』スキルを持っているので気にならないのだ。

 もちろん、ユイカミは理不尽ではないのでそんな便利なものは持っていない。


「というわけで、ちょっと行ってみましょうか」

「ああ」


 というわけで城の中を移動することに。


「具体的にどこなんだ?」

「部屋があるのは城の中でも上の方ですね。アンテナに近い場所がいいので」

「なるほど」


 そして実際に行ってみると、扉の上に、小さな花が連なったような模様が描かれたエンブレムが描かれた絵が飾られている。


「……なあアルト。あの絵。誰が書いたんだ?」

「姉様ですね。絵描きであり、細工師でもあるので、僕もそうですけど、元メンバーには花のエンブレムを刻んだバッジを送るんですよ」

「なるほど」


 秀星はもう一度そのエンブレムを観察してみる。

 とりあえず『アキノキリンソウ』だと判断。


「アルトは何のエンブレムを貰ったんだ?」

「名前を教えてくれないんですけど、これですね」


 アルトが見せてきたバッジには、『青いエゾギク』が描かれていた。


「……なあアルト」

「なんですか?」

「無茶をしないようにな」

「?……まあ、はい。わかりました」


 わかってなさそうな顔でうなずくアルト。

 それはそれとして、コンコンとノックしている。


「僕ですよ。アルトです!」

『……入ってください』


 というわけで、中に入った。

 中では、紙の資料をファイルにしたようなものが大量に本棚に並ぶ部屋となっていた。

 計測結果を記録して保管している。ということなのだろう。

 エンブレムを考えるとダミーが多そうだが。


 奥の執務用の机では、一人の眼鏡をかけた白い女性が紙の資料を見ながら唸っていた。

 紫色の長い髪はボサボサだが、身長は同年代よりも高いと判断できる。

 ただ、その胸のボリュームは圧倒的で、シャツにプリントされたパンダが横に引き伸ばされて『すっごいこと』になっていた。


「どうも、私は『計測大臣』のレアールといいます」

「朝森秀星だ。しかし、本当に『計測省』って名前なんだな……ちょっと驚いた」

「時々言われる。それと、ここにはどんな用件で?」

「あ。レアールさんには、最近の強力なモンスターの出現傾向の記録データを確認に来たんですよ。昨日の夜の会議で言いましたけど、大量の魔力を独占している存在がいるって言いましたけど、抱えきれない部分をあえて放出した結果として、その手のモンスターがいる可能性があるので……」

「む、わかった。確かこっちに……」


 レアールは横を見て、手を伸ばした。

 そして指を動かすと、それに合わせて本棚からファイルが一つ引っこ抜かれてレアールの方に飛んでいた。

 それを手に取ると、パラパラとめくっていく。


「……糸使いか」

「あれ、秀星さん。初見で分かるんですか?」

「ああ、ただ、日常生活に使えるレベルで使える奴ってあまりいないからな……」


 確か地球にも使っているやつがいたはずだ。

 元犯罪組織であるカルマギアス所属のおっさんがそんな感じだったような気がする。

 いずれにせよ。『糸』は基本的に便利なスキルである。


「あった。これでいい?」


 首をかしげながら一枚の紙を取りだした。

 表とグラフが書かれている。

 アルトが近づくと、レアールは糸を使って紙をアルトのところまで移動させていく。

 アルトが手に取って確認している。


「ふーむ……なるほど、ちょっと預かりますね」

「うん。それじゃ」

「はい。また今日の夜に会議で会いましょう」


 そういってアルトは部屋を出ていった。

 秀星が付いていこうとしたとき……。


「秀星。あなたはこの国のこと。どう思う?」


 レアールが聞いてきた。

 秀星は振り向く。

 レアールの雰囲気は変わっていない。

 ただ、それは『変わらないように見せている』だけで、実際には秀星を計ろうとしているのがわかった。


「……言うほど興味ないな」

「そうなの?」

「俺な。強すぎて敵がほとんどいないんだよ。最近、自分よりも絶対に強いって思ってたやつらがそんなに強くなかったっていうことがあってな」


 実際、神々が現れた時は秀星自身困ることがいろいろあると思っていたが、結果的にそのようなことにはならなかった。

 挑んでこないのなら挑みに行くしかないのだが、まだ、秀星より強い存在を見つけていない。

 堕落神ラターグや、全知神レルクスとその神兵が今のところ挑戦する相手となるが、ラターグはきっと戦ってもこちらが楽しくならない。

 そして、コストがかかりすぎてレルクスやその神兵長であるユキにはなかなか会えないので、そのほかで探すことになる。


 だが、そういう範囲で探すとなると全然いないのだ。


「ただ、俺のことを伝説扱いしているくらい時間が経過してるグリモアに行けば、何かいるかなって思っただけだ。でも、あのコロシアムでちょっと暴れたら、もう暗殺者もこなくなったし」

「ふむ……」

「ユイカミの方からかかわってきたからこっちに来てるだけってことになるな。あくまでも、異世界にかかわるためのきっかけとしか考えてないよ」

「要するに?」

「この国の敵になるつもりはないが、本気を出すつもりもない。そして、長いことここにいようと思うほど興味もない。それだけだ」

「わかった。よく覚えておく」

「ああ。それじゃ」


 レアールが頷いたのを見て秀星は防音性の高いドアを開けて部屋を出ていった。

 部屋の外ではアルトが待っていた。


「何を話していたんですか?」

「単なる世間話だ。それじゃ、データを解析していくぞ」

「む……そうですね」


 その話の内容が気になったようだが、聞くのはやめて頷くアルト。

 意外と踏み込まない性格だと思った秀星だが、アルトが歩き始めたので黙ってついていくことにした。

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