第五百五十七話
「……ほとんど話聞けてねえな」
「ああ。多分、俺の先の行動が全部予測されてるってのもあるだろうな」
来夏が購入した廃ビル。
そこでは、高志と来夏が大量の酒瓶やビール缶、そしていろいろなところから購入してきたであろうつまみが大量に並んでいる。
正直、あまりいいことをしていそうな雰囲気には見えない。片方がバッキバキの白装束だし。
「その『新世界の正義』って組織だけど、基本的には世界を支配することで、自分が新たな秩序をもたらすとか、そういう感じか?」
「まあそうだろうな。考えてる本人にもいろいろ事情はあると思うが、基本的にそうなるだろ。俺もよく神々に狙われてるけど、正しいことだって」
「支配ねぇ……秀星は何か言ってたか?」
「秀星は『支配による秩序』に対する嫌悪感はないらしいな」
「へぇ、そうなのか」
「ただ……『一度も負けない限り』だそうだ」
高志がそういうと、来夏はニヤッと笑った。
「一度も負けない限りか……なるほどなぁ。要するに、あくまでも平等や平和のために支配という言葉を選ぶのは……なんか言葉の定義からすると変な感じもするけど、とりあえず、『巨大な社会』に対して秩序をもたらすために支配を選ぶのは間違っていないってことだな」
「常勝不敗といえる力を持っていれば、負けないのであれば、勝ち続けることができるのなら、その権威が侵されることはない。『誰かに負けるような支配者』はいらないってことだな」
支配を選ぶという以上、それらは全て独裁政権である。
なら、負けるわけにはいかない。
トップに一人しかいないのなら、負けたらその国は終わりだ。
来夏は頷く。
「人は支配って言葉に対して敏感だからな」
「だから必ず反論が出てくる。その時に負けないのであればいいってこった。支配って言葉が持つメリットに目を向けることができるってのもある」
「そもそも秀星って支配って言葉に対して抵抗感がないのか?」
「ああ、そもそも秀星は独裁政治に対して何の抵抗もないんだよ」
「ほー……」
「理由は主に二つあって、一つ目は『決めるのがとにかく早い』ってことだ」
「まあ、議会なんて通す必要ねえもんな。その指導者が決めることだし」
「ああ、で、もう一つは、『汚職に手を出したやつを一斉にクビにできるから』だそうな」
「ハッハッハッハッハッハッハ!」
来夏、爆笑。
要するに、『独裁政治=汚職に染まる』というイメージがあるが、逆もしかりということだ。
「『国民のためにならない汚職』をやってるやつのリストを作って、ある時、一斉にクビにできるってことだろ?気持ちいいだろうなぁ」
「秀星はそういうメリットがあるって言ってたな。独裁政治は、『完全な汚職政治』と、『完全な潔癖政治』のどちらでも行えるって言ってたぜ」
「秀星って変な価値観だよな」
「だよなぁ」
高志はそういう反応をしながらも、『そりゃまあ異世界に五年もいたらそうなるだろうな』と思った。
おそらくそこで、『独裁政治の成功例』を見たのだろう。
国民のためにならない汚職を絶対に許さぬ正義感を持ったものが指導者になるという奇跡が起き、そして、国民のためにならない汚職は完全に廃止された。
いや、どこかで発生するのは間違いないが、政治や経済の様々なところで、それらは裁判もクソもなく、辞めさせられていったのだろう。
二代目がどうなるのかは知らないが、もしもその指導者が人間ではなくエルフならば、そもそも寿命が違いすぎて人が変わらない。
そして、その指導者は、国民が束になろうと革命を起こせないほど、強かったのだ。
秀星は恐らく、そういう国を異世界で見たのだろう。
「まあ、その『新世界の正義』ってのがどういうものなのか知らねえけど、多分そこまで強くはねえと思う」
「というか、人間同士で争うのとは事情が違うからな」
「ああ。勝てない神が絶対にいるからな」
全知神とか。
すべて知ってるやつにどうやって勝つっていうんだ……。
「しかし、チーム名に『正義』なんて言葉を使うとはな」
「秀星も一応、『正義』ってものに対して一つの答えがあるみたいだが、それに関しては何も言わなかったな」
「なるほど、オレも覚えておくぜ」
正義に対する価値観は人それぞれだが、それが固定されている人間は少ない。
来夏も高志もチームのリーダーだ。
メンバーが抱えている正義に対する価値観は、ある程度考えておいて損はない。




