第五百五十四話
「何をしたいのかは分かったけど、いまいち理由がわからんなぁ。独自の教育方針で神々を育てて、自分のチームを作ってるのは一目瞭然なんだけど……」
「あと、僕以外にも神の息子はいる。そっちは僕を除いて十人くらいか」
「ライザーより強いやつっているの?」
「それぞれ得意分野があると思うが、あくまでも真正面から戦うとなれば僕が一番強い」
「なら雑魚だな」
「……反論できないな」
秀星の自宅の地下。
そこで、秀星とライザーは話していた。
ただ、『すまないが、素振りをしながらでもいいか?』と言い始めるライザーに対して、『なら木刀でも打ち合おうぜ』といった秀星の返しに頷いて、お互いに木刀を振りながら会話している。
ちなみに……その速度は圧倒的だ。
木刀にかけられている圧倒的な吸音付与がなければ、お互いに木刀の打ち合いの音で何を言っているのかわからなくなっていることだろう。
「……君たち。よくもまあそんな、木刀を振りながらしゃべれるよね」
「まあ慣れればな」
「お父様もかなりしゃべるタイプだから、よくこうして振りながら会話しているし、僕の中でもあまり珍しいことではない」
「……器用だねぇ。僕絶対にできないよ……」
セフィアがいたるところに用意しているソファはフカフカだ。
ラターグはそのソファに寝転がりながら、ボーっと秀星とライザーを見ている。
「あんた剣を持ったことあるの?」
「ないよ。そんなものなくても、全部堕落させたらいいわけだし」
「めんどくさがり屋だな」
「堕落神がそんな真剣にやるわけないでしょ。それにしても、やっぱりライザー君には何も知らされていないか……それにしても、エーベルがねぇ……」
ラターグがソファの上で体勢を変えた。
「ラターグは知ってるのか?」
「彼女は最高神だしね。そりゃ知ってるよ」
「ほう。で、何を抱えていると思う?」
「さあ?まあ、一人で抱え込んだ結果爆発しちゃう子だし、今回のこの流れもそれなんじゃないかな」
「抱える?」
「彼女は『平等神』だけどさ。平等って確かに良く見えるけど、実際のところはいろいろな前提とか分かれてるものなんだよ」
「?」
ライザーは分かっていないようだ。
「要するに、平等ってものを達成するとき、『結果』を平等にすれば『過程』が平等にならず、『過程』を平等にすれば『結果』は平等にならないってことだ」
「なるほど、そのどちらかを選ばなければならないのか」
人間は七十億人いたら、七十億種類に分けられる。
それくらい、同じ人間はいないのだ。
ならば当然、その前提に縛られる。
「そうだ。過程を平等にして結果が同じになるっていうのは、神々が作るような『人間の技術レベルでは作れないシステム』に、すべての人間が絶対的に服従しなければならない」
「なるほど、技術が進化し、ありとあらゆる概念のシステム化・機械化が進めば、スイッチ一つ。エンターキー一回ですべてが可能になる。そんな単純な作業なら、生まれも育ちも関係ない」
「平等神はそのシステムに対して絶対的に服従するシステムを作り出そうとしてるんじゃないかな?多分いろんな神々を味方に引き入れるためにいろいろ言ってると思うけど、根本的な部分っていうのはそういうところにあると思うぞ」
実際のところは聞いてみないと分からないが、基本的にそのような感じだろう。
「ふーん……それにしてもあの子がねぇ。昔はヒョコヒョコついてくる可愛い子だったのになぁ」
「ラターグは面倒を見たことがあるのか?」
「僕自身が最高神だからね。やらされるときはあるさ。まあ僕にとって何かを教えることはそこまで苦痛じゃないしね」
「そうなのか?」
「いろんな創作物を読んでるからね。屁理屈なのさ」
「あっそ……」
「まあでも、あの頃はかわいかったなぁ。でも今ではこんなことを企んで……高級カジノに放り込んだのが悪かったのかな」
ズガガッ!
「いでっ!」
「あだっ!」
ラターグのあんまりな言い分に剣筋が鈍った秀星とライザー。
「どこに連れて行ってるんだお前……」
「いやだって、一応連れて行ってもいいっていう段階だったんだよ。だから連れて行ったんだ。金銭的に丸呑みにされてたけど」
「ディーラーも容赦ねえな」
「まあ、エーベルがっていうよりは僕が恨まれてるんだけどね」
「そうなの?」
「ちょっと荒稼ぎしすぎちゃってね……そっち方面から出禁食らってるのさ。そんな僕に影響されてるエーベルのことを邪険に扱ったんじゃない?」
「「……」」
大丈夫なのかそれ。と言いたそうな顔でラターグを見る秀星とライザー。
「まあでも、あの頃はそれも含めて楽しかったけどね。」
「どういうことだ?」
「ノウハウだけはすごく持ってるから、僕の直属の神兵に吹き込んで、隠れコンサル料をもらってたこともあってね。これがもう稼げるもんだから、自分とは関係ない神兵にもコンサルティングをしたんだよ」
「……」
神兵というのは、神々が人間の中から選んで、自分の力をある程度与えることで生み出せる私兵のことだ。
天界でも下界でも、拾って来ようと思えばどこでも構わないが、面倒を見る義務が発生する。
「まあ、ルール違反じゃないけど褒められたことじゃないし、どこに行っても推奨されないことだからね。チクられたよ。全知神もいるし、いつかばれるだろうなって思ってたけど、まさか内部告発とは思わなかった」
「ブフッ!」
秀星は吹きだした。
「そ……それでどうなったんだ?」
「結果的に、裁判神とか判決神とか全知神とかいろいろ出てきて、首謀者の僕にはとんでもない罰金が発生したよ。コンサルの生徒達には何の非もないってさ。捏造神の小娘が本気出しやがって……」
「プクク……それで、もうギャンブルコンサルは止めたんですね」
「ギャンブルの裏コンサルは止めたけど、ノウハウを話すと情報料で稼げるのは分かったから、他のことを教えていたよ」
「例えばどんなことだ?」
秀星が聞いた。
「神兵に対しては下界活動で失敗しないため方法、最悪、失敗しても損害を最小限にして挽回できる方法とか……」
「内容としてはいいじゃないか」
秀星が笑顔になった。
「先輩神兵の弱みの握り方とか、訓練のサボりどころとか……」
「……」
秀星の目が一気に冷たくなった。
「たまに新しく来る下位神に対しては、加護を与えた神兵が失敗しないようにする僕流の教育方法とか」
「……全体的にロクな事しないな」
「すると思ってるのかい?」
「いや、全然」
「まあそんなもんさ。その時期が悪かったのかなぁ……」
「そりゃそうだろ」
ラターグはまた体勢を変えた。
「まあ、あのころからちょっとあの子のことを見なくなったし、多分それが原因なんだろうねぇ。僕もなんとかする必要があるか。このままだと全知神にいろいろ言われそうだし」
ラターグは秀星とライザーに背を向ける。
『もうこれ以上は何も言わない』という合図だ。
秀星は溜息を吐いて、とりあえずどうするのか頭の中で考え始めるのだった。




