第五百三十五話
神獣。というものを覚えているだろうか。
地球に存在する世界樹を狙ったオリディアが解き放ちまくっていた獣たちもこれに該当するのだが、ぶっちゃけて言えば『神の力がなければ攻撃が全く通らない』という要素があるモンスターたちだ。
……なぜか神の力など何も持っていない来夏の攻撃が通用したりしていたが、それに関してはもう例外とだけ言っておこう。来夏や高志に関してまじめな考察など時間の無駄の極みである。
「……なあ、ラターグ」
「どーしたの?」
「神獣ってさ。神の力がないと作れないよな」
「基本的にそうだね。あと、『神獣』が『神獣』を作るっていうパターンも一応あるよ。今は世界樹の化身になってるオリディアがそれに該当していたかな」
「じゃあ、あの暴れてるドラゴンは、やっぱり神が作ったってことになるのか?」
「だと思うよ」
山頂。
普段は緑にあふれていたのか、元から何もなかったのかは不明だが、ブレスで地面を焼き払いまくっているドラゴンがいた。
赤色で普通のフォルムだが、神獣であることは漏れ出ている魔力を見れば、秀星なら一発で分かる。
「ていうか、山頂で何やってんだろ」
「本気で焼き払っているようには見えないし、何かの条件を満たそうとしているんだろうね。神獣に属するモンスターが本気でブレスを放ったら、辺り一面がとんでもない事になるし」
「だよな。しっかし、一体どの神が作ったんだろうな……ラターグじゃないよな」
「僕が作った神獣が働くと思うかい?」
「ありえないな」
「というか、神獣を作ったことあるけどね」
「どうなったんだ?」
「作ってから二京年くらいベッドでゴロゴロしてた」
「京……兆の一個上か」
「我ながら驚いたね。作った早々にダラダラし始めたから、いつになったらベッドから出るのか、神々で賭けをしてたくらいだよ」
「ほー……」
「お蔭で僕の財布は膨らんだよ」
「胴元お前かよ……」
バカなことを話していると、ドラゴンがこちらを向いた。
「……あ、こっち向いたね」
「まあ、せっかく目立つ場所でブレス出しまくってたのに、せっかく来た来訪者が自分そっちのけで喋りまくってたら、ドラゴン君が背景にしかならないしね」
「そういうこというな」
というわけで、ドラゴンがブレスを放出してくる。
……なお、オリディアが出した神獣を相手にして、秀星がそれ相応に本気を出していた。
だが、ラターグがそばにいる秀星は、臨戦態勢にほぼ入っていない。
「まあ無駄だね」
ラターグが指をパチンと鳴らすと、ブレスはその勢いを失っていき、そのまま消えていった。
「うわあ……エグいな」
「だよね。結構初見殺し的な部分もあるし」
「耐性はいろいろ付与するだろうけど、『魔力そのものが堕落する』なんて普通考えないもんな」
「そして、『魔力そのものを活性化させるってどうすればいいんだ?』って話になるわけ。まあ、最高神になるとこれくらいは普通だよ」
「うわー。ドラゴンがめっちゃ驚いてる」
「当然さ。たぶん見たこともない現象だしね。勢いが落ちるとかそういう次元じゃないし」
ドラゴンが次々とブレスを放ってくる。
ラターグは指を鳴らすのも面倒になったのか、あくびをしながらブレスを堕落させ続けた。
「ふあぁ……ん?まだやるのか。ハッハッハ!無駄無駄!僕を倒したければ最高神を連れてこーい!」
「単なる神獣でしかないやつに本気を出す最高神ってなんか大人げないな」
「うるさいな。いいでしょこれくらい。ていうか全然本気なんて出してないし。それにしてもあいつ。神獣にしても新米だね。まだたぶん『魔力が堕落ってどういうことなんだ!?』って考えてるよ」
「『再定義』が神の力の基本なのに……」
「まあいいや。とりあえず終わらせちゃおうか」
終わらせる。といったラターグだが、特別何かをしている様子はない。
だが、ドラゴンはその場に倒れた。
すでに、絶命している。
「……『命』を『堕落』させたのか」
「そういうこと。生きるために最も必要な部分が堕落したしね。神の視点では、『命』っていうのは『魂』よりも優先順位が上だから、命のほうを狙われると終わりなんだよ」
「……」
「どうしたの?」
「いや、俺が神獣を倒したときはそれ相応に苦労したからな」
「最高神と比べちゃだめさ。それじゃあ、僕は先に帰ってるよ」
ラターグは転移して帰って行った。
秀星はそれを見た後、絶命したドラゴンを見る。
「神獣がこんな簡単に……」
次元最高の『優先順位』を持つ存在の力。
「俺も精進しないとな」
そういうと、秀星も転移魔法を使って帰った。




