第五百三十六話
「フフフ。秀星君の家のソファは何時もフカフカでいいねぇ」
夜。何の容赦もなくソファに寝っ転がるラターグ。
なお、秀星はいろいろと準備をすると言って不在である。
「神器のメイドや執事ってたまにいるけど、それを抱えている主人の家ってやっぱりいいねぇ。まあ僕としては、ベッドメイクに完全に特化した神器を持っていた方がいいと思ってるけど、そこまで彼に臨むのは酷かな」
セフィアはメイドとして多くのことをこなすが、本当にベッドメイクのみを行う神器も存在する。
ただし、だれも味方がいなかった異世界で過ごしてきた秀星にとって、必要なのはベッドメイクだけを行う神器ではなく、万能をこなす神器だろう。
「……あ、一応言っておくけど、僕、ちゃんと聞いてくれる人がいるときにしか独り言は言わないからね?沙羅ちゃんは多分そのあたりのことは分かってると思うけど」
「……あらあら、やっぱりばれていたようですね」
早々にばれたのでドアを開けてリビングに入ってきたのは、秀星の母、朝森沙羅である。
「まあ、僕くらいになるとわかるよ。ていうか、自分の息子が作った技術くらいは対策しておくべきじゃない?」
「秀ちゃんが作った技術?」
「隠れて気配を周囲に溶け込ませようとしている敵に対して、雰囲気のオンオフをして見つけるってやつさ。僕の場合はそれを神力で代用してるだけだよ」
「……気が付きませんでした」
「そりゃ単に沙羅ちゃんの認識力を超える速さだっただけさ。まあそれはいいとして……なんで来たの?」
「自分の息子の家に、最高神が来たとなれば気になりますよ」
「そりゃそうだね」
寝転がったままでうなずくラターグ。
「沙羅ちゃん。そろそろ隠せてないんじゃない?」
「そうねぇ……確かに、私が『転移神サラ』であることがばれてきてるかもしれないわ。最近は、神が敵に回っても倒せるような手段を開発してるみたいだしね」
「ほう、神殺しの手段か。まあ、この手の世界なら作る人はいるだろうけど、ある程度構造もまとまってるんでしょ?その……熱意だとか怨念だとか奇跡とか、そういう奴じゃなくて、もっとしっかりしたやつ」
「あるみたいですよ」
「なるほど、それにしても神殺しかぁ……それを使って、僕を殺せるかな?」
「無理よ」
「即答かい」
「補足すれば、最高神が倒せないというだけであり、上位神や下位神は倒せるわよ」
「あ、なるほど、最高神である僕や沙羅ちゃんは倒せないけど、僕らよりも下の神は倒せるってレベルか」
「フフフ、まあそれくらいあれば十分よ」
「だね。僕もそう思う」
ラターグは枕をポンポンとたたいて、また頭の下に置いた。
「神殺しかぁ……神が出てくる創作物を読んでると大体出てくる概念だけど、沙羅ちゃんどう思う?」
「どうでもいいと思うわよ」
「何の役にも立たない意見だね」
「フフフ……あ、そういえば、あなたは何か聞いていないかしら」
沙羅はドアの方を向いた。
そこでは、セフィアがちょっとだけ扉を開けて中をのぞいていた。
ばれたので普通に中に入ってくる。
「さすがに最高神二人が相手では、どうしようもありませんね」
「フフフ。当然よ」
「でまぁ、何かあるかい?」
ラターグはそう言った。
セフィアは少し思い出すように目を閉じて、数秒で目を開いた。
「あくまでも秀星様が言っていたことですが、【『神殺し』という考え方は『責任転嫁や自己保身の終着点』】だそうです」
「ほう。なるほどね」
セフィアの言葉を聞いて、納得したようにうなずくラターグ。
「フフフ、秀ちゃんの考え方は面白いわね」
「要するに、様々な失敗が発生する現状の責任を、『超常的かつ意思がある存在に押し付けようとする願望』ってことだね」
「神殺しというものが達成できるかどうかっていう考えじゃなくて、そもそも神殺しという考え方がなぜ存在するのか。ということね」
そもそも、神というのは信仰の対象である。
「……んー。なんか若干つながってない気もするけど」
「この考え方の根本に存在するのは、『世界に悪影響な秩序をもたらす存在を滅ぼせばすべてが解決する』という考え方なわけです。悪影響な秩序をもたらす存在は何でもいいのですよ。その手の勧善懲悪の創作物において、『邪神』も『独裁者』も、大した違いはないのです。『悪の象徴』として使いやすいだけなのですよ」
「なーるほど。いずれにしても面白い考え方だなぁ」
「なおかつ、神殺しという概念は、存在するとしても達成が困難なものであることが必然です。絶対的な存在である神を殺すのですから難易度が高いのは当然です」
「だから責任転嫁って話になるのね」
「『原因は神にある。だが、絶対的な存在である神が滅ぶことはない。だからこそ、私は今失敗している』っていう理論を展開したいわけか。秀星君はこういう抽象的な話をさせると面白いね」
ラターグは微笑む。
「それはそれとして……沙羅様が最高神の一人、転移神サラであることはそれ相応に重要なことだと思うのですが……」
「何をためらう必要があるんだ。ここには僕らしかいないのに」
「もしも誰かがいたら、という話ですよ」
「関係ないわよ。神器すら持たない一般人がビルでお手玉したり、海底に沈んだ船を引き上げるよりもね」
……確かに。
セフィアは納得した。
「秘密かぁ、そういえば、一体どんな秘密を秀星君に押し付けてるのかな?」
「いろいろですよ」
「まあ、異世界で五年も過ごせばいろいろ変わるか。秀星君はあまり語ろうとはしないけどね」
ラターグは枕を取り替えて、またそれに頭を乗せた。
「フフフ。私は、ラーくんがここに働きに来たのは驚いたわ。何かにつけて他人に任せると思ってたのよ」
「レルクスにさ。溜め込んでた裏金を全部暴露するぞって言われてね。そういう弱みを握られるとどうしようもないんだよ。まあ、仕事の前金ももらってるけど」
「全知神が相手ではどうしようもないですね。普段は人の家でダラダラしているだけなのに給料が発生するのですか?」
「まあ、特定の神がいるっていうだけで抑止力になる部分があるのさ。これでも僕は最高神のなかでトップスリーに入るからね」
「世も末ね」
「世も末ですね」
「容赦ないな君たち……」
世間はニートにあたりが強い。
神々の世の中でも同様である。
「ラーくんは普段は何をしてるの?」
「ベッドでゴロゴロしたりぐっすり寝たりしてる」
「スマホとかパソコンとか、通信料金が取られるんじゃないの?天界のアレは高いわよ?」
「いや、僕は何もせずにダラダラするだけだからね」
「「……」」
沙羅とセフィアは思う。
コイツの生きがいって何なのだろうと。
「まあでも時々スマホ見たりするかな。世の中のテンプレの遷り変わりを見ていくのは結構楽しいよ」
「ぐーたらね」
「ぐーたらですね」
「あの君達、そういうテンプレを理解しているからこそ、大きな仕事を頼まれるってことなんだよ。そういうテンプレを知らずに下界に来て失敗する神々って多いんだからね?その点、僕はこの手の仕事を失敗したことはないよ?」
「もちろん知ってるわよ」
「ならなんで?」
「高志君と同じで、いじっても問題ない相手だからよ」
「僕、あのギャグ担当と同列なの?褒めてるのか貶してるのか分からないね」
「貶してるのよ」
「高志君が不憫すぎる……」
妻から影でこんなこと言われてるなんて……。
「夫婦なんてこんなものなのだろうか」
「常識のある母が家庭の中で一番強いっていうのが一番バランスがいいのよ」
「だからって主人を貶していい理由にはならないと思うけど……」
ラターグはコメントに困ってきた。
「まあいいや。この話は終わりだ。なんか高志君を貶すだけになりそうだし」
「そうね」
「そうですね」
「首肯しちゃだめでしょ……」
ついにため息まで出てきたラターグ。
「あ、そういえば、この地球を調べてみて、一つ気になったんだけど……」
ラターグは何かを思い出すように、ラターグは話し始める。
「最高会議の……アトム君だっけ?彼が率いてる『ドリーミィ・フロント』のメンバーの糸瀬竜一君だったかな。彼、顔のパーツと体格だけ見ると、『創造神ゼツヤ』とそっくりなんだけど、なにか知ってる?」




