第五百ニ十九話
来夏が流星になったことで、チーム高志が優勝である。
……人間が流星になる。ということが、一パーセントの悲壮感もなく完全にギャグとして存在するのは高志と来夏関わったときくらいだろう。まあいいや。
そして、ここからはチーム高志が秀星と戦うか。という判断をすることになる。
ここで引き下がるようなことをする高志ではないので、当然チャレンジ。
秀星VSチーム高志。
正直な話をしてしまうと、勝負など見えている。
どれほどギャグ補正というものが存在し、そしてそれがとても解明不可能なものだとしても、あくまでも障壁を削ればいいだけだ。なんの問題もない。
とはいえ、暗黙の了解の関係上、このバトルは事情が異なる。
このバトルロイヤルはあくまでも、『椿に好きにさせよう』というものなのだ。
だからこそ、チーム戦であるバトルロイヤルの初っ端から、椿が単身で秀星のもとに突撃して行くことができたし、秀星は適当に遊んだら椿を送り出した。
だが、もう秀星を含めて六人しか残っていないので、秀星としてもいろいろ考える必要がある。
主に戦闘規模の話だ。
当然だが、本気は出せない。
空間が持たないからだ。
高志と来夏の戦いで大都市が更地になったが、似たような結果は秀星と高志が戦っても容易に引き起こる。
そのため……。
「お父さん!覚悟ですうううう!」
「俺、未来でなにかやったのか?」
刀を持って父親に突撃する椿。
まあ、最序盤の戦いは彼女に任せたほうがいい。
「……何かありましたっけ?おじいちゃんが原因のほうが正直多いので」
「その話題まだ俺に降り掛かってくんの?」
宿命であり自業自得である。
「あ、一つ、高校二年生であるお父さんに聞きたいことがあります」
『高校二年生であるお父さん』という字面のインパクトがなんだか異様だが、受け入れられるのはなんでだろう。
「なんだ?」
「すでに資産が二兆円を上回っているって未来でお父さんは言ってましたよ」
「まあ、それぐらいあるんじゃないか?世界樹商品の販売はセフィアに全部押し付けてるけど」
「おー……」
「……これってなんのための質問なんだ?」
「いえ、未来でお父さんに『お金って何ですか?』ってきいたら『俺んちにはたくさんあるもの』と言っていたので、高校生のときはどれくらいなのか気になっただけです」
(未来の俺何やってんだろ)
まあそれはそれとして。
「さて、話は終わりです。いくぞおらあああああ!」
どこかでやっているところを見たことがあるような叫び声を出して突撃してくる椿。
「……あとで父さん殴っておこうかな」
「なんで!?」
秀星の言い分の日本語訳すると、『自重しろバカ』である。
まあそれはそれとして、椿が振り下ろしてきた刀を、即席で作った剣で受け止める秀星。
「む、むううううううう!」
剣で受け止められたが、何を思ったのか鍔迫り合いを仕掛けようとする椿。
体重も腕力も技術も上の相手に何をし始めているのだろうか。
ちょっとよくわからない。
(……風?)
椿の後ろで風が発生している。
次の瞬間、椿の体が風に後押しされて重量が増す。
「あ、なるほど、そういうことか」
「体重と腕力で負けていても、圧力を上げれば鍔迫り合いは……可能になってないですね……」
そりゃぁね。
もとの技術が全然違う。
椿は埒が明かないと思ったのか離れる。
そして、次は高志が前に出てきた。
「んじゃ。俺らもやるか。正直、秀星と真正面から戦うのは初めてだぜ」
「俺も戦ったことないな」
高志が前に出てくると、気を引きしめる秀星。
お互いに、手加減ができる相手だとは思っていない。
そして次の瞬間。
グローブを付けた高志の拳と、秀星が作った剣が激突する。
すると、秀星が即席で作った剣は一撃で砕け散った。
「それなりに頑丈に作ったはずなんだがな……」
「ハッ!その程度で俺の拳に耐えられるわけねえだろ」
「それもそうだな」
秀星は星王剣プレシャスを容赦なく抜いた。
「は、最初からそっちを抜いとけよ」
「それは大人げないだろ」
「齢十七で大人を語るには早すぎるぜ。秀星!」
再度激突する親子。
今度はしっかりと激突しており、周囲の物が余波で粉々になっていく。
「うおおおお!なんだかすごいことになってきた」
「雫。正直、どうやって切りかかるべきだと思う?」
「そもそも秀星君に大体の技は通用しないし、とりあえず、何かあった時のために自分の得意分野で行くしかないね」
というわけで、雫は短剣を構えて、羽計は剣を構えて、風香は刀を構える。
「むうううう。せめてお父さんに一撃入れてやります!あとおじいちゃんも後ろから一発入れておきます!」
「なんでや!」
理由は不明だが謎のモチベーションを引っ張り出す椿。
……さて、このような状態だが、大丈夫なのだろうか。
まあ平常運転だろう。きっとそうに違いない。




