第五百二十五話
剣の精鋭も、ユニハーズも、『単騎で強い』といえるメンバーがそろっている。
要するに連携がほぼ地獄なわけだが、言い換えれば『自分はあいつを相手にするのが無難だ』という判断もしやすいのだ。
視野は狭くないけどちゃんとした対応ができないから当然である。
チーム高志とチームアステルの場合。
高志VSアステル
風香VSオウガ
雫 VSエイミー
羽計VS天理
椿 VS千春
という状況が何となくで形成される。
……ちなみに、二十年後の未来の人間である椿がこの流れについていけるということは、剣の精鋭やユニハーズの活動が今とどう変わっているのかどうかはひとまず放置するとして、連携の問題は解決できていないということになる。
視野が広かったり知識のあるメンバーが一時的な指揮を執ることで、瞬間的に爆発的な成果を出すことは可能だろうが、いずれにせよ。あまり連携という面では大したものではない。
そもそも人間の目が動物と違って黒目と白目の境がわかるようになっているのは、大きな猛獣などを相手にする場合に、味方とのアイコンタクトをとることができるという利点があるのに、連携放棄をわざわざ選択するのだからいろいろ問題がある。
生半可な実力、および将来性ではどちらも入れないのがある意味救いでもある。
さて、この五人VS五人という構図だが、当然、規模はなかなかすさまじいことになる。
この場合の『規模』というのは、もちろん……。
「おわあああああ!」
高志が叫び声をあげる。
背後で森のほとんどが爆発したからだ。
一対一も一か所でまとまって発生すると乱戦とほぼ変わらない。
一応高志はアステルと戦っているわけだが、背後ではオウガと風香の高出力勝負が繰り広げられているので、森に対するダメージも大きいのだ。
生成した空間でバトルしているゆえに、環境破壊などの視点で考えるとまったく問題ない。
「おぐっ!」
高志の頭に大木が落ちてくる。
下敷きになるが……。
「効かあああああああん!」
その大木を殴って出てくる。
あと、大木が直撃したのだからせめて効いてほしい。
「ていうか誰のせいだおい!」
なお、高志の背後でやりあっているのは先ほども言った通りオウガと風香だ。
位置的に、何かを攻撃した時に高志に影響がある攻撃ができそうなのは風香である。
……要するに味方の誤爆である。しかも息子の嫁。
「俺って人望ねえのかな」
そもそもお前は人望など気にしていたのか、百歩譲って片腹痛い。
「まあいいや。ていうか、全然当たんねえな……」
高志の頭脳はそれなりにいいのだが、基本的にワンパンなので、初見ではない相手がはそれ相応に対応してくる。
アステルもそのきちんと対応できる一人だ。
と言っても、殴りかかってきたら、わざと壊れやすく作った槍で防御し、相手が砕いて、その砕いたことを高志が認識している隙に距離をとったり反撃しているだけなのだが。
普段は高出力の槍をできる限り早く生み出すために試行錯誤を繰り返しているので、見栄えがいいだけで中身スカスカの槍を作る程度ならなんの苦にもならない。
それなりに戦闘時間が長くなれば高志もアステルの狙いに気がつくだろうが、面倒なのは、本人の頑丈さをある程度反映する障壁のため、硬すぎることだろう。全然削れているきがしない。
「ちっ、面倒だな」
「ハッハッハ!アステル。俺を相手にしてめんどくさくなかったことが今までにあったか!」
「自覚あるのかクソリーダーめ」
「俺は学生時代は成績トップだぜ。常識がわからないわけねえだろ!」
「えぇ!?」
「……」
叫ぶ高志。
驚く椿。
萎えるアステル。
「……え、知らなかったの?」
「お父さんはおじいちゃんのことを赤点量産機と言ってましたよ」
「取ったことないわ!ていうか秀星ひどすぎ!」
この親にしてあの子供ありである。
あと、急にこういう話が始まるとかなり気が散るわけだが、実を言うと、今戦っているメンバーの中で、精神年齢が子供なのはたくさんいるが、精神年齢が『幼い』のは椿だけだ。おそらく小学六年生の美咲よりも椿のほうが幼いだろう。
しかも、椿はこのバトルロイヤルが終われば、ほとんど時間もなく、未来に帰る必要がある。
そのため、『とりあえず椿は好きにさせておこう』という暗黙の了解である。それくらいの判断は全員が出来るのだ。
「あ、千春さん。すみません。勝手に話してしまって」
「フフフ。別にいいわよ。聞いてて面白いし」
「そうですか?」
「そうよ」
戦っていた相手である千春に謝る椿だが、千春としては『もともと椿には好きにさせる』という暗黙の了解を守っているうえに、空気とか本人の評価を気にせずにズケズケいう椿は面白い。
「……どうかしたの?」
「いえ……私が知る千春さんは巨乳なので、ちょっと驚いてます」
「へ、へぇ、私、未来では巨乳なんだ」
つるぺったんな体の千春。
未来ではどうやら大きくなっているらしい。
「確か千春さんが豊胸剤という薬品を開発してましたね」
それを聞いた全員が『なんの執念だ』と言いたそうな顔になった。
「あ、そういえば、おじいちゃんはそれを見て、『養殖巨乳』と言ってましたよ!」
空気が、凍った。




