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第五百十三話

「さて、もうそろそろやってくる頃か……」


 秀星とセフィアは先ほどクジラやモグラを倒し続けていた海域の空中で、浮遊魔法を使って待機していた。

 ほかのメンバーはいないが、こればかりは何となくそんな雰囲気になっただけだ。

 何かを守りながら強敵を倒すというのは難しいのである。


「正直、神獣じゃないといいなぁ」

「神獣に対する切り札があるといっても、強い個体は本当に強すぎますからね」

「そうなんだよなぁ、オリディアの時は、別に俺が勝ったわけじゃなくて、オリディアの方が俺に興味を持っただけで、別に俺が優位だったわけじゃねえし」


 切り札があるというのに面倒な表情をするということは、言い換えるならその切り札を使うのはとてもコストがかかるということである。

 神器が十個もありながらそういう状態であるということは、使いこなせていないということである。

 もちろん、ほかの切り札も合わせて使えばいいのだが、結果的にコストが異常に増えるだけだ。

 敵を一人倒すために使うようなエネルギーなど完全に超えてしまう上に、その切り札は、使った結果確かに強いのだが、その効果の特性上、発生する結果が好みではない。

 そのため嫌いなのだ。


「さて、もうそろそろか」


 秀星はプレシャスを抜いて、オールマジック・タブレットを左手に出現させる。

 そして、『デコヒーレンスの漆黒外套』を身にまとった。


「!……下がってろ。セフィア」

「はい」


 何かに気が付いた秀星。

 そして口から漏れた指示に対して、セフィアは疑問も反対もない。

 秀星としても『何か』に対する答えはないようだが、セフィアはそれがどのレベルで懸念すべきことなのかを把握することができる。


「……」


 秀星がプレシャスを構えなおしたとき……。

 隕石が、秀星めがけて落ちてきた。


 秀星はそれに対しては何の驚きも見せず、プレシャスを下から切り上げるように動かす。

 直径百メートルはありそうなほど大きな隕石だが、秀星のプレシャスに衝突すると、そのまま落下を停止する。


(斬撃じゃなくて破壊特化のプレシャスに触れても大して削れない……なかなかの硬さだな)


 プレシャスで耐えるようにして、タブレットを使って、自分の後ろからマグマの球をいくつも出現させる。

 そして、マグマの球に貫通と加速を付与して、次々と隕石にあてていく。


 爆撃機による空襲がかわいく思えるほどの爆発が発生。

 当然、秀星にも何かしらの被害はあるわけだが、漆黒外套による完全防御と、エリクサーブラッドの完全耐性により、無傷である。


 マグマの絨毯爆撃を嫌がったのか、隕石は秀星から距離をとった。

 そして、隕石そのものが小さくなっていく。

 殺意や闘気は感じられるものの、攻撃の意思は感じられないので、単純に形状変化だろう。


(形態変化の時は無防備っていうのがお約束だと思うんだが、こいつの場合は隙がないな。まあ、元が隕石だし)


 そんなことを言っているうちに、完了したようだ。

 全長十メートルほどの、岩石でできた鳥である。

 ……飛ぶために体重を軽くしたいという意思を全く感じられない形態だが、鳥の姿をとりたいというのならべつにそれを否定する気はないのでいいと思うことにした。


「さてと、第二ラウンドか?それともまだ第一ラウンドの続きか?それとも、まだ第一ラウンドにすら入っていないのか?なんでもいいが、さっさとかかって来いよ」


 その意味を理解したかどうか、秀星にとって定かではない。

 だが、鳥は羽ばたくと、その羽をまき散らす。

 岩石のような材質に見える羽。

 次の瞬間、すべての羽が秀星に向かって飛んでくる。


「……」


 秀星は何も言わず、プレシャスを真横に一閃する。

 それだけで、『羽が飛んできた空間』が破壊されることで、それに付随する羽がすべてその形を崩壊させた。

 秀星は次の瞬間、タブレットを使ってその空間を元に戻す。

 続けて、炎の竜巻を出現させて、鳥に向かって放った。

 鳥はその見た目の材質に似合わない素早さで羽ばたくと、竜巻が存在している空気そのものをまとめて吹き飛ばすことで、竜巻を発生していない状態にした。

 すぐに空気が戻ってくる。


「……準備運動はお互いにいらないな。小手調べはお互いにすんだはずだ。さて、そろそろギア上げていくぞ!」

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