第五百十二話
さて、隕石が二時間以内には飛んでくるだろうという、なんだかとても緊迫したいのにしきれない感じになったが、とりあえず落下位置を特定する必要がある。
ただし、これは別に難しいことではない。
そもそも隕石そのものがすでに見えているので、物体の大きさと速度はすでに分かっているのだ。
プロテクトがすごいので、確かに止めることはできない。
ならば、止めることはあきらめて、ほかのことをすればいいだけの話だ。
「で、隕石が落ちてくる場所を算出してみたんだが……」
「アステルもなんだかんだ言ってチートだよな。パソコンに触れている様子もなく普通に隕石の落下位置がわかるんだし」
「ユニハーズにいるとこれくらい普通だ」
変な普通である。
とはいえ、秀星だってできるのだから、今更感が強い。
「……まあ、算出した結果だが、あの隕石の落下位置は、秀星と基樹がクジラやモグラを倒しまくっていたあの海域だ」
「衝撃を少しでも和らげるために海に飛び込もうとしたのかね?」
「海水って浮力が強いから、とんでもない速度で突っ込んだらコンクリートと変わらないって聞いたことがあるような……気のせいか?」
「そこは私が気にするところではない。第一、その隕石はその程度の衝撃なら問題はないという算出結果も出ている」
「速いな」
「そもそも秀星たちはその計算をめんどくさがってやろうとしないだけだろうに……」
「いや、俺が本気出したらちょっと……俺以外のみんなの活躍する場面がなくなりそうで……」
「否定しないがそういうことは心の中にしまっておけ」
「わかった」
秀星は実際、アステルがやったことを一人でできる。
だが、あえて動かないだけである。
一番厄介なのは、アステルや高志たちなど、圧倒的な実力を持っている者たちが、そのあたりの事情を理解している。ということだろう。
世界最強と言われる秀星にこれくらいのことができないのなら、付け入る隙がありすぎる。
「今は私としか話していないからいいが、あまりそういうことをみんながいるときに言うなよ」
「さすがの俺もそこまでデリカシーがないわけじゃないって」
「ならいい。そして、予測の続きだが……その戦闘力は、普段出している程度の秀星の実力では勝てないだろう。というレベルだ」
「まあ、そういうことになるよな。俺もなんとなくそれも感じてるよ」
「ならいいんだが……私としては、余波の方が心配だ」
「周りにどんな被害が及ぶのかわからないってことか」
「まさか向こうが、私たちのこれからの生活について考えているわけじゃないだろう」
「当然だな」
「拠点の方が問題なかったとしても、地形とか荒らされるといろいろ面倒だ。そのあたりの余波は……」
「まあ、障壁でどうにかするか。島の方に落ちてこないのなら、あらかじめ使っておいても割られることはないし、島全域に使っておけば防ぎきれるだろ。随時更新は必要だが」
「私も同意見だ」
秀星とアステルというメンバーで話しているわけだが、二人とも、『出てくる敵がどの程度の強さなのか』という肝心の話題には深く触れていない。
プロテクトがかけられているということは、隕石の中がわからないということでもある。
きっとどうにかなる。
ならば、答えが出なさそうな話題は避けて、答えの出る現実的な視点をほぼ網羅しておく。
そういう話し方というわけだ。
実際、これでどうにかなることが多いのが神器という存在である。
ただ、一点。
「……なあアステル、なんかちょっと元気がないみたいだけど、何かあったのか?」
「……少し、な」
さすがに、二十年後も独身などと言われると、元気がないのはアステルも変わらないのである。




