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第五百十話

「……なーんか。雰囲気が悪くなったな」


 来夏は空を見上げてそういった。


「また隕石ですか?」

「いや、そっちじゃねえな。隕石を使っているのは確かだろうけど、こっちに安全にくるために隕石を使ってるみたいで、なんだかとても不自然な物体になってる」

「来夏の『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』ってどこまで見えるんだよ……」


 来夏がいろいろ言っているので秀星も見てみると、確かに隕石がこちらに向かっており、その内部にも何かの存在がいることを確認できる。

 『見る』だと、物体から反射された光を見る必要が合って面倒なので、『空間認識』系統の魔法を使い、さらに『超遠距離鑑定』を行うことで認識している。


「よくわかったな」

「勘だぜ!」


 グッドサインを示す来夏。

 秀星としてはなんだかとても複雑である。

 映画とかだと、隕石の発見はストーリーの都合上、とても遅いのだ。

 映画の事情は置いておくとしても、様々な計測器が発する遠征からの情報を得て、そしてそれをもとに対応するのが普通だろう。

 まっすぐ地球に向かってくる超高速の物体。

 懸念しなければいけない物体だ。

 だが、そう言った技術とか全部無視して、このゴリラは勘で空を見上げて、飛んでくる隕石を発見するのだ。

 秀星はそれを見ながら、『こいつはバトル漫画に入れても、頭脳形が入るタイプは無理だな』と思うのだ。


「で、どうする?」

「いやまあ、正直、俺と来夏だけで話しても事態が収束しない気がするけどなぁ」

「でも隕石なんだろ?そもそもどこに落ちるんだ?」

「ユニハーズの拠点のそばにおいといた巨大隕石だな」

「……隕石の上に隕石が落ちてくるのか?」

「そこまで珍しい状況になるのかどうかはともかく、多分途中で減速するだろ」

「そうか?」

「当たり前だろ。隕石の中にいたままで、その隕石が地球に激突したら、反動で中にいたやつが粉々になるぞ」

「まあそれもそうか」

「猛スピードでなにかに激突すると、中にいるやつは大変なことになるからな」


 だからこそ乗り物の事故は被害が計り知れないのである。


「じゃあ……減速したところを大砲で撃ち落とせばいいんだな!」

「大砲なんてどこにあるんだ?」


 秀星は『俺がマシニクルの付属装備を貸し出すことになるのか?』と一瞬考えた。


「いや、市場で、なんか売れ残った商品をあつめたようなよくわからん店に売ってたぞ」

「大砲売ってたのか……」


 まあ使いみちはないだろう。

 大砲というからには火力重視だろうが、基本的にこの島にいる人間は、モンスター討伐の場合、その討伐そのものよりも、モンスターから取れる素材が目当てなのだ。

 強力なモンスターだろうと、ただ倒せるだけでは英雄にすらなれない。


「あそこって何でも売ってるよな。日本の売店だと法律で禁止されてるようなものとか、購入するのに権利関係の契約書が必要になりそうなものとかも売ってたぞ」

「来夏、どんだけ裏側に行ったんだよ……」


 秀星たちが回っていたエリアは、比較的無難なものが売られているエリアだ。

 だがしかし、裏の売店というものロマンを捨てきれないものが多いことは確かであり、主要な道から外れると意味不明なものが売られていたりする。

 ひっくり返すとワニっぽい玩具のようなものが大量に出てくるバケツとか。


「まあいいか、で、その隕石の対応だな」

「フフフ。秀星。オレはいいことを思いついた」

「なんだ?」

「地球を動かして、隕石を回避するっていうのはどうだ?」

「向こうの隕石が追尾式だから無駄だ」

「だったら、あの拠点のそばにある目印の隕石を宇宙空間で高速移動させて、飛んでくる隕石で遊ぶっていうのはどうだ?」

「……誰得だそれ」

「オレ得だぜ!」

「却下」

「なんで?」

「なんだか反対しておいたほうがいい気がしてきたから却下だ」

「一番理不尽な理由だぜ」

「まあ正直、どれくらい強いのかがわからねえんだよなぁ。とりあえず下限はわかるが、上限がわからん」

「そういう時はな、この言葉を思い出すんだ。『二兎を追うならどっちも取れ』と」

「アレンジが都合良すぎだろ。ていうか飛んでくる隕石は一個だけなんだけど」

「一個も二個も変わんねえだろ」

「いや、一と二は違うからな?……まあでも最悪……一刀両断だな」

「結局力で解決か」

「当然だ」

「そういや秀星。ここで作戦会議をするのはいいが、もしもあの隕石が、この会話を聞けるとしたらどうするんだ?作戦会議しても意味ねえぞ」

「だったらなんか叫んでみろよ」

「それもそうだな」


 来夏は空に向かって思いっきり叫んだ。


「昨日鏡にあっち向いてホイで負けたああああああ!」


 結果。


「一瞬停止したな」

「だな」

「宇宙空間に空気はないし、そもそもマッハ一でしか進まない声に対してこんなに早く反応するってことは、発信機や盗聴器みたいなものがあるんだな。多分あの隕石だろうけど」

「なるほど、これからはしゃべるときは気をつけるぜ」

「常にそうしてくれ」

「まあ無理だな」

「知ってた」


 というわけで、隕石を確認したので拠点に帰ることにした。

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