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第五百八話

「すごかったんですよ!こう、壺がえーい!って感じで飛んでいったんです!」

「……そ、そうか」


 本来、重要なものが破壊されたことで未来で不都合なことが発生しているため、それを回避するために過去に飛んできた椿。

 もちろん、過去の自分の両親にあって大丈夫なのかとかいろいろ疑問はあるが、椿が個人で過去に飛ぶ力を手に入れたとは思えないので、秀星は必然的にかかわっているはず。

 椿の性格上、もしも過去に飛んだら両親に会いたがることは予想出来ることなので、想定の範囲内だ。


 なので、自由に行動していることそのものに対して、アステルは文句はない。

 ただ……


(何があったのかの状況説明をなぜ椿に頼んでしまったんだろうな。私)


 アステルはそう思った。

 拠点に戻ってきて、高志と来夏は『酒飲んでくる!』と言って再度市場に直行。沙羅は買ってきたものの整理に行き、秀星は一人で考えたいことがあるからと言って部屋に籠って、風香は剣の精鋭側でいろいろ話しているところだ。

 というわけで、残ったのが椿と言うわけである。


「こう、ガッともちあげてえいっ!と投げていたんですよ。くじらさんやもぐらさんをばっさばっさ切っていたのもすごかったですけど、あんなに大きなものを人が持ちあげて投げることが出来るなんて、すごいです!」

「……」


 何を言えばいいのかわからなくなってきたアステル。

 そもそも、高志や来夏ではなくとも、壺を投げ飛ばすことそのものは容易だ。

 どんな人間であれ、秀星に筋力を強化してもらえば問題などない。

 そのため、すごいと言っている以上、未来ではそこまで秀星は本気を見せていないのだろう。

 それに加えて、高志や来夏もある程度抑えているようだ。椿に見せていないだけなのかもしれないが。


「なるほど」


 椿の説明でわかることは……言ってしまえば、沙羅からの電話で聞いていたことの範囲内である。

 語彙力もあまりなく、まだ視野も狭い椿。

 沙羅が見ていた以上のことを判断するにはまだ経験が足りないだろう。

 なのでそこを責めるつもりはない。

 あえて言えば、沙羅は壺がどれくらいの速度で飛んでいったのかを言っていなかったのだが、椿の説明で、おそらくとんでもない速さだったことはなんとなくわかる。


「お父さん。全盛期は確かに強いですねぇ」

「……全盛期?」


 その表現が気になった。


「はい。お父さんは、未来ではスキルの力が若干落ちていて、神器を完全に使うことはできないと言ってました。ただ、あまり使えなくてもものすごく強いですよ!」

「だろうな」


 神器が使えなくなっているわけではないのだから、そりゃ強いだろう。


「そういえば、今ってお父さんの愛人って何人いるんですかね?」

「ブフッ!」


 口に含んだコーヒーを吹き出すアステル。


「あ、アステルさん。汚いですよ!」

「人が口の中にものを含んでいるときに奇天烈なことを言わないでくれ。で、秀星に愛人?」

「はい!いっぱいいるって言ってましたよ!」


 愛人が何人もいると目をキラキラさせていう椿。

 どんな育ち方をしたのだろうか。

 ただ、その内容をアステルに話すあたり、椿の性格はロクなもんじゃない。


「秀星に愛人がいるなんて思えないがな……」

「高校生のときから結構囲っているとおじいちゃんが言ってましたよ!」

「言ったの高志かよ!……多分それ嘘だぞ」

「え、そうなんですか?」

「当たり前だ」


 秀星は世界最強であり、さらに言えば身長もある程度の高さはあり、ルックスもスタイルも悪くない。

 女が寄ってくる要素はいくらでもあるが、流石に剣の精鋭にいる秀星に対して突撃するのは無理があるだろう。


「というか、椿は愛人という言葉に対しては思わないのか?」

「私はみんな大好きです!」


 愛があれば無問題。ということだろうか。

 どんなふうに育てたらこんな子になるのだろう。

 アステルは非常に気になったが、答えは出ないだろうからスルー。


「……そういえば、椿は未来では彼氏とかいないのか?」

「星乃からは『お姉ちゃんは妹っぽいから年上から声をかけられそうだね』とは言われていますが、彼氏はいませんよ」

「あ、下の子がいるんだ……」

「私よりしっかりしている弟ですね。一歳下ですよ」

「……」


 まあ、姉がこんな天然なら弟はそれを反面教師にしてしっかりするだろう。


「最近、一緒にお風呂に入ってくれないんですよね」

「まあそこはそっとしておいてやれ」


 椿は十五歳の中学三年生だ。

 一つ下の弟は十四歳のはず。

 低身長ながらも育つところはしっかり育った椿と一緒にお風呂に入るのは、思春期の少年には難しい。


「ふむ、待ってたらまた一緒に入ってくれますかね?」

「それはないと思うなぁ」

「私なにか悪いことをしたのでしょうか」

「椿はもうちょっと思春期というものを学ぼうか」


 二十年後の未来。

 性教育に対して学校がどのような方法を取るのかは予測不可能だが、家ではどうすべきなのだろうか。


「でも、お父さんとお母さんは一緒に入ってくれますよ」

「……ん?三人で入ってるのか?」

「はい!」


 アステルは『嘘だろ……』と思ったが、椿が嘘をつくとは思えないので何も言えない。

 ただ、アステルは十六歳の風香を頭に思い浮かべたあと、『そうか、あれが大人になるんだなぁ』と謎のことを考えていた。


「ちなみに二十年後のアステルさんは独身ですね」

「……」


 苦虫を噛み潰したような顔をするアステル。

 正直……未来から来た人間に一番言われたくない言葉であった。

 二十年後のアステル。四十四である。

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