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禍ツ狂い(前編)

 禍ツ喰らい。過去から人に与えられた、怪異に対する武器である。

 その形状は様々で使用者本人の意思によって決まることが多い。


 ただ言えることは力は強大ではあるが、使用し続ければ本人に多くの負担が掛かる。

 肉体的にも精神的にも……。それ故、時代を経るとともに知識の積み重ねが進んだ。


 できるだけ効率が良く、負担が少ない力を使う術を学んでいった。

 しかし、効率重視だけで得る事ができる力には限界がある。


 その為、使用者は奥の手を用意するのだ。自分の身に多大な負荷が掛かり、その末路に歩みを進めるとしても……。

 脈々と受け継がれた過去からの情報が、時代ごとに引き継がれ活用されている。


 力の使い道は人それぞれであろう。それが正であろうと負であろうと、禍ツ喰らいは応えてくれる。

 何れは蝕まれる体だと知っていれば尚更、負の事に使いたがるかもしれない。


 その先の末路に怯えながらも、その末路を否定しようと決意した者達。そんな話を今回はしよう。


    ・   ・   ・


11月中旬

 祐は天と一緒に真昼間に雑貨屋で、パーティー用のグッズを漁っていた。


 萌香が事務所で働くようになって1年になる。

 あっという間の1年だったと思う。1人で始めた仕事が2人になり、3人になった。

 心が通い合う3人で仕事ができる。そんな1人のパートナーに何かをしたくなった。


 辛い時代を送った少女が、怖い事から目を背けず、すくむ足を奮い立たせ、今では立派な女性になった。

 労いでもなく、感謝でもない。成長した萌香に事務所や友人達と、お祝いをしたいと思ったのだ。

 しかし、美的センスについては欠片もないので、天を連れて来たのだ。


 「祐さん、どうして万国旗なんか手に取っているんですか?」

 「え? お祭りと言えばこれじゃないの?」

 基本的にお祭りなどとは縁が遠かったが、商店街のセールの時によく見掛けるのだが…。


 「それって、時代遅れじゃないですか?

 とは言っても、クリスマスでもないですし…。クラッカーと事務所の天井から垂らす飾り等はどうでしょうか?」

 「よし。それでいこう」

 「はやっ。…祐さん、考える気が無かったんじゃないんですか?」

 正直、無かった。いや、難易度が高すぎる。盛大なパーティなどしたことがないのだ。


 「いやぁ、天ちゃんがいて本当に助かったよ。ありがとう」

 「労いの言葉、ありがとうございます。にしても、結構買い込みましたね」

 それをドンドンカゴに入れていったのは天だと言うのは止めておこう。


 「私の誕生日の時も期待してますよ?」

 彼女から笑顔で言われるとあしらう訳にもいかない。


 「俺なりに頑張るよ……」

 出てきた言葉に自分自身で情けなくなったが、天が笑っているので良しとしよう。


 事務所に戻り、早速準備に取り掛かる。

 萌香が来る前に飾り付けを済ませねば。

 すでに加奈も来ており、事務所の片づけを手伝ってくれている。


 幸は相変わらず、寝転がって本を読んでいる……。

 まあ、幸のパーティーはしたことがないから良しとしよう。毎日がパーティー状態のようなものだから。


 「祐さん、他に誰か来るんですか? あまりスペースないですよ?」

 「後は三善と円ちゃんかな。仕事が終わったら来るみたいだよ」

 我が天使が2人も揃ってしまうとは。これは顔を引き締めて乗り切らねば……。


 「よかったですねぇ、祐さん。あなたの天使も来るんですねぇ」

 思わず幸に目をやった。なぜ幸がここで会話に入ってくるのだ。しかも余計な言葉を。


 「祐さん、円さんにデッレデレですもんねぇ。まあ、その辺はもう分かってますけど」

 右手を後頭部に当て、苦笑いするしかなかった。ありがたいのか寂しいのか、よく分からない。


 萌香が来るまでもう少しだ。全員構えて、クラッカーを鳴らす準備をした。

 あの幸でさえ、ソファベッドに腰掛けてクラッカーを持っている。その光景に、もう2人じゃないことが良く分かった。


 事務所のドアのすりガラスに人影が映った。

 事前に取り決めたドアを開けて入る瞬間にクラッカーを………鳴らす。

 乾いた破裂音と飛び出すキラキラなテープが萌香を歓迎した。


 「萌香ちゃん、1周年おめでとう」

 「萌香ちゃん、1周年おめでとう。大変だったね」

 「萌香ちゃん、1周年おめでとう。祐さんに何もされなくて良かったね」

 「1周年、おめでとうございまぁす。祐さんの面倒を見てくれて、ありがとうございましたぁ」

 加奈の言葉は加奈らしい優しい言葉だ。しかし、天と幸の言葉は酷いものだ。違う意味で泣けてきた。


 萌香は少し呆気に取られた表情をしていたが、すぐに笑顔になった。

 「…祐さん、幸さん、加奈ちゃん、天ちゃん。ありがとうございます……」

 頭を下げてお礼を口にし、頭を上げると少し目が潤んでいるように見えた。


 「さぁさぁ、萌香ちゃん。パーティーは2部構成になっているから。先ずはピザ頼もうか」

 「祐さん、それは先に頼んでおくべきでは? ま、それも良いですね。萌香ちゃんは何が好きなの?」

 楽しい時間の幕が開けた。1周年の思い出に浸るのは後回しにして、今を楽しもう。


    ・   ・   ・


 飲み物が足りなくなったので、コンビニへ買い出しに行くことになった。


 男が俺1人なので俺が行かないのはどうかと思い、自主的に買い出しに行った。

 飲み物をいくつか買って、あとは事務所に戻るだけという時に視線を感じた。


 1人じゃない…複数か? 参った、退魔用の武器は持って来ていない。

 だが、事務所に戻るのは皆に危険が及ぶ可能性がある。

 ならば何食わぬ顔で車に戻り、退魔用の武器を……。


 しかし、建物の影から現れたスーツの男が殴り掛かってきたため、その考えは消えてしまった。

 合せるかの様に後ろから付いて来ていた男も蹴りを浴びせてくる。


 1体2、いけるか? 1人に向けて買ってきた飲み物を投げつけ、もう1人の男の懐に潜り込む。

 「何なんだよ、お前らはっっっ!?」

 急に体を痺れが襲った。前の男に殴られ、体勢を崩し、横の男からも蹴りをくらう。


 「ちょっ、話ぐらい聞けっっっっ!」

 また体が痺れた。横の男が手に水? 気づいた時には腹に痛みが走った。

 水の弾丸か何かで、何個もの穴が開いていた。


 「お前ら、魔法つ、」

 まただ。体が痺れて、動けない。

 その間も1人の男に何度も殴打され、もう1人からは水のムチを叩きつけられながら、ビルの隙間に追いやられた。


 ビルの隙間もそれほど広くはない。1対1に持ちこめる。

 迫ってくるかと思った男は何かを広げた。ことだけは認識できたが、その瞬間に痺れが走った。

 痺れに捕らわれている中、赤い野球ボールサイズの火の玉が胸に当たり爆発した。


 「っっっつう、お前ら人間だろ? 術士に恨まれるような事は!?」

 気付けなかった。後ろにもう1人いたのだ。こいつが何かをして俺の体を痺れさせた?

 すでに詠唱を終えていたのか、俺は炎の縄で体を締め上げられてしまっていた。


 炎の縄なのに熱さも感じないし、服も焼けていない。

 これは魔法使いの命令で攻撃するかの指示が出せるやつだ。


 「だから、俺は何もしてないって! むしろ怪異を倒しているんだからさ」

 俺の言葉を意に介さず、前の男が歩いてくる。何をする気だ。

 1枚の呪符? 見たことのない赤い札の様な物。それを俺の額に……。

 …視界が赤く染まっていく……。


    ・   ・   ・


 祐が帰って来ないまま、三善と円が事務所に来てくれた。


 「萌香ちゃん、1周年おめでとお。萌香ちゃんの頑張りは祐から何度も聞いとるで。大変やったな」

 「萌香ちゃん、1周年おめでとう。探偵のお手伝いって大変だと思うけど頑張ったんだねぇ」

 三善と円にお祝いの言葉を貰った。素直に嬉しかった。


 三善には何でも話すと祐は言っていたので、本当に話しているんだろう。

 「…ありがとうございます。もう1年かと思ってます……」

 「ホントやなぁ。もう1年も経つんやなぁ。何か全然別人になった感じやな、萌香ちゃん」

 そうなの? でも、たぶんそうなんだろう。多くの経験が私を変えたと思う。


 「萌香ちゃんも祐さんの、こう…キリッとした仕事顔になるもんねぇ。何かカッコいいなぁって思ったよ」

 「…三善さん、円さん、ありがとうございます。そんな風に見てもらえて嬉しいです……」

 そう言うと2人共、笑顔で頷いてくれた。


 「しっかし、祐のやつはどこまで行っとんのや。買い出しに出ただけなんやろ? 遅すぎるわ」

 「…確かに、もう1時間になりますね。電話をしてみます……」

 携帯を取り出し、通話相手を守屋 祐にして電話を掛けた。

 何コールしても出ない、出てくれない。何か嫌な気がする。声を聞かせて欲しい。


 「はい。守屋さんの携帯ですが?」

 違う声の人が出た。祐ではない……。でも、この声に聞き覚えがある。


 「…あの、もしかして、刑事さんですか……?」

 「はい、神尾です。あの時は大変お世話になりました。

 ディスプレイに都さんのお名前がありましたので、あまり好ましくはないですが電話を取ってしまいました」

 なんで刑事の神尾が? 祐は近くにいるの?


 「…神尾さん! 祐さんに何かあったんですか!?」

 その声に事務所の皆が私を見たのが分かった。でも今は電話口に集中する。


 「都さん…実は分かりません。守屋さんのジャケットと思われる物だけが残っておりました……。

 爆発がビルで起こったとの通報がありまして、駆けつけたのですが。

 そこで3人の方が大怪我を負っているのを発見されました。守屋さんは…分かりません……」

 何で? 3人って、誰?


 「…神尾さん、その人たちの中でお札などを持っている人はいましたか……?」

 「はい、1人おりました。怪異絡みですか?」

 「…今は分かりません。また何か分かったら、お電話してください。こちらも分かりましたら、お電話します……」


    ・   ・   ・


 事務所に沈黙が流れた。誰もが息を飲んだまま、信じられない顔をしている。


 「萌香ちゃん! どういうこっちゃ? 祐に何かあったんか?」

 沈黙を破った三善の言葉に答えられない。目を瞑って、首を横に振る。


 「…クソッ! 何をどうしたらええんや……。何をしとるんや、あいつは……」

 三善の苦痛な表情は初めて見た。それだけ祐の事が心配なんだろう。事実、私も……。


 「萌香ちゃん、祐さんは? ねぇ、祐さんは?」

 今にも泣きそうな天を見てうつむくことしかできなかった。私にも分からない。


 「萌香ちゃん、急いで魔法協会の相馬さんに連絡してください。

 魔法使いも術士も大抵の情報は持っているはずです。

 呪符を持っていた人がいたのなら、相馬さんに確認してもらうのが早いです」

 幸が珍しく口早に言った。そうだ、相馬なら何か分かるかも。

 急いで相馬の携帯に電話を掛けた。


 「ほいほ~い、萌香ちゃん? 相馬ですよぉ。あ、もしかして守屋くんと一緒に協会に入って、」

 「相馬さん! お願いがあります!」

 「えっ…何かあったの? 詳しく教えて」

 「…祐さんが行方不明になりました。何らかの者によって、襲われたと思います。

 襲われた場所と思われる辺りで3人の方が負傷しているようですが、1人は呪符を持っていると思われます」

 相馬が息を飲んだのが聞こえた。私も息をするのが苦しい。


 「萌香ちゃん、すぐに魔法協会の情報部に連絡する。

 うちの人間とは思いたくないけど……。それ以外の霊能力者の情報も多くあるから、そこから見つかるかもしれない。

 できれば人相なんかを送ってくれないか? あとはどんな物を持っているか。

 呪文などを手に彫っているようだったら、その形も確認してから連絡をちょうだい。

 今は出先だから、明日急いで本部に戻る」

 そう言って相馬は電話を切った。明日まで待たなければならない?

 こんな不安を抱えまま……。


    ・   ・   ・


 どこに行けば良い……。俺を処分するなら……。目が赤く染まって、よく見えない……。

 ただ、遠く…人がいない…処分…ああ…処分され………。


    ・   ・   ・


 「もしもし、猛くんですか? 祐さんがピンチです。急ぎこちらに来てください」

 「えっ! 師匠が!? 何があったんですか姉さん?」

 幸はすぐに駆けつけてくれるであろう。猛に連絡をした。

 『禍ツ狂い』は怪異だ。それには猛の浄化の炎が役に立つ。


 「説明は後で。できれば細川さんも連れてきてください」

 瀬織津姫の力を持つ細川なら、更に力を抑え込めるはず。


 「姉さん、分かりました。一番早く飛行機が出る飛行場に向かうっす」

 私が呼べる戦力はこれだけ。最悪な状況にならなければ良い……。自分の杞憂で終われば……。


    ・   ・   ・


 幸が猛に連絡をしているのを聞いた。


 確かに2人の力は怪異や『禍ツ狂い』に対して有効なものだ。

 浄化の炎に不浄なものを洗い流す力……。

 その力が必要になると思ったのだろう。最悪の事態に備えて……。


 「…萌香ちゃん、とりあえずはお開きにしよか? もう、今の状況やと魔法協会待ちにしかならへん。

 休むのも大事なことや。最悪な状況に備えてな……」

 三善は覚悟を決めている。私も最悪な状況を分かってはいた。でも、来ないと信じたかった。


 三善の言う通りにして、今日はお開きにした。

 誰もが暗い表情になっていた。特に天は顔も青く、今にも泣き出しそうだ。

 皆が帰る中、天と幸は部屋に残っていた。


 「萌香ちゃん……。祐さん…は。祐さんを…どうするの?」

 天は聞いてはいない。でも、私と三善、幸の会話から察した……。


 「…助ける、絶対。その為に…皆が動いてくれている」

 私の言葉は自分にも向けたものだ。

 それを聞き、天は少しだけ顔を引き締めた。


 「私の力じゃ何もできない。でも……頼ることしかできないけど、頑張る」

 天はそう言って、事務所を出て行った。


 「萌香ちゃん、今日は休んでください。何が起きているか分かりません。

 最悪の事態に備える事はしました。あとは相馬さんの連絡を待ちましょう」

 幸の言葉から強い意思が感じられた。最悪な事態……それを受け止めている。


 幸の言葉に大きく頷くと事務所を後にした。


 外に出て携帯を取り出した。

 戦力などではない。どうしても連絡しておかなければならない人がいた。

 携帯から光本 真理奈に電話を掛けた。


 「どうしたの萌香ちゃん? 修行ができる日なら、あとで連絡、」

 「真理奈さん! 祐さんが…連絡が取れなくなりました……」

 真理奈が電話口で氷ついているのが分かる。すぐに返事がなかった……。


 「…萌香ちゃん、何があったの?」

 気持ちを立て直した真理奈から質問をされた。


 「…今はまだ……。ただ、祐さんのジャケットと、その近くで3人の方が大怪我を負っているとの事でした。

 魔法協会の相馬さんには、もう連絡しました。明日、本部に行くそうです」

 「分かった。明日にならないと何も分からないなら、萌香ちゃんは早く帰って寝なさい。

 明日、私もそっちに行くから」

 それはダメ。祐は家族を巻き込みたくないはず。その気持ちを言わないと。


 「…真理奈さんは来てはダメです。祐さんは望みません」

 もしもの事があれば一番傷つく人を呼ぶわけにはいかない。


 「……バカ息子が道を外したんなら、それを修正するのが親の役目よ。

 それにあなたに魔法を教えたのはあたしよ? 2人でなら更に助ける可能性が増える」

 真理奈の言葉に頼りたくなる……。でも、それじゃ……。


 「一緒に助けようよ、祐を。あたしだって助けたいんだから…」

 その言葉に涙が出てしまう。助けたいのは私だけじゃない、皆も助けたいんだ。涙を拭う、今流すものじゃない。


 「はい! よろしくお願いします!」


    ・   ・   ・


 天はタクシーを使い、天野原市の郊外へ向かっていた。


 私にできること……。萌香は何かを学んでいる。他の人もそうだろう。

 私の力では何もできない。悩んでいる人は救えても、暴れている人は助けられない。

 それなら私ができることをする。人を頼るしかできない……。それでも祐を助けられるなら……。


 祐の家に駆けだし、玄関のドアを叩く。

 「家さん、お願い、開けて。祐さんが!」

 ドアの鍵が開く音がした。急いで扉を開けると玄関ホールにシュタルクがいた。


 「ああ、亀寿島様でしたか。こんばんは。このような時間にどうされましたか?」

 「お願いです、皆さんのお力を貸して欲しいんです!」

 私の言葉にシュタルクは微笑んだ顔から、引き締まった真面目な顔に変わった。


 「どのような事か、お聞かせ願えないでしょうか? 亀寿島様は食堂へ。

 私は他の人達を連れてきますので」

 シュタルクはそう言うと2階へ上がって行った。

 どこからかワラベエが出て来ていた。寂しそうな顔をしていたが、手を繋ぐと少し安心した顔になった。


 食堂に3人のヴァンパイアが揃った。膝の上にはワラベエが乗っている。

 「それでは亀寿島様、力を貸して欲しいとは? 何があったのか教えてください」

 「…祐さんが行方不明になりました。まだ本当なのか分かりませんが……。ただ、最悪、禍ツ、狂………」

 涙が出てきた。もっと言わなきゃいけないはずなのに、言葉を塞ぐように涙が出てしまった。


 「娘よ、安心せい……。シュタルク、マゴロク! 前にあやつと話した通りじゃ。

 この事態になれば、あやつを倒す。…助けることができるようにな……」

 リリエールの言葉に瞑った目が少し開いた。

 助けると言ったから、自分を殺すことをお願いしていたと思っていた。でも、リリエールの言葉は違った。


 「…化け物人間は、自分を殺せと言ってきた……。が、あれほどお人良しな男を殺す訳にはいかぬ。

 まだ血をいただかねばならぬし、家で休ませてもらわねばな……。そういう事じゃ」

 リリエールの柔らかな声色が包んだ言葉を聞いて、何度も頭を下げた。

 お礼を言おうにも、涙が止まらない。声が出せないなら、頭だけでも……。


 「亀寿島様、ご安心を。私とマゴロクが必ず駆けつけます」

 「全く、あいつは……。ま、思いっきりぶった斬って、引きずり出すとするか」

 皆、祐の事を…助けてくれる。歯を食いしばる、涙は止める。まだ終わってない!


 「よろしく、お願いします!」


    ・   ・   ・


翌日

 萌香は神尾に連絡し、大怪我をしたという人物の持ち物や掌を見せてもらいたいと言った。

 神尾は自分が同行したら確認できると言い。警察署で先ずは持ち物を検査する。


 「都さん、すいません。わざわざ署まで来ていただいて」

 神尾は相変わらず礼儀正しい人だ。横で立花が軽く手を振っている。


 「病院に行く際には私共の車で参りましょう。では、先ず持ち物を確認しましょう」

 「…はい、よろしくお願いいたします」

 先ずは何者か、早く調べて相馬の調査の材料を増やさないと。


 持ち物を見ると、呪文らしきもの…いや、呪文が刻まれている物がいくつもある。

 特に呪符は多く、細かくは分からないがそれぞれの物を撮影し、相馬に送る。


 「都さん、物騒な物が多いですが、やはりこれは……」

 「いやぁ、神尾さん。これで怪異関係じゃなかったら、ぶっちぎりでヤバい輩ですよ」

 相変わらず軽い口調の立花に、神尾が睨みを利かせている。


 「…お2人にはお話しします。祐さんが怪異になった可能性があります。

 もし、何か通報があっても近づかないように言ってください。警察にどうこうできるものではないと思います」

 2人が息を飲んだ。信じられないと言った顔から、すぐに神尾が生真面目な顔に戻った。


 「ならば、病院に急ぎましょう。立花、すぐに車の準備を」

 神尾の指示を聞き立花が転がるように部屋を出た。神尾は私を向き、頷いた。


 病院に行き、3人が入院している部屋に向かう。

 打撲や骨折など複数見られるが、意識は戻ったそうだ。


 それなら話は早い。何があったのかすぐに聞き出せる。

 病院に着くと足早に病室に向かったが、残念な事が分かった。


 3人とも記憶がないと言うのだ。

 しらをきると言うのならば、魔法を使ってでも吐かせようと思った。


 先ずは呪符や呪文が刻まれた武器を持っていたことを告げると、すぐに3人は私達に素性をばらした。

 あり得ないと思った。彼らは自分達を魔法協会の人間だと言ったからだ。


    ・   ・   ・


 相馬は魔法協会の本部に駆け込んだ。

 表向きにはダミー企業の社名であるが、中では魔法等に関する様々な部署があるビルが本部だ。


 抑えきれない怒りを剥き出しにしたまま本部に入る。それに続くように更紗も入った。

 「相馬さん、まだ情報部から連絡はありませんよ? 都さんの連絡だけで直談判しても、」

 「守屋くんがどうなっているか分からないんだよ!? 散々助けてもらったんだから……このぐらいはしないとね」

 思わず大声を上げてしまった。いつでも余裕を持たなければ、この仕事は勤まらない。

 更紗も目を逸らし、気持ちうつむいた。


 「更紗ちゃん。僕達だけだったら危なかった事も、彼は助けてくれたじゃない? 恩には報いないとね」

 吐き出したくなるような怒りを抑え、いつもの軽口に戻す。とは言え、怒りが湧いてくるのは抑えられない。


 情報部の部長に話をするが、連絡は来ていないと言い切った。

 「そんなはずないだろ! 連絡があった病院に入院しているのは、本部の常勤者だぞ?

 それに準1等術士と、2等術士が2人。連絡が取れないのに何言ってんの!?」

 それでも部長は首を横に振るだけだった。


 悔しさを残したまま、情報部の部屋を出た。

 これではまるで箝口令が敷かれているのではないかと思ってしまう。


 「相馬さん、どうしますか? 術士と連絡が取れていないのに、あそこまで非協力的だと、これ以上先へは……」

 非協力的どころではない。まるで拒絶しているのではないかと思ってしまう。


 「ああ。考えたくないけど、これは魔法協会の中で何かを行っているとしか思えないね……。

 それなら、追跡する能力がある人に守屋くんを探しても、」

 「少しよろしいでしょうか?」

 途中まで喋っていたところに、後ろから割り込む声がした。


 言葉を遮られた怒りを抑えるような、甘い気持ちにさせる声だ。

 振り返ると、色白で黒い髪に白のメッシュが入った男が微笑んでいた。

 

 何かヤバいと思った。更紗を見ると、何かを感じたように身構えた。

 「ああ、これは失礼しました。僕は伏黒 真白といいます。

 お2人の話しに守屋くんの名前が聞こえたので、つい。その守屋くんは、守屋 祐くんですか?」

 知っている? だが、良い人物であれば守屋が喋っているはず。こいつは……。


 「当たり…みたいですね。流石は1等術士と準1等術士だ。心も頑丈ですね。

 まあ、何かしたら守屋くんに殺されちゃいますから……ね」

 微笑みから無表情。いや、冷酷な目に変わった。


 「守屋くんのことを知ってるみたいだけど、なんか用なの? どうやら悪い仲みたいだけどさぁ」

 「ええ、悪い意味での仲ですよ。でも、僕は嫌いじゃない……。

 なので、何が起きているのか知りたくなったんですよ。

 この魔法協会が何をしたのか。それでは行きましょうか。会長の所へ」

 伏黒の言葉に目を丸くすることしかできなかった。


 伏黒がエレベーターに行く途中に何人かに声を掛けると全員従うように付いて来た。

 「この力って……。思いたくないけど、かなりやばいってことだよね」

 更紗に小声で伝えていると、伏黒はいつの間にか微笑んだ顔になって振り向いた。


 「細かい事は守屋くんに聞かれるのが良いかと。ただ、あなた方と一緒に確認する必要があります」

 何を? と思っているとエレベーターが到着し、全員で乗り込んだ。


 「さて、これから会長室を襲撃します。皆の力が必要なのでよろしくお願いします」

 伏黒の言葉に応じるように、6人の術士が思い思いの装備を手にした。


 「ちょっと待て! 襲撃って…? なんで!?」

 「お2人はおかしいと思ったのでしょ? 今の状況が。

 協会の常勤者が傷ついたのに、情報部は何も知らない……。

 僕が聞き出せたのは会長からの指示…ということでした。なので襲撃します。

 守屋くんに何かあると、せっかく築いた関係がなくなってしまうのは嫌だから……ね」

 伏黒はまた冷たい顔になった。何を考えているのか分からない。更紗も張りつめたままだ。

 エレベーターが会長のいる最上階に到着した。


 伏黒に導かれるように会長室へ向かう。

 だが、会長室は窓口の者が入室を認めないと防壁が発動するはずだ。


 そんな窓口に到着すると伏黒は爽やかに片手を上げると、窓口の女性がロックを解除した。

 何が何だか分からない状況で、ずっと引っ張られていく。先にある会長室まで……。


 躊躇ちゅうちょなくドアを開けた伏黒は中に入り、付いて来た6人も雪崩れ込んだ。その後に続くように部屋に入る。

 そこには当たり前だが会長の姿があった。


 髪は軽くオールバックにし、銀縁のメガネ、冷たい顔と切れ長の目、見るだけで寒い気持ちになる。

 「なんだ君達は? 大勢で来るようなスケジュールはなか、」

 「やれ」

 会長が低い声で問いただしてきたのを、遮るように伏黒が命令を下した。

 会長に対して、6人がそれぞれの武器、呪術、呪符、魔法を繰り出した。


 「おい! 伏黒、何のまねだ!? こんな事を…し……て?」

 目の前の光景に言葉が詰まってしまった。

 全ての攻撃が会長の前で止まっている。会長は魔法使いだったはずだが、ノンアクションで攻撃を防げる魔法を……?


 「防御の魔法を……。おそらく来ますよ」

 何か分からないが呪符を地面に飛ばす。呪符がその力を発動し、石壁がせり上がってきた。


 その瞬間、石壁に大きな衝撃が走った。この石壁は簡単に崩せないとは思うが……。

 音が治まったのを確認し、石壁の術を解いた。石壁が壊れていく中、会長がいた場所に会長の姿が無くなっていた。


 「相馬さん、これは? 会長はどこへ?」

 「僕にも分かんないよ。おい、伏黒! 何か知っているんだろ!?」

 伏黒に向かって言うと、外を見たまま返答してきた。


 「さぁ、僕にも分かりません。ただ、会長ではない……。という事が分かりましたね。

 では、何かと言うと、分かりません。残念ながら……ね」

 伏黒はまだ外を見ている。気になりそちらに目を向けると、居てはいけない人物が見えた。


 隣のビルと言っても、20m以上先だ。

 そこに茶色の英国紳士の様な出で立ち。帽子で顔は見えないが禍々しい感じが伝わる。

 ヤツだ……。『スカルフェイス』だ……。

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