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戦火

 戦火とは戦争による被害、火事などの事をさす言葉である。

 戦争と言えば、隣国や利害が一致する国とそうでない国との間で起こるものをさす場合が多い。


 しかし、戦争と言っても何も国同士の戦いをさす言葉ではない。

 戦争は必ずしも国同士でなく、過去に遡れば自分の領地や村同士の争いも戦争になるだろう。


 それは、どちらか一方にとって利益になる事がある為、引き起こされることが多い。

 どのように起こされるかは別として、その利益を得る為に、その一部の欲によって多くの人が被害を被る。


 しかし、戦争は被害を被る側にとっても、ある意味では好機かもしれない。

 逆に勝てれば戦争によって武名を上げることもできる。自分達の支配体制を確立することもできるだろう。


 何かを得る行為が逆に何かを失うことになりかねない。戦争とはそういうものだろう。

 国同士でなくてもそれは変わらない。組織、派閥、ライバル……。


 様々な者と戦うことも小さな戦争と言えるだろう。そんな争いの中に巻き込まれた男について、今回は話をしよう。


    ・   ・   ・


9月初旬

 祐は後ろにいる真理奈の車を先導するような形で車を走らせていた。

 親孝行、と一概に言える訳ではないのだが、真理奈から処分屋としての依頼があったのだ。


 どうやら有名な温泉街で怪異が現れているという話だ。真理奈曰く、胡散臭い人ではなく顔見知りとのことだった。

 その依頼を受けることで温泉宿に無料で宿泊させてもらえる、という特典付きだったので快諾した。


 「お兄ちゃん、スピード出し過ぎてない? 大丈夫?」

 「楓ちゃん、大丈夫だよ。ちゃんと後ろから真理奈さんが付いて来ているのを確認しているから」

 楓はおそらく真理奈の車を気にしているのだろう。俺も気が気ではないのだ。

 何故か萌香と天が後ろの車に乗っているのだから……。


 「兄ちゃん、あれだろ。彼女にいいとこ見せたいんだろ?」

 「……秋斗、車から放りだすぞ」

 兄の威厳か、それとも本気の声に恐れをなしたのか、秋斗はそれで黙った。


 「お兄ちゃんの彼女さん、可愛いね。お兄ちゃんとピッタリって感じがするね」

 なんと気が利いた妹だろう。これはしっかりとした男選びを、と思っていると無理に追い越しを掛けてきた車が目の前に現れた。

 心の中で舌打ちした。さすがに妹弟の前で悪態を付くのは教育上問題だと思ったからだ。


 「危なかったね、お兄ちゃん。いきなり出てくるんだもん、ビックリしちゃった」

 「だね。お金持ちの車って感じだったけど、人をビックリさせるようなことはしちゃダメだよね」

 そう言って後ろの車を見る。俺の気持ちよ届け、と念を送った。良からぬことしかイメージできない。


 「兄ちゃんだって、彼女いることで皆をビックリさせたじゃん。同じじゃん」

 「……秋斗、やっぱ車から放りだす」

 何故、皆揃ってそんなにビックリしたのだ……? いや、自分でもビックリしてはいるが。


    ・   ・   ・


 デカい温泉街に着いた。そこらかしこに旅館が立ち並び、温泉の湯気が立ち込めている。

 温泉らしい硫黄の匂いが漂うこの世界は、いかにも温泉地といった場所であった。


 結局、真理奈は俺達より少し遅れての到着になった。少し車を飛ばし過ぎたかと悪く思った。

 しかし、降りて来た3人の顔から判断できた。さっき悪く思ったのは訂正する。こいつ等が悪だ……。


 真理奈はニヤニヤした顔をしており、天に至っては笑いのダムが今にも決壊しそうな顔をしている。

 萌香ですら俺に目を合わせず、肩が少し震えているように見える。


 真理奈に急ぎ近づき、事の真相を確かめる。

 「……大体の事は分かりますが、どんなろくでもない事を2人に話したんですか?」

 「いやね、あの娘たちがさぁ、あんたの話を聞きたいって言うから話して、ぶっ!」

 真理奈は最後まで言えずに笑いを堪えきれなくなったようだ。なんて酷い仕打ちだろう。

 一応、親孝行にもなっていると思うのだが……。


 「祐さん、いえ、悪い、話では、ぷっ!」

 天もギブアップのようだ。笑いが抑えきれなくなって、息をするのも辛そうだ。


 俺は一体、何をしたのだろうか……。確かにやや痛い男ではあったが、今は修正済みだ。

 お母さんと彼女に爆笑され、助手は俺を見ず肩が震えている。


 「お兄ちゃん……。大丈夫、私はお兄ちゃんの味方だよ。もう、お母さん。お兄ちゃんを苛めないでよ」

 「俺も後でお母さんに聞いてみようっと」

 「……秋斗、温泉の中にぶち込むぞ」

 俺の味方は楓しかいない。やはりこれはしっかりとした男選び、そう思っていると思わぬ人物から声を掛けられた。


 「あれぇ、守屋くん? ここで何してんの? もしかして旅行? いやらしい感じてキイイイイイイ。……更紗ちゃん、痛いよぉ」

 「お世話になった方に対して口にしていい言葉とは思えません。なので、少しだけ抑えておこうかと」

 声の主は魔法協会の相馬 仁と稲光 更紗であった。


 「なんで相馬さんと更紗さんがここに? 怪異絡みですか?」

 「そだよぉ。あれ? 守屋くんも? これってダブルブッキング? じゃあさ、皆で宴会でもしよっか?」

 「相馬さん……。前に過労死するって言ってませんでしたっけ?」

 「いやぁ、少しぐらい気を抜かないとさぁ。疲れては仕事にも集中できないじゃん」

 更紗からすごい視線を浴びているはずなのに、それに動じない相馬が少し羨ましくなった。


    ・   ・   ・


 何故か一緒に行動することになった相馬と更紗を連れて、旅館のチェックインを済ませる。


 「祐、とりあえず依頼主に依頼内容を確認するから皆を部屋に案内しといて」

 「真理奈さん、部屋割りはどうしますか? とりあえず、楓ちゃんと秋斗は俺と一緒に寝ます。

 天ちゃんと萌香ちゃんは真理奈さんの所で寝る感じで良いですか?」

 真理奈が意地悪な笑みを浮かべてる。これは試されているが、俺にも意地がある。その手には乗らない。


 「あ、協会の女性の方もあたし達の部屋で寝なよ。流石に男性と一緒だと困るでしょ?」

 更紗に対する気遣いの言葉を真理奈は口にした。確かにそれはそうだ。


 「えぇ? 僕は? 1人? ホントに? ちょっとあんまりじゃない?」

 「相馬さん、私で良ければ一緒に寝ましょうか?」

 そう言うと、あからさまに肩を落とした。相馬には悪いが1人で寝てもらうことにしよう。


 「祐、怪異は温泉巡りの1つにいるみたい。とりあえず、注意しながら見に行こっか」

 温泉巡りの1つ? なんでそんな所に怪異がいるのだろうか?


 「分かりました。何か疑問を感じますが、とりあえず行って確認しましょう」

 先ずは偵察と脅威度を測らねば。怪異の術中に掛からないよう、慎重に動くことが必要だ。


 「あれぇ? 守屋くん、温泉入んないの? 先に入っちゃうよ?」

 早速、浴衣に着替えている相馬を冷たい目で一瞥してから怪異の調査に向かう。


 「祐……。これ、なんだと思う?」

 「さあ? なんでしょうねぇ」

 目の前に広がる光景に2人共、まともな言葉が出ない。


 血の池温泉、その名の通り赤い色をした温泉なのだ。その中に人の風貌をした怪異がいた。

 地獄で釜茹でにされている絵のようにもがいている。いや、そう見えるだけか……?


 「これ……。まぁ、見える人には怖い光景なのかなぁ?」

 「俺に聞かないでくださいよ。むしろ、温泉遊びを楽しんでるように見えますよ」

 「だよねぇ。中途半端に見える人をビックリさせて、その負の感情を食べているんだろうね。…祐、やってくれる?」

 真理奈の言葉に頷き、群青百足で素早く捕食した。何か脱力感すら覚える怪異だった。


 何か分からない怪異を退治したことを温泉協会の責任者に報告をした。

 気になったので魔法協会に依頼したかと確認すると、依頼はしていないということだった。

 少し気にはなったが無事に処分は完了したのだ。せっかくの家族旅行&4人となったのだ。

 夜ぐらいは楽しく過ごしたい。


 夜は皆で集まっての食事会となった。賑やかなのも偶には良いと思った。

 しかし、この並びはどうなのだろうか? 前に天、右に萌香、左に更紗……。これで良いのか?


 「へぇ~、守屋くんの彼女さんなのかぁ。

 相馬 仁です、よろしくぅ。……守屋くんに魔法協会に来るように言っといて」

 相馬の最後の小声はしっかりと耳に入った。


 「更紗さん、一応なんですが家族には魔法使いだの、その手の話はしてないので相馬さんを抑えてくださいね」

 更紗に耳打ちした。楓や秋斗に、こんな世界に入って欲しくない。


 俺の言葉を聞き、頷いた更紗を見て安心した。

 この人はあまりバラすようなことはしない、しっかりと手綱を握って貰わなければ。


 「2人でコソコソ話? 酷いよねぇ、彼女さんがいるのに。あれ? もしかして更紗ちゃん、もオオオオオオ。……すいません」

 更紗はしっかり手綱を握ってくれたようだ。本当に頼りになる人だ、相馬とは大違いだ。


 ここからはいつも通りというか、天が前にいる為か美味しい料理を食べると顔を見合うのを相馬に指摘されて、色々と騒々しいものであった。

 まあ、皆楽しそうで悪いことではない。むしろ、こんな夜を経験できて本当に良かった。


    ・   ・   ・


 相馬に誘われ、旅館にある温泉とは違う温泉に行くことになった。


 「相馬さん、あそこの温泉も悪くなさそうでしたよ?」

 「いやぁ、守屋くんと裸の付き合いってやつ? そんな感じの事がしたかった訳よ」


 多分、魔法協会への誘いもあるのだろうが、悪い人ではない。むしろ好感を持てる人だ。

 無下に断りたくなかったので、付いて行くことにした。


 相馬に案内された宿は俺たちが泊まっている宿より、明らかに値が張りそうな宿であった。

 和のテイストをふんだんに盛り込んだ作りで、入り口が木造りの引き戸になっているところから高級感が伝わる。


 「相馬さん……。ここの温泉って入浴しても良いんですか? どう見ても敷居が高そうですよ?」

 「だいじょぶ、だいじょぶ。元々はここに泊まる予定だったんだからさ」

 相馬の言葉を聞き、頭に疑問符が浮かんだ。

 確か、温泉協会からは依頼はしてないとの話だったが。では、ここに泊まる予定だったのは……?


 相馬は堂々と名前をカウンターに告げて、温泉に招かれた。

 これまた、温泉も豪華なものだ。

 露天の岩風呂で、その造形が外に見える木々と一体化して1つの綺麗な風景が出来上がっていた。


 「…相馬さん、一体何を依頼されたんですか? そろそろ話してくれても良いんじゃないんですか?」

 「守屋くん……ごめん!また協会の仕事に巻きこんじゃうかも……。っていうか、手伝って」

 相馬の懇願に対して、本当に深いため息が出た。


 本来であれば魔法協会だけで請け負う仕事の目の前に、異能力者がいたのだ。

 今回も2人を動かす程の怪異となれば、頼みたくもなると思うが……。


 「相馬さん、私は家族旅行も兼ねて来ているんですよ。そちらの事情も分かりますが……」

 魔法協会がどうこうではない。

 俺にとって大切な旅行にケチを付けたくないのだ。


 「人の懇願を無視するとはなぁ……。俺にお前が懇願した時は、快く引き受けてやったものを」

 こんな所で一番聞きたくない声を聞いた。

 この時点で旅行にケチが付くぐらいの……。


 湯気が風によって薄く飛ばされていくと、九条院 京が温泉の中でくつろいでいた。

 長く伸ばした髪はタオルで後ろから固定し、前で結ぶようにしている。女子か、と思った。


 「……相馬さん、何があるのか知りませんが俺は帰ります」

 「ちょ、ちょっとだけ、ね? お願い! これって、かなりやばい案件なんだよぉ」

 相馬の気持ちも分かるが、九条院といることがすでに気に食わない。


 「守屋、話ぐらい聞いてやったらどうだ? 俺より心が狭いと思われたら心外なんじゃないか?」

 何でこうも人を食ったような物言いができるのか。

 しかし、下手に断る訳にもいかない……。


 「相馬さん……話だけは聞きます。その後はどうするか、今は決めることができません」

 「守屋くん……。ごめんね、ありがと。…ここに来たのは、この近くにある洞窟に潜む怪異を封印することなんだ。

 今はまだ動いていないから封印することはできる。でも、もし暴れれば大きな被害が出るらしい。

 この怪異を今まで抑えてくれていた高僧の方が亡くなったから、魔法協会に封印の依頼が来たんだ。

 ただ、心許なかったんだろうねぇ。九条院家にも依頼したって話を聞いてさ。いや、依頼したんだよね……」

 相馬も心外だったのだろう。分かってはいても悔しい気持ちになる。

 特にこの手の派閥に依頼されるとなると……。


 「相馬さんの事情は分かりました……。

 だが、九条院、お前は別だ。苦しみを浄化する家の目的を捨てて、金に目が眩んだお前ら一族と一緒に戦う気はない」

 「これはこれは…相変わらず古臭いことを持ち出してくるな。

 今のご時世、金がなければ苦しみすら浄化もできん。それはお前も知っているだろう?

 ま、浄化をしてやる相手は選ぶがな」

 そう言うと、何が面白いのか、九条院は低く笑った。


 確かに嫌っているのは個人的な感情だ。

 浄化するにもそれなりの人員や術士用の装備も必要になる。だが…そうだとしても……。


 「お前の手伝いをする気はない。

 ……ただ、相馬さん達の護衛やアシストはする。九条院家の為にすることは何もない」

 言い終えると、九条院の低い笑い声が段々と大きくなっていく。楽しくて堪らないのだろう、俺の考えが……。


 「ああ、すまん。やはり、お前は面白い。そこまで来るとお人好しを超えている。

 他人の人生だ、とやかく言うのは無粋だろうが。

 そんなお前だからこそ、周りに変な奴等が集まるのだろうな」

 変な奴等とは心外だが、ここで噛みつくのも大人げないと思い我慢した。


 「さて、風呂に長く浸かり過ぎたな。そろそろ上がるとしよう」

 九条院が湯船から上がろうとした。その前に確認すべきことがある。


 「九条院。何故、当主であるお前自ら、依頼に顔を出したんだ? 気まぐれではないことぐらいは分かる。

 その左目を使えば、遠くで起こることも分かるだろ? 何故、わざわざここまで出てきた?」

 「さあな。気まぐれかもしれんぞ?

 何にせよ、九条院家としては全うすべき依頼なのだ。邪魔はするなよ?」

 そう言って九条院は湯船から上がると、脱衣所に向かう背中を目で追った。


 「……守屋くん、ごめんね。こんな事に巻きこんじゃって。

 話を聞いた時に、もうちょっと深く調べるべきだったんだけど」

 相馬は頭を下げて、自分の非を認めた言葉を口にした。


 「いえ…相馬さんは実働部隊なんですから仕方がありません。

 調べるのは情報部の仕事でしょう? 落ち度は無いと思いますよ」

 結局はいいように扱われる身でありながらも、協会の理念に従っている。

 そんな相馬や更紗を悪くは言えないし、助けたい気持ちがある。いや、助けたい。


    ・   ・   ・


 まさか朝の5時に目覚めさせられるとは思ってもいなかった。


 どれだけ早朝に封印をしに行かなければならないのか相馬に聞いてみたが、朝は不浄なものが少ないと言っていた。

 確かに太陽が昇れば不浄なものも減るが、洞窟に入るのだから、そもそも太陽の光は入って来ない。


 楓や秋斗に気付かれないように服を着替える。

 2人の寝顔を少しだけ見てから部屋を出た。


 廊下に出ると見たくない光景が広がっていた。

 真理奈と更紗と相馬が静かに言い争っている。

 流石はお母さん。子供の演技なんて、お見通しだったのだ。


 「協会の件は協会で片を付けないさいよ。

 何で、あの子を巻き込むのよ? 家族旅行なのよ? 何かあったら責任取れんの?」

 「いやぁ、そのぉ……。流石に2人では厳しい案件でして、守屋くんに処分の依頼をしたまでで……」

 真理奈がおそらく睨んでいるのだろう。相馬がたじたじになっている。


 このままでは悪いと思い声を掛ける。

 「真理奈さん、一応、俺が依頼を受けた案件です。

 急な事態ですが、このまま放置したら多くの人が犠牲になるかもしれません」

 「あんた!? もう……彼女がいるのよ? それを守ることだって必要だ、」

 「だから相馬さん達を助けたいんです。必ず戻ってきます……。朝の温泉にも浸かりたいので」


 俺が頑固なのも真理奈は知っている。だからこそ、大きなため息をつき頷いてくれた。

 最後は寂しそうな笑顔だったが、それはそれで良かった。


 朝の山は太陽がまだ隠れているせいか、ひんやりとした空気に包まれており、離れていく温泉街の湯気が恋しく感じた。


 「相馬さん、九条院はもう行っているんですか? あいつが勝手にやってくれると助かるんですがね」

 「どうだろう? ちょっと分からないねぇ。僕達も九条院家と打合せとかしてないからさぁ」

 まあ、何となくそうではないかと思った。他の者と九条院が、まともに打合せするとも思えない。


 「守屋さん……。家族旅行を台無しにしてしまい、申し訳ありません。

 あなたがいてくれたことに安堵してしまった自分が恥ずかしいです」

 「気にしないでくださいよ、更紗さん。

 一応は魔法協会からの依頼って形ですから。天野原市からは離れていますがね」

 相馬と同じように、心苦しい表情を浮かべて話しかけた更紗に対して、できるだけ優しい言葉を返した。


 山の中を進んで行くと……何てことだ。

 山の中腹にある洞窟は結界で見えないよう封印されているとのことだが……。その前に九条院家の奴等がいる。


 「守屋、どうした? 遅刻か? 社会人としてあるまじき行為ではないのか?」

 「お前自身が社会人でもないだろう? 俺はお前の依頼で動いた訳じゃない。とっとと行ったらどうなんだ?」

 九条院にそう言葉を発っしたが、鼻で笑われるだけだった。他に藤原 桐恵と後は知らない男女だ。


 男が近づいてくる。明らかに俺より背が高く、顔も彫が深く、体育会系の雰囲気だ。

 「守屋さん、ですね。お噂はかねがね聞いております。

 私はたわら 主水もんどと申します。今日は共に頑張りましょう!」

 いきなり手を取られて熱い握手と、熱い笑顔と声に出鼻をくじかれた。

 と言うよりも九条院の元でこんな暑苦しいというか、真面目そうな人がいるとは。


 もう1人の女性が近づいてくる。歩みが遅いため、こちらから近づく。

 「三途みと 芽衣子めいこ……です。よろしく」

 艶やかな赤の着物を着ているが、その顔は青く目も目の下のクマも暗い。


 「九条院……。これだけいれば、どうとでもなるだろう? 帰って良いか?」

 「おやおや。禍ツ喰らいの坊やは、自分の立場が分かってないねぇ。自分が依頼したことも忘れるとは」

 藤原が着物で口を隠しながら言った。

 そうだ、あの子を人質のように交渉しているようなものだ。


 「桐恵、もういい。

 守屋、協力すれば前回の件はチャラにしてやろう。それで問題なかろう?」

 九条院の言葉に仕方なく頷いた。自分で撒いた種なのだから……。


 後ろから相馬が耳打ちしてきた。

 「守屋くん守屋くん、あのお婆さん。あの風魔を持っている人? 顔がめちゃくちゃ怖いんですけどぉ」

 藤原家、一子相伝の守護獣と言えばいいのか。風を操ると聞いたことがある……。


 「ええ、そうです。他の2人は知りませんが、藤原さんも出てきていることが異常ですよ……」

 俺の言葉で相馬も今回の九条院家の力の入れようを再認識したようで、目が軽く見開いた。


    ・   ・   ・


 洞窟を封印していた結界を解除すると、大きな洞窟がそこに現れた。


 「私が先導しますので、できれば守屋さんは後ろから援護をしていただけると助かります」

 俵は厳しそうな見た目なのに、自分から率先して動こうとした。

 これは上司にしたい人でも上位に入るであろう。

 その言葉に頷き、俵の後について行くことになった。


 しかし、流石は洞窟だ。寒い、もう少し着込めば良かった。

 と、思っている時に、急に洞窟の温度が上がってきた。洞窟の先から熱気を感じる。


 「これは……。ご当主、おそらくこの先にいるものと思われます」

 「俵、そのぐらいは分かる。そのまま進め、守屋辺りが盾ぐらいにはなるだろう」

 まさかの盾扱いだ。もうつっこむ気力すら無くなって来た。その時、洞窟の中に大きな空間が広がっていた。

 そして、その真ん中には大きな黒い塊が寝そべっていた。


 「なあ、九条院。お前達は、こいつをどうする依頼を受けたんだ?」

 魔法協会は封印の依頼を受けた。

 現に封印の力のお陰だろう、黒い塊は動いていない。


 「こいつを消せとの依頼だった。が……やはり、罠のようだな」

 何を言っている、と九条院に聞く前に分かった。

 洞窟の周りから白い法衣を着た者が、ここから数えて6名はいる。


 「のこのこと、ご当主様から来てくれはってホンッマ助かるわ」

 金髪で髪をオールバックの様にする感じで後ろをツンツンにしている、浅黒く、ごつい男が岩陰から現れた。


 「ふん…獅堂寺の子倅か。まあ、大体のところは察しがつく。

 兄よりも先に自分の有能さを父親に見せたい、その程度だろう」

 鼻で笑って口にした言葉がこれほど嫌味なのは、共闘する者としても腹が立つ。


 「いやぁ、流石は九条院家のご当主はんでんなぁ。

 話が早ようて済みますわ。おい、やれやお前ら!」

 獅童寺の息子が九条院を倒して名を上げようとしている。

 しかし、何をする気なのか? いや、1つしかない。


 「俵さん、相馬さん、更紗さん。あの白装束の連中を止めます。あいつら結界を破壊する気です」

 その声を聞いてすぐに3名は動き出した。獅童寺は九条院に任せよう。


 俺の群青百足、更紗のエレクトリカル・ウィップ、相馬と俵は呪符により呪術士と思しき者に攻撃を仕掛ける。

 百足で横から薙ぎ飛ばし、更紗のムチで感電させ、相馬の呪符は相手を土の棺桶に封じ込めた。


 しかし、俵の呪符だけは違った。呪術師に呪符が一直線に投げられると、呪符が突き刺さった後に破裂した。

 完全に殺傷用の呪符だ。どれだけ真面目で好感が持てそうな人でも、やるときはやる人だと俵の事を認識した。


 3人の呪術士は動けなくなり、1人はおそらくは……。

 残りは2人。と思っていた時には、すでに始末は済んでいた。おそらく、芽衣子と桐恵がしたのだろう。

 1人はズタズタに引き裂かれ、もう1人は輪切りにされたように体が崩れ落ちている。


 「なんやなんやぁ? ずいぶんとええ駒、持っとるやないかい。

 しゃあない……わいが直接起こしたるわ!」

 獅童寺の大声を聞き、止めようと動いたが無情にも獅童寺の剛腕が黒い塊に打ち付けられた。


 黒い塊を殴り付けた際に響いた轟音から、獅童寺の攻撃力の高さがうかがえた。

 おそらくは金剛体か何かの強化術で底上げした力なのだろう。

 その拳を打ち付けられた黒い塊は、その巨体をゆっくりと動かし始めた。


 「仕上げに、こいつを頭にぶちこんだら終いや。九条院はん、せいぜい頑張りぃや」

 獅童寺はそう言うと、素早く何かを取り出して黒い塊に対して手刀を刺し込んだ。

 何を刺し込んだのか、そのことを確認する間もなく獅童寺は岩陰に消えて行った。


 獅童寺の影を追うように送っていた視線の端で、黒いものがゆっくりと動くのを捕らえた。

 目を向けると、こちらに黒い塊が……いや、デカい山椒魚のようなものがゆっくりと向かって来ていた。

 赤黒い光と湯気を上げながら……。


    ・   ・   ・


 黒い物体の中に赤いものが鼓動のように光っている、馬鹿でかい山椒魚のようなものが怒り狂ったような湯気をあげながら、こちらに迫って来ていた。


 これが封印されていたもの?

 怪異とは言えるかもしれないが、かなり上位としか言えない。こんなもの見たことがない。


 「守屋くん、これはヤバそうだよ。ちょっと距離取らない?」

 相馬の意見に賛成し、更紗と一緒に後退した。

 しかし、15m以上はあるんじゃないのか? これとどう戦えば良いのか……。


 「おい、守屋。盾ぐらいにはならんか」

 こちらが避難したことに対して、俺だけが責められた。


 「そんな訳の分からないものと、どう戦うんだよ? 情報不足過ぎて戦うのは慎重にするべきだろ!」

 「全く……。あれは『水巻山焼魚みずまきさんしょううお』だ。元々はこの温泉地の守り神だな。

 その名の通り水を巻き上げ山を焦がすような地熱を与える。そのお陰で温泉地として有名になった。

 ま、いつしか人は信仰心を忘れるからな。怒り狂ったんだろうさ」

 九条院はとんでもないことをサラリと言った。守り神と戦うとなると……。


 「おい、九条院。その守り神を倒したら、ここの温泉地はどうなるんだ?」

 「さぁな……。いつか枯れ果てるかもしれんし、そのままかもしれん。

 何にせよ、こいつは暴れ出した。倒すしかあるまい」

 そうなのだ。九条院の言う通り、倒すしかない。他の人達に影響が及ばないように。


 「更紗さんは俺より攻撃範囲が狭いから銃で攻撃を。相馬さん、この距離から符術は狙えますか?」

 更紗はすぐに頷いたが、相馬は疑問がありそうな顔をしている。


 「守屋くんさぁ、結構厳しいかも。

 攻撃力が高いのはできるだけ近い距離に呪符を配置しないと効果が薄いんだよねぇ。

 何かあの子さ、結構遠い距離まで湯気をバンバン出してない?」

 これには参った。呪符に水分は大敵だ。書かれた呪文が滲んでしまえば、効果は下がってしまう。


 「守屋、さっさと覚悟を決めて出てこい。このままでは、俺が傷ついてしまうだろうが」

 九条院からの要求を飲みたくはないが出るしかない。相手の出方ぐらいは把握しないと。


 避難していた岩陰からできるだけ相手の側面に回るように動き、百足を飛びつかせた。

 が、その攻撃は水巻山焼魚の中に入り込んだ。百足が喰らい付く、突き飛ばす、そんな手応えを感じなかったのだ。

 何の収穫もなかった百足を戻して見て分かった。百足が大量の湯気を上げて、火傷して苦しむように動き回っている。


 「おい! 九条院、こいつの体、熱っつ! 痛ってぇ、熱っつ、熱っついって!」

 岩陰に隠れていたところに、大量の湯気が襲い掛かってきて、たまらず言葉を遮られた。

 体中がびしょ濡れで全身に、かなりの火傷を負ってしまった。

 水巻山焼魚が高温の水蒸気を、俺が隠れているであろう範囲に吹きかけたのだ。


 「ああ、もう! 九条院、こいつの体は水だ。

 しかも、かなりの高温のようだ。蒸発しないのが不思議だがな」

 「守屋、少しは役に立ったじゃないか。

 獅童寺の子倅が入れた呪符か、もしくは霊木は、おそらく俺達を襲うように仕向けるものだろうな」

 「大体は分かる。じゃあ、どうするって話だよ。これじゃあ、じり貧だぞ?」

 そんな話を九条院と話していると、更に最悪なことが起きた。

 水巻山焼魚が散り散りになり、洞窟の中に降り注いできたのだ。


    ・   ・   ・


 「やばっ、相馬さん! 更紗さんと一緒に防壁に。相馬さんの石壁なら高温の水蒸気なので防御できます」

 言うが早く相馬は石の防壁を作成した。しかし、問題は……。


 藤原を見ると、風魔が作り出す風の壁で弾いている。

 俵と芽衣子は藤原の風魔によって防御されている。

 しかし、下手に近寄れば蒸し焼きになりかねないのか、こちらに近寄れないようだ。


 となると、九条院は……?

 心の中で舌打ちをしながら、駆け出した。


 ミニ水巻山焼魚が体を震わせて赤い光を強くさせている。

 それが沸点に達して、水蒸気を発する前に九条院の元に間に合った。


 「緑青白百足!」

 とは言ったものの、正直あの高温にどれだけ百足が耐えられるか。緑青白百足は防御に関しては期待できない。


 「ほう……。守屋、身を張ると言うのか? 律儀なやつだな」

 「お世辞はいいからなんとかしろ。お前以外に何とかできるやつはいない」

 悔しいが九条院に頼るしかない。力では圧倒的に強いのだ。


 「まあ、待て。こうなった方が都合が良い」

 「早くしろ! こっちは叩く度に爆発して、熱い水蒸気をくらってるんだぞ。って、あっつ!」

 何の都合か分からないが、今は信用するしかない。

 ミニ水巻山焼魚の高温の水蒸気から九条院を守る為に百足を使って飛び回る。


 『断界絶無だんかいぜつむ

 九条院が何かを唱えたことは分かった。そして、何が起こったのかも分かった。


 ミニ水巻山焼魚が震えながら一生懸命に蒸気を発しようとしているが、何も出て来ない。

 九条院は術式や呪文の詠唱もしていない。


 やつの左目が持つ力、知りうる全ての術をその目で発動させることができる。

 この目があるからこそ、九条院家の当主となった男だ。


 「俵、三途! お前達の出番だ」

 「はっ」「は~い」

 俵と芽衣子が藤原から距離を取り、術式に入るようだ。


 「皆さん、岩に昇るなどして地面から離れて下さい!

 法身…三昧耶戒…『冷凍零土れいとうれいど』」

 俵が唱えたであろう術によって、ミニ水巻山焼魚ごと地面が一瞬で凍結されたことで、洞窟内が一気に冷気に包まれた。


 「じゃあ、行きますね~」

 気怠い喋り方を聞くと誰かさんを思い出すが、芽衣子は岩の上から飛び降り、術ではなく舞いだした。


 しかし、その舞を盛り立てるのは賑やかな観客ではなく、刃の欠けた日本刀を握りしめた無数の骸骨だった。

 芽衣子が舞を続けていると、骸骨は動けないミニ水巻山焼魚を次々と刺して回った。


 「京様~。呪符か何かを刺したっぽいです」

 舞を続けたまま九条院に芽衣子が言った。おそらく獅童寺が刺し込んだものであろう。


 「2人共、よくやった。後は締めに取り掛かろう」

 九条院の狙いは分からないが、何かをしようとしている。


 九条院はおもむろに左の髪の編み込みを解いた。

 「何だ、守屋? 俺がファッションでこんな事をしていると思ったのか?」

 正直、思っていた。こいつならしそうな気がしていた。


 「全く……。髪からは霊力が漏れ出る。それを貯蔵するために髪を編み込んだ。

 先ほどの術は対象が多すぎて霊力を使いすぎた。これから使うものは更に激しい」

 なるほど。確かに何かで聞いたことがある。しかし、その力を使うほどの術とは?


 「黒い月…失せる太陽…『闇夜ノ縛り(やみよのしばり)』」

 九条院の術が発動したのか、右手の掌の上にミニ水巻山焼魚が次々と引きずり込まれる。

 気付けば全てが集まって、黒くて丸い形へと圧縮されていた。

 圧巻の光景だった。ここまでの術は見たことがない……。下手をしたら、あの骸骨顔よりも。


 「桐恵、封印だ」

 その言葉に藤原は巻物を取り出して、こちらに近づいてきた。


 藤原が巻物を広げると、九条院が圧縮した水巻山焼魚が押し付けられる。

 巻物が一気に黒くなっていった。


 「1枚では足りないか……。桐恵、あるだけ出せ。こいつは大物だ」

 結局、4枚目で霊力の封印が完了したようだ。


 「九条院、最後の術……いや、なんでもない。

 詠唱せずに使えるお前が一部でも詠唱したなら、とんでもないものなんだろう」

 「俺に救われた、ということだな。

 まあ、お前の頑張りに免じて約束は守ろう。むしろ良くやったぞ…盾としてな」

 また九条院が低く笑うと、藤原も笑い出した。やはりこの一族は好きになれない。


    ・   ・   ・


 終わったのを見計らってか、相馬が顔を出してきた。


 「守屋くん、終わっちゃった?」

 「終わりましたよ。ほぼ九条院の力のお陰ですけどね」

 相馬にそう言うと、少し寂しそうな顔をしていた。


 「終わり良ければ全て良し、って言いたいところだけどねぇ……」

 結局、何の為に俺達が呼ばれたのか分からなかった。

 分からなかったこそ確認する。


 「九条院、確認したいことがある」

 「どうせ魔法協会の連中とお前を引き合わせて、この戦いに巻き込んだことだろう?

 間違いではない。獅童寺とは中部地方でやり合っているのだが……。

 そこの子倅が、こちらの領域で何かをすると聞いてな」

 やはりそういうことか。結局、こいつ等の戦争に巻き込まれてしまった訳だ。


 「で、俺達を引き込んだ理由は?」

 「少しは頭を使ったらどうだ?

 万全の態勢で臨めば、あちらも相応の対応をするか最悪逃げかねん。

 それなら頭数に入っていない者がいる必要があった。

 多少は役に立ったが、結局は俺頼みだった訳だ」

 九条院の言葉にこれ以上付き合いきれないと思って、相馬達の元へ戻った。


 「相馬さん、更紗さん、とりあえず帰りましょう。

 処分も済んだようですし、ここに残る理由もありませんよ」

 そう言って洞窟から出て行こうとすると俵が前に立ってきた。


 「守屋さん、あなたのお陰でご当主をお守りすることができました。感謝いたします!」

 俵の熱い言葉に押されたが、何とか返事をして帰ることにした。


 好感の持てる人物だったが、やはり少し怖い人でもあるのだ。

 どうやら俵以外はこちらに興味がなさそうなので改めて帰ることにした。


 「守屋くん、ごめんね。巻き込んだ上に、僕らほとんど何もできなくて……」

 「相馬さん、今回は相手が悪すぎました。

 神に近いものと戦ったのですから。正直、私も何もできませんでしたし」

 相馬にも1等術士のプライドが少なからずあっただろう。

 しかし、今回の戦いでは分が悪すぎた。


 更紗も気落ちしている。この無力感は味わった者にしか分からない。

 勝手に巻き込まれて、傷つけられて……。

 九条院一門や獅童寺一門が何を考えているのか分からないが、巻き込まれる人のことも考えて欲しいものだ。


 「さて、まだ朝風呂には間に合いますから帰りましょう。

 悔しいことを忘れない程度に綺麗に流しちゃいましょう」

 この言葉を聞いたからか、2人共少しだけ笑顔になった。


    ・   ・   ・


 旅館に着くと真理奈がロビーのソファで腕を組んで待っていた。

 2人を置いて、真理奈に近づく。


 「真理奈さん……。怒ってます?」

 真理奈は目を閉じたままだ。心配させただろう、不安な気持ちにさせただろう。

 俺も真理奈が退魔士の時はそう思った。


 「真理奈さん、俺は……頑張りました。皆の為、とは言えないですが好きな人の為に頑張りました。

 でも、真理奈さんに心配をかけたことは謝ります。ごめんなさい……」

 頭を真理奈に向けて大きく下げた。こんなことで済まされないかもしれない。

 でも戦う理由はそれしかなかった。


 大きなため息を吐いたのが聞こえた後に、軽く頭を叩かれた。

 反射的に頭を上げて、真理奈の顔を見る。……俺の好きな笑顔だ。


 「ちゃちゃっとお風呂に入ってきなよ。

 まだ、皆は寝てるみたいだし……。バレる前に綺麗にしてきなさい」

 明るい笑顔を見て、少し涙腺が緩んだ。バレないようにすぐに頷き、風呂へ向かった。


 朝食を食べている時に、天が目ざとく朝風呂に3人が入ったことに気付いた。

 3人共、適当に誤魔化して話を回避しようとしたが、俺を見る天の目が痛かったことは確かだった。


 旅館のチェックアウトの時間になり、ロビーに俺と魔法協会の2人で集まった。


 「守屋くん、ホントごめんね。僕達にできることがあったら、何でも言ってね。頑張るからさ」

 「守屋さん、本当にすいません。騙す様な形になってしまい、申し訳ありませんでした」

 2人共まだ気落ちしている感じだが、きっと立ち直れる。そういう強さを持つ人達だ。


 「こちらこそ、あまりお役に立てずに。今度依頼する時は、天野原市の中でお願いしますね。それでは、また」

 そう2人に言い残して、旅館を後にした。


 行きとは別で、帰る方向が途中で別れる為、俺の車に天と萌香が乗ることになった。すでに憂鬱だ……。

 「さて、祐さん質問です。更紗さんとはどのようなご関係なのでしょうか?」

 天からいきなりぶっこんだ質問を投げつけられた。


 「いや、仕事の関係で知っているだけだよ。萌香ちゃんも一緒に仕事したよね?」

 「…はい。一緒に抱きかかえられました。…その前からの知り合いでしたよね……?」

 萌香から裏切り発言が飛び出してきた。これは不味い……。なんとかせねば。


 「えっ、抱きかかえられた? その前からの知り合い? ……祐さん、聞いてませんけど?」

 「それも仕事の関係上で……。萌香ちゃん、誤解を生むような発言は止めてよ」

 「だいたい祐さんは美人な人や可愛い人に弱すぎます。円さんにもいっつもデレデレして……」

 しばらくは天のお説教タイムの中で運転するという拷問を受ける事となった。


 本当に疲れた旅行であったが、巻き込まれた争いの中で大事な人を守ることができたことだけは救いだと思った。

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