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出会いのお話

 人と出会う。出会い方は様々で、良い出会いも悪い出会いも、もちろんある。

 その出会いによって人は自分と違う価値観を知ることになる。


 人の歩んできた人生はそれぞれ違う。当たり前のことである。

 その人生を出会った相手から、自分の経験しなかったことを追体験できる。


 この追体験にこそ、自分の持つ価値観の変化、多様性を認識することができる。

 自分1人では知りえない事を知っている人、出会わなければ知る事のなかった知識や記憶。


 人と出会うことは、今までの自分を少し、もしくは大きく変える。

 成長することは人と出会うことでなされていくものでもある。1人きりの世界には限界がある。


 しかし、成長するのは自分の世界が広がっていくだけではない。

 人と出会ったことで、感情や心も成長していく。良くも悪くも……。


 人と出会ったことに喜ぶ者、苦悩する者、嫉妬する者、価値観を共有する者……。

 出会いによって、2人を結びつけた。今回はそんな話をしよう。


    ・   ・   ・


6月下旬

 祐は萌香を引き連れて、街の中にある歓楽街を歩いていた。


 昼間の歓楽街は夜の煌びやかな光を放っておらず、ファンタジーな世界から目が覚めたかのような寂しさを感じる。

 女性連れで歓楽街やホテル街を歩くのは気が引けるが、今回の目的地はそんな寂しい世界の中にある1つのビルの地下にある。


 「SECRETシークレット BASEベース」。まあ、名前の通り秘密基地である。

 表向きは性的用の玩具を販売しているが、裏では怪異と戦う為の道具を販売してくれる。頼もしい秘密基地だ。

 場所が場所なのは、人が多く集まる場所は隠れて販売するのにはもってこいなのだろう。


 地下へと続く階段を見下ろす。

 まだ看板の電気は点いてはいないが、事前に行くことは伝えてあるので人はいるだろう。


 「萌香ちゃん、今から行く所は俺たちにとって必要な物がある。それは裏にある物で表の物は気にしないで」

 その言葉の意味が理解できているのかは分からないが頷いた。覚悟はしてもらいたい。


 階段を下りて、店のドアの前に立つ。3回ノックして、間をあけて2回ノック、最後にまた間をあけて3回ノックする。符丁のようなものだ。

 ドアの鍵が開く音がした。中に広がる世界を想像すると少し気が滅入る。


 少し重いドアを開けて店内に入ると横からすごい衝撃が俺を襲った。

 衝撃の正体は自分より背が高くガタイの良い、ドレッドヘアーの男に抱きつかれたことによるものだ。俺より余程カッコいい。


 「祐ちゃ~ん、久しぶりじゃな~い。何で来てくれなかったの? もしかして焦らしプレイってやつ?」

 「風間さん、止めてください……。苦しいし、そっちの気もないですってっ!」

 抱きつくと言うより、相撲の鯖折りである。嬉しくないのに、痛いと二重苦を与えてくるこの男がこの店の店主だ。


 とりあえず気は済んだのか解放された。

 風間は萌香を凝視している。もしかして、それで外したのか。


 「祐ちゃん! どういうこと!? 私と言う者がありながら、違う女の子に手を出すなんて!?」

 今度は服の襟を捕まれて前後に揺らされる。とにかく半笑いで嵐が過ぎるのを耐えるしかない。


 「あらやだ! ごめんなさいね。祐ちゃんの助手だったの~。

 思わず嫉妬しちゃったわ。私は風間かざま あきら、よろしくね」

 風間はまあ、あっちの方の人である。

 他の客に対してもこうなのか分からないが、熱烈な歓迎をされるため来るのを避けていたところもある。


 「…都 萌香です。…よろしくお願いします……」

 風間は萌香を品定めをするようにじっくり見ている。

 何を言い出すのか、だいたいの検討はつく。


 「祐ちゃん…もしかして2人でラブグッズを探しに来たわけじゃないわよねぇ!?」

 そう来ると思っていた。そもそも電話で内容は伝えていたはずなのに、なぜこうなるのか。とりあえず弁明する。


 「風間さん、電話でも話したでしょう? 退魔用道具を売って欲しいんですよ」

 風間は思い出した顔をして、店の奥に入って行った。手招きしているので、風間に着いて行く。


 店の奥は小ざっぱりしているが、部屋の両側の壁が上がると物騒なものから訳が分からないものまで、ガンラックのような物でまとめられている。


 「祐ちゃんの力だと、あまりいらないんじゃないの? もしものとき用?」

 風間も禍ツ喰らいの力は知っているから、それでなんとかなると思っているのだろう。まあ、大抵はそうだ。


 「助手の萌香ちゃん用ですよ。彼女は守護化身までは作れるんですが、守りに特化したもので…攻撃や撃退には向かないんですよ」

 「あら? すごいわねぇ。そこまでできるんなら、魔法でも習えば良いのに……。あ、でも今のままの方がお得意様になるわねぇ」

 魔法…風間の言う通り、それも1つの選択肢ではある。


 だが魔法を多くの人に教える者もいるが、高等なものになると自分の強みを教えることになるので学ぶのは難しい。

 その点、ここにある道具なら効果は一定であるし、魔法のように詠唱の時間もない。

 現状、一番いい方法だと思ったからここに来た。


 風間はどれが萌香に合うか、悩みながらそれぞれの退魔グッズを眺めている。

 萌香も初めて見る、訳の分からないものに興味が湧いているようであった。


 「ん~。攻撃用だと物騒なものしかないから、やっぱり撃退用よね。

 嫌煙筒や聖光筒…あと絶叫弾や仰天爆竹、あとは聖水ジェットスプレーとかかしら?」

 「まあ撃退用なら、そんなところですかね。

 ただ、絶叫弾は周りに迷惑が掛かりますから、止めた方が良いかも。あと、聖水ジェットスプレーってなんですか?」

 初めて聞く名前だ。聖水を入れたビンや聖水噴射筒は知っているが……。

 その俺の言葉に得意そうな顔をして風間が説明してきた。


 「まあ、虫よけスプレーみたいに高圧のガスを使って聖水を飛ばすの。かなりの高圧だから勢いもあって怪異も貫通できるかもよ?」

 なかなかに物騒な物を提示してきた。萌香に目を向けると、変な袋を手に取っていた。それは面白いが効果は薄い。


 「あら、萌香ちゃん、笑福袋がお好み? 振ると霊の嫌いな笑い声が出るの。

 でも、あなたには不要と思うわよ。ドカンといくならこれもオススメよ」

 鉄製の筒にグリップと引き金が付いている。筒はグリップの手前で折れるように下に倒れた。


 「風間さん…どう見てもグレネードランチャーですよね?」

 「そうよ? これなら、そこそこの怪異なら一発よ? 派手だし、爽快感もあってオススメよ」

 そんな物を女の子に持たせてどうする、と口にしたい言葉は飲んだ。一応、彼の心は乙女である。


 とりあえず、効果の高い嫌煙筒と聖光筒。あとは萌香が興味を示した聖水ジェットスプレーを買うことにした。


 しかし、なかなかいいお値段だ。まあ、需要と供給だ。

 退魔グッズを買うほどのものを相手にするならば、効果が強くなければダメだ。

 それだと効果が高い物を使ってグッズを作るしかない。


 萌香には守護化身のコマがいるが、それ以外の方法も持つべきだし、知らなければいけない。

 これも必要経費と考え、財布から10枚以上の万札を出す。もう少しで財布が悲鳴を上げようとしている。


 「まいどありぃ。祐ちゃん、今度はプライベートで来てねぇ。あら、萌香ちゃん? そっちも気に入ったの?」

 萌香を見ると、どう見ても大きな銃を持っている。しかも、ちょっと嬉しそうだ。


 「萌香ちゃん。流石にそれは警察に捕まるから、戻しておきなさい」

 そう言うと、萌香は少し寂しそうに銃を元の場所に置いた。…乙女の気持ちは本当に分からないものだ。


 飲み物代くらいはお金もあるので、プレシャス・タイムに行くことにした。

 「いらっしゃいませ。お、萌香ちゃんとお前か……」

 「俺はお前の店に利益を提供しているぞ。何ら店に害は出していないだろ?」

 そう言って、カウンター席に座る。ちょっと今日のことを三善に話したかったからだ。


 シークレット・ベースでの話を三善にしたら、まあ想像通りアホみたいに笑い出した。

 「風間さん、相変わらずなんやなぁ。わいはあそこに行くのはご免や。だいたい、あん人、何人に恋しとんねん」

 「基本、手当たり次第じゃね。でも心は乙女だからなぁ…以外に少ないかもな。…そうなると、三善と俺は対象か……」

 何とも嬉しくない天秤に掛けられた気がした。三善の方が分が良いだろう。

 それを三善に言うと、体が退いていた。


 「何ちゅう、嬉しゅうない天秤や……。やっぱ一途に惚れるのが一番やな。変にあっちもこっちもはあかん」

 「お? 言うようになったな、遊び人。それで大変な目に遭ったのを忘れたのか?」

 三善は目に手を当てて、天を仰いだ。バッチリ思い出したのだろう。

 まあ、もう5年以上前の話だからな。


 「店長、遊び人だったんですか。人は見かけによらないと思ってましたが…どれぐらい遊んだんですか?」

 話に円が食いついてきた。多分、昔の話をここでしたことがないから、初めてのことに興味が湧いたのだろう。


 「円ちゃん。遊び人って言ってもギャンブルとかじゃなくて、女性関連だよ」

 「ちょっ、お前! そこまで言うたらあかんやろ。もっとオブラートに包んでくれな……。まあ、事実なんやけどな」

 珍しく三善が負けを認めた。まあ、事実は事実だからな。


 円が少し驚いてトレイで口元を隠している。なんと可愛い仕草であろう。天使やべぇ。

 「店長にそんなことが…多くの女性を泣かせるなんて。酷いです!」

 「いやぁ、円ちゃん若気の至りと言うかやなぁ……おい、祐。お前が言うたんやから、フォローぐらいせぇ」

 今まで見たことない怒りにしては可愛い感じで三善を責めている円に、三善もたじたじだ。助け舟ぐらいだそう。


 「まぁまぁ、円ちゃん。三善の言う通り、若気の至りであって、キッチリ謝って解決済みさ」

 「なら良いですけど…ちなみにどんな女性だったんですか?」

 乙女の気持ち…かどうかは分からないが興味が湧いたのだろう。

 三善もあまり過去を話さない。でもこれぐらいは良いかと三善を見ると、仕方がない顔をしている。


 「じゃあ、話そうか。実はこれ、俺と三善の出会いの話でもあるんだ。三善、俺が分からない所があったらフォローしてくれよ」

 苦笑いした三善から了解したものとして、話を始める。萌香も興味を示していたのが横目で分かった。


     ・    ・    ・


5年前 冬

 祐はとあるシックなバーに来ていた。

 退魔士としての仕事を終えたのが街中であり、夜だったのと20歳を過ぎていたのにお酒を飲んだことがなかったためだ。


 1人で居酒屋に入るのも恥ずかしいし、小料理屋のような所は知らない。

 5階建てのビルの3階にbarと英語の看板があったので、そこに入ってみた。


 しかし、バーに1人で入って少し後悔した。

 何だかんだで、カップルやグループで来ている人が大半だったからだ。

 何を注文したらいいか分からず、甘い感じでアルコール少な目のカクテルをと言って注文をした。


 カップルが3組ぐらいと、仲良しそうなグループが1組。

 あとは羨ましいことに女性に3人に囲まれている長身のカッコいい男のグループで店は埋まっていた。

 1人飲みは自分も含めて3人だ。しかし、とても仲良く話せる状態ではなさそうだ。静かにお酒を楽しんでいるような感じだったから。


 カッコいい男のグループが盛り上がっているところで、カクテルを差し出された。

 飲んでみると、甘くてほろ苦い不思議な味がした。


 バーに来て1時間もしない内に、俺はトイレの妖精と化していた。

 アルコールにここまで弱いのか、延々と戻していた。

 周りからしたらトイレに籠城しているとしか思えないだろう。


 すべての胃の中の物と元気を水の中に排出して、トイレの中に消えて行った。

 多分、死人のように顔が真っ青だったであろう。


 トイレから戻ると、店員からアルコールなしのカクテルと生ハムとチーズを勧められた。

 何かを胃に入れたかったのでお願いした。


 またカッコいい男のグループから楽しそうな声がする。

 そんなに楽しい話題が湯水のごとく湧いてくるのなら、そんな力が欲しいと思った。


 出された物を食べ終わると、人心地ついた。

 そろそろ帰ろうかと思い、会計を済ませようと思ったところで、カッコいい男のグループも帰るようだった。


 その時に見えた……。

 先に会計を済ませて、名残り惜しそうに店を後にしていくグループに、この世の人ではない女が見えたのだ。

 慌てて会計を済ませて、その女を追うように足早に外に出た。


 その女の霊は、誰かに憑りついているのか?

 ただ、明るいグループに誘蛾灯に誘われる蛾のように憑いて行っただけか……。


 どちらにせよ、悪いことが起こる前に何とかする必要がある。

 できるだけバレないように付いて行く。


 どうやら皆、終電で帰るようだ。グループの乗った車両の隣に乗り横目で見る。

 まだ女の霊は付いて来ているようだ。


 1人、また1人とグループが減っていく。

 最後には爽やかなカッコいい男と、少しきつめな感じのする美人な女性が残った。


 やはり、まだ女の霊はそこにいる。どちらかに憑りついているのか、憑りつこうとしているのか。

 2人が電車を降りた。慌てて、俺も電車から降りる。


 尾行なんてしたことがないから距離感が掴めない。

 ただ、気配に気づかれず、見失わない距離を歩く。


 曲がり角を曲がったところで、2人を見失った。しかし、一本道が続いているのになぜ?

 そう思っていると、電柱の陰から人影が俺に駆けて来るのが見えた。


 握り拳で顔を思いっ切り殴られた。

 地面に倒れ、顔に痛みが残っている方に目を向けると、カッコいい男と美人な女がいた。

 バカだった、電柱の陰を気にしなかったなんて。


 「おい、われぇ! 何、わい等の事つけまわしとんねん? なんやする気やないやろな?」

 迫力のある、関西弁で問いただされた。また殴りかかられては困る。

 仕方がない、見えない程度にして自分を守るか……。


 「群青百足……」

 呟きに応じて、通常の人間には見えない程度の百足を出した。

 これで殴られても固い物を殴った感じで終われば…いや、先ず女の霊を?


 「お前…なんやそら……? 人間ちゃうんか? 人間やないちゅうことかいな……?」

 この男に百足が見えている? なかなか見えない程に薄めているのに、それが見えるほどの力があるというのか……?


 「麗華! 先、家に帰っとけ! こいつは…ええから、先に帰れ!」

 麗華と呼ばれた女性は、この男の権幕に突き動かされるように走って行った。

 その女性に女の霊も滑るように付いて行った。


 「おい…お前はなんなんや…話によっちゃあ、ぶっ殺すで……。そんなもん、普通の人間様やったら、持ってへんしなぁ」

 面倒なことになったが、こいつは百足が見えても尚、俺を殺すことができる自信があるということだ。下手に隠し事をするのは得策ではない。


 先ず、自分は人間で、これは「禍ツ喰らい」という血の力、退魔士をやっている、女の幽霊が見えたので、何とかしようと思い追いかけていた。

 これで伝わるだろうと信じたい。


 「お前、アホなんか? 別に助けてぇ、言われた訳でもあらへんのに何でそないな事したんや?」

 考えてみればそうである。助ける必要なんてない、でも助けないと大変なことになる。そう思っただけなのだ。


 「正直、何でかって言われても……。ただ助けたい、何かある前に助けたいと思って。それがあなたであっても、そう思ったと思う」

 本当に思ったままの事を言った。男は心底呆れたような顔をして、ため息を吐いた。

 吐いたため息が白くなっているのがカッコいい男のものだからか、少し綺麗に思った。


 「やっぱりアホなんやなぁ……。いや、ええ意味でな。わいもあん子に霊が憑いとうのは知っとった。同じ家に住んどるからなぁ」

 男は知っていた。それなら話が早い。除霊をしたら済むことだ。そう提案したが、男は首を横に首を振った。


 「あれは生霊や。しかも、まだ本体が分からへん。

 こっちの力に気づいとんのか、それとも恨みがまだ弱いのか……。今のまま除霊してもまた現れるのがオチや」

 生霊か。確かに誰だか分からないと消しようがない。

 一番の消し方は、生霊になってしまうほどの強い怒りや恨みなどをなくすことなのだが……。


 「お前の百足で何とかできんか? 除霊ならわいも多少の心得はあるんやが。お前の力はまた別もんみたいやしなぁ」

 「申し訳ない…俺の力は怪異を喰らう力であって、生霊を喰ってしまえば喰われたことで、生霊の本人に致命的な何かが起こるかも……」

 男は俺の言葉を聞いてうつむいた。解決策になるかと思って期待したのだろう。

 しかし、その期待には添えなかった。ただ、解決策ともいえないが方法はある。


 「…生霊を更に怒らせるってのはどうかな? 恨みが何か分からないけど、君は女性にモテていると思う。

 女の嫉妬は男関係が多いから……思いっきりイチャつく。そうしたら女の怒りが高まり、生霊はその本体を現す。

 ただ、君の彼女には怖い思いをさせるかもしれない……。基本、生霊は恨んだ相手が1人の時を狙うから」

 「なるほどなぁ……。ただ、困ることがあんのや。本体が分かったら、麗華が間違いなく切れてまうわ。それを止めるのが億劫やわ」

 男の茶化した言い方に思わず笑ってしまった。男も笑っている。


 「そういえば自己紹介してなかったね。俺は守屋 祐。好きに呼んでくれて構わないよ。よろしく」

 「わいは三善 遊人や。こっちも好きに呼んで構へんで、よろしゅうな」

 笑いが静まり、笑みを浮かべてお互い自己紹介をした。


 寒空の下、男2人で話すのもどうかと思い、24時間営業のファミリーレストランに入る。

 深夜なのにそこそこ人がいるのは休みの前日だからだろうか。


 とりあえず腹が減ったので、2人で摘めそうなものとドリンクバーを頼む。

 ジュースが好きな俺と違って三善はコーヒーを飲んでいた。


 「分かってたことやけど、やっぱファミレスのコーヒーは不味いわ。苦い水のようや」

 「俺は元々、苦手だから分からないけど、美味しいコーヒーだと違うの?」

 「せや。なんちゅうか苦味はあってもそれがスッと消える。

 でも風味は残っているっちゅう感じやな。香りもなんや心を落ち着かせてくれるしな」

 何故かコーヒー談義になってしまった。


 話を戻して、女の霊の本体のあたりを付けなければ。

 間違えれてしまえば、いくらイチャついても、イチャ付き損だ。三善の勘を頼るしかない。


 「ん~、俺が遊んどる子かぁ。まあ、何人かおるが麗華のことを知っとるんは今日おうてたグループぐらいやで」

 遊んでる子が何人もいることに腹が立ったが、そこは置いておこう。

 とは言え、対象者は4人グループで三善と麗華を除いた2人だ。


 「三善、とりあえずこれで本体の候補は2人になった。あとは2人の前でイチャイチャしたら、おそらく霊が本性を現す」


     ・   ・   ・


 あとは経過を待つだけになる。三善の頑張り次第だろう。

俺も2人がイチャついているのを見て変化がないか、少し離れた所から観察する。


 しかし、参ったことが分かった。おそらく残りの2人共、どうやら三善に好意を抱いているようだ。

 罪な男とはこういうやつのことを言うのだろう。


 1人は明るくて、可愛いと表現するのが正しいだろう。

 もう1人は控えめで話を聞いて頷いたり、笑ったりしている。


 こうなってくると、負の感情を溜めこみやすいのは控えめな子だろう。しかし、生霊は薄いと出所が分からない。

 麗華には悪いが1回は怖い目に遭うことになるだろう、と少しだけ頭の中で謝った。


 どうやら俺の考えの通りだった。生霊がドンドン濃くなっている。

 どちらかが、彼に恋心を寄せているが2人のイチャつきっぷりに内心では怒り狂ったのだろう。


 「どや、祐。後どれくらいで分かりそうや? あんまイチャつくのは性に合わんのや。結構ストレス感じるわぁ」

 「とりあえず、あと1、2回ってところかな。ただ、麗華さんを1人きりにできるのか? 一緒に寝てたら襲って来ない可能性が高いぞ?」

 怒りを寄せている相手は三善ではなく、彼女の麗華なのだ。


 ただ、恋人同士が同じ布団で寝ないのも許されるのか? それができるのか、三善に聞いてみた。

 「可能やな。麗華は寝てしまえば、なかなか起きへん。その間に部屋を出る。これで1人の環境になるやろ?」

 確かに、それで1人の状況は作れる。あとは三善の更なる頑張り次第だ。


 三善達は週末に集まっているようであり、俺も退魔の依頼が入ったので、週末までは何も起こらないことを祈った。


 週末までには退魔の仕事も終わっていたので、三善の頑張りを見るためバーに行く。

 頑張ってイチャついているが時々疲れた顔を見せる。


 心の中で頑張れと応援はしたが、その状況を羨ましくも思っていた。

 しかし、ドンドン女の霊は強みを増している。


 まあ、こんなものを見せつけられたら、逆の立場だったらそうなるだろうと思うと可哀想な気がしてきた。

 三善が俺を少し見たので、頷いた。おそらく今夜、女の霊の正体が分かるはずだ。


 深夜、マンションの前で上を見ながら三善からの連絡を待つ。

 寒空の下、男からの連絡を待つ自分は寂しいやつだと思った。

 そんな寂しい気分を吹き飛ばすかのように、携帯の着信音が鳴った。


 「祐か? すまん、生霊の姿を見たんやが…見覚えのない顔やったんや……」

 どういうことだ? あのバーでしかイチャついていないはず。他の仲良しグループも毎回来るわけではない。

 他の客も常連はいても、すべて男だ。しかし、いたのは女性の霊だった。店員も男のはずだ……。


 「祐、すまんのやけど、麗華が怖がってもおてな、今日はここまでにしてもらえんか?」

 その言葉に、了解、と答えてマンションを去る。

 マンションから去っていく生霊が見えればと思ったが、そうはいかなかったようだ。


     ・   ・   ・


 次の日も麗華が怖がっているというので、ファミレスに集まるのは昼以降にとなった。

 とりあえず生霊の顔に見覚えはないらしい。


 「祐、待たせてすまんな…女の子の友達に一緒にいてもらうよお、頼んで来たんや」

 「いや、そうでもしないと、落ち着かないだろう。

 しかし、2人のどちらでもないとなると不味いな。もう危害を加え始めた。早く何とかしないと……」

 2人とも顔が暗くなっているのだろう。喋ることもできず、考えることにした。


 見覚えがない顔、バーでのイチャイチャ、店員や他の客……。

 1つだけ思いついたことがある。こんなことは聞いたこともないが三善に話してみるしかない。


 「三善…もしかして、3人とも口説いてないか?」

 「いやいやいや、そんなことしとらんで。……あ~、でも麗華と付き合いだしたんは、あん子達のグループにわいが入ってからやからやなぁ……。

 確かにスタートは一緒かもしれへんけど、口説くぅ言われても…女の子を褒めるんわ、会話の基本とちゃうか?」

 三善はあくまでも女性との一般的な会話だといってはいるが、俺には無理だと思った。


 「それだ……。自覚がないのが一番怖い。誰だって気になる人から褒められれば嬉しいし、期待を持たせるようなことも言ったんじゃないのか?

 自分が冗談だと思っても、相手は本気になった。だけど、三善は麗華さんと付き合った。相手の気持ちを考えたら…好きな男を奪われたと思う人の方が多い……と思う」

 自分だったらどう思うか……。恨みにはならないまでも、悔しいか、辛い思いはするだろう。


 容姿が良い人は基本的に、それだけで相手の気を惹く。

 その相手に褒められたり、期待を持つような事を言われれば好きにもなりやすい。

 そして、2人の好意が恨みとなり、混ざりあって1つの生霊を作りだしたとすると、顔が分からない辻褄が合う。


 「わいのせいっちゅうことかいな……。でも、言われれば、そうやな。ああ~、因果応報っちゅうのは、正しくこんなことを言うんやろなぁ」

 そう言うと腰かけていたソファからテーブルの下に滑り込むようにだらけて行った。


 「まあ、仕方がないな。モテる男の宿命というか、まあ遊び方は今後考えた方が良いぞ。そうと決まれば、やることは1つだな」

 三善が目を丸くしている。自分のやったことを理解しただけなのだろう。

 「謝るんだよ。土下座行脚だ。情けないしカッコ悪いかもしれないが、これしかないぞ」


 電車で移動している間中、ずっと三善が膨れた顔をしている。自業自得とは分かっていても、人に謝るのは抵抗があるし勇気もいることだ。


 「おい、三善。そんな顔で謝っても許してもらえないぞ。謝罪は誠意を見せるもんだ。腹くくれ」

 「そんなん言われんでも分かっとるわ。ただ、やっぱ…いや、なんでもあらへん。しっかりせなな」

 だいぶ真面目な顔になった。これなら大丈夫だろう、きっと。


 先ずは1人目の女の子と会う。駅に来てほしいと言ったところ、快諾してくれたようだ。

 そんなに大きい駅でもなく近くにコンビニとバス停があるぐらいだ。電車が来ないと閑散とした光景になる。

 そんな駅に向かってくる女性が見えた。明るくて可愛い方の女性だ。


 何故、呼ばれたのか分からないのだろう。笑顔で三善に向かって行った。

 「急に呼び出してごめんな。あんな…優子ちゃんな…わい、優子ちゃんに気を持たせるような事したかもしれん……。

 でもな、わいは…本当は……あいつのことが好きなんや!」

 ん!? 三善は俺を指さしている。何を言ってるんだ、こいつは? 三善が俺に向かってくる。


 「実は麗華にも言うとらんのや……。わいは、実はこっちの方なんや!

 だから、ごめんな……。変な気ぃ持たせてたらあかんと思って話にきたんや……」

 まさかのあっち系の扱い!? いや、効果的かもしれないけど、俺へのダメージが計り知れない。

 優子と呼ばれた女の子は呆気に取られた顔から、涙を流し始めて駅から走り去って行った。


 「ほれ、祐。上手くいったやろ? この調子でもう1件行こか」

 三善は上機嫌だが、俺の気分はどん底だ……。もう1回言われると思うと足取りも心も重い。


 もう1人の女の子は駅の近くに住んでいるとのことで、こちらから出向くと三善が言った。

 「いやぁ、祐。ほんま助かるわぁ。この解決方法を考え付いた、わいも流石やなぁ」

 「…お前、間違いなく麗華さんを失うぞ。それも考えての事なのか?」

 三善はへらへらした顔から真面目な顔をして俺を見た。


 「祐。自分の女が危険におうとる。

 下手に謝れば、麗華の為にやっとるって思われたら、火に油や。なら自分が嫌われるんが一番やろ……」

 「三善…彼女のことをそこまで思って……。でも、俺のことも少しは考えてくれ」

 三善は満面の笑みを浮かべて、顔の前に手を合わせて謝ってきた。仕方がない…毒を食らわば皿までだ。


 次の女の子の家についた、一軒家なので、玄関先まで出てきてもらった。

 「由美ちゃん、ほんますまん。わい、皆にええ顔して…由美ちゃんにも変な気ぃ持たせてしもたかもしれん。でもな、あんな……。

 俺は…こいつが…こいつの事が好きなんやぁ! 麗華にも言うとらん、あいつは何も知らんのや。ほんま、ごめん……」

 もう指さされて、あっち系扱いされるのに慣れたのか半笑いは浮かべる事ができた。

 さて、この子はどうするのだろうか…。…さっきと同じく涙を流すのか……。


 しかし、この子は呆気に取られたのか三善の顔と俺の顔を交互に何度も見ている。

 信じられないのだろう、こんな状況を飲み込めという方が、


 「わかった。三善くん、話してくれてありがとう。それじゃあね」

 何の反応もなかった。いや、まあ、何度か顔を見た後、じっと見られた。

 とりあえず帰ることにしよう。やることはやったのだ。


 「いやぁ、由美ちゃんは話が分かる子で良かったわ。これでバッチリやな、いやぁ祐、ホンマありがとな。……何や、どないしたんや?」

 「いや、好きな男があっち系って知って、動じない。いや呆気に取られてはいたが、それ以降は何か違う感じが……」

 「考えすぎやで、祐。大丈夫やて、もう安心や。ただ、麗華とはお別れやろうけどな……」

 三善なりに考えた結果なのだ。恋人の安全の為に自分を犠牲にしたんだ。カッコいい男だ。俺を巻き込んだ以外は……。


     ・   ・   ・


数日後

 「祐ぅ~、助けてくれ~。由美ちゃんが生霊として出てきたんやぁ。何もせぇへんけど、何か期待した目で見てくるんや~!」

 なるほど、あの子はあっち系も好きなんだ。

 もしかしたら、麗華に恨みを抱いたのもあっち系だと思いたかったのに、普通の恋愛をしたことに対する怒りだったのかも……。


 「しばらくしたら飽きるだろ。それまでは我慢しろ、お前が撒いた種だ。

 変に楽しませる必要もないから、そのままでいろ。あと、麗華さんに憑いていた生霊は出なくなったのか?」

 「ああ、出なくなったみたいや。とりあえず、わいができることはやったわ。まあ、フラれてしもたけどな。結果オーライちゅうことにしとこか」

 そう言って三善は笑った。笑うところではないが、思わず笑ってしまった。気の良いやつだと思った。


 「俺をあっち系にしたことに対して、俺の生霊が出ないことを祈っとけよ」

 嫌な出会い方をしたが、最後は笑い合えた。お互いが軽口を叩けるような相手。

 今まで知らなかった人に会えて、少しだけ自分が変わった気がした。


     ・   ・   ・


現在

 昔話をし終えて、コーヒーを飲み干す。


 「そんな話があったんですねぇ。で、祐さんと店長って霊能力者だったんですか?」

 「え? 驚くところ、そこ? 今まで散々、三善と話していたと思うんだけど?」

 円の疑問に俺も三善も驚かされた。今まで近くでよく話しを聞いてたじゃないか、My Angel?


 「まあ、祐の言うたことで、基本おおとるわ。いやぁ、あん時は殴ってすまんかったなぁ」

 「いや、それも大事だが、俺をあっち系に扱ったことが問題だと思うんだけど?」

 俺と三善、円は声を上げて笑い、萌香が微笑んでいる。この温かい空間は多くの人との出会いで作られ、大きくなった。


 昔の閉じていた自分からは想像もできない世界。

 これからも、まだまだ色々な人と出会うだろう。そして、また世界が大きくなっていく。

 そうなることを願っているし、そうなるように努力しようと思った。


 プレシャス・タイムを出て、事務所に向かう。

 俺の後を萌香が付いてくる。その萌香が声を掛けてきた。


 「…三善さんとの関係…羨ましいです。…私にもできると良いな……」

 「できるよ。まだまだ萌香ちゃんはこれから人と出会う、その中にいるかもしれない。

 それに加奈ちゃんだったり、天ちゃん、凛ちゃんともそうなるかもしれない。

 人の事を知ることが、君の世界を広げるし、また成長させる。今はまだ難しいかもしれないけど、少しずつ頑張ろ」

 萌香が大きく頷いた。俺との出会いは何か彼女に与えたのか少し気になるが、必ず人から何かを得るだろう。良いことであれば良いなと思う。


 事務所に戻ってきた。

 「祐さん、萌香ちゃ~ん、お帰りなさぁい。風間さんは元気でしたぁ? 祐さん、風間さんには前から好かれてましたから喜ばれたでしょお?」

 彼(彼女?)との出会いは、悪い方の出会いだったかもしれないと思ってしまった。

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