行ってはいけない場所(前編)
闇を覗くものは、闇からも覗かれている。との言葉がある。
哲学の言葉だが、怪異についてもこれは言える。
むしろ闇はいつも手招いているのだ。闇に来るように……。
闇を覗こうとするものがいれば、喜んで招こうとする。
黒き力を欲するものは、その暗闇に喰われないようにせねばならない。
喰われてしまえば、その者も暗闇の一部となってしまう。
暗闇に堕ちることを恐れる者、あえて暗闇に身を投じる者。
例えどんな者であっても暗闇は歓迎してくれる。更に暗闇を深くするために……。
しかし、時として暗闇に興味を持ち、面白半分で向かう者もいる。
静かに忍び寄る暗闇の存在に気付かずに…。そんな無謀な者達について今回は話をしよう。
・ ・ ・
3月13日
祐はデパートの中で頭を抱えていた。
デパート内には、そこかしこにホワイトデーと書かれた垂れ幕やポスターなどが散見される。
今まで足を踏み入れたことのない、お祭りムードに体が退いてしまう。
いや、押し返されるどころか、この空間に圧迫されて息が詰まるような気さえしてきた。
しかし、念願のバレンタインデーのチョコを貰ったのだ。
3倍返しとまでは考えてはないが、その人の喜びそうな物を、お返ししたいと思いデパートに来たが……。
ごった返した人ごみの中から、それらを見いだせるのか不安になる。
加奈の分は早々に決まった。
義理の気持ちが強いチョコだろうと判断して、それよりお高いお菓子の詰め合わせを買った。
問題は萌香と天の分である。今、まさに頭をフル回転させて、2人が喜びそうなものを考えている。
先ずは乙女な天の事を考えよう。私服もフリルの多い女の子といった格好をしている。
しかし、服はプレゼントできない……。その勇気もなければ、美的センスもない。
ということは小物か? 天の姿を思い出すと、あまり光り物の類は付けていなかった…と思う。
そうなるとアクセサリーが良いかもしれない。これなら魔除けや幸運をもたらすものも多い。
アクセサリー屋では、同じように男性が悩んでいる姿が多く見られた。
人気や定番商品、オススメ品などを店員に聞いている人も多い。
しかし、俺には不要だ。天にとっては幸運こそが、今、一番欲しているものだと知っているからだ。
4つ葉のクローバーのシルバーネックレスがいくつかある。
この中で、可愛らしいのが良かろうと手に取る。…なかなかのお値段だ。
買える値段ではあるが、あのビタービターチョコを思い出す。
口の中が苦くなってきたが男は勢いと思い、ネックレスを買った。
あとは萌香の分だが……。一応、安いながらもバイト代は出している。
とは言っても、それで何かを買っているようではなさそうだ。
着ている服など多少は違うが、ブラウスにスカートをメインにしている事が多い。
日替わりで服が様変わりしている様子はなかった。
そうなると本人にしっくりくるようなアクセサリーを、プレゼントできるかどうか疑問だ。
今まで色々話した中で、萌香が何が好きかとか聞いておけば良かった……。
萌香のことを思いだす……。殺風景な部屋が思い浮かんだ。
そうだ、あそこに温かみのあるものを置いてもらおう。
部屋が明るくなることは良いことなのだ。
となると、ぬいぐるみか? 花瓶なども綺麗だが花を買うのも大変だ。
だからと言って、魔除けのシーサーや猛々しい木彫りの熊では乙女の部屋には合わない。
あれやこれやと思案しながらデパート内を回る。
今度もファンシーな店に入る。…一目惚れである。可愛い…、これが良い…、これにしよう……。
・ ・ ・
3月14日
プレシャス・タイムでコーヒーを飲みながら、皆を待つ。
「なんや、でっかいもんまで買うてきたんやなぁ? 気合入り過ぎとちゃうんか?」
ホワイトデーのお返しだと、三善にはバレているのだろう。楽しそうな顔をしている。
「それで、そんな大荷物なんですねぇ。
でも、プレゼントからも祐さんの気遣いや優しさが感じられますよね。一生懸命選んだ感じがします」
包装されたプレゼントを見ながら円は言った。やっぱり円は天使だ。と思った。
「ありがとう。円ちゃん、これ。デパ地下で食べたらビックリするぐらい美味しかったから、買ってきたんだ。
いつもお世話になってるから、プレゼント」
これは本当である。疲れからか、糖分を欲して買ってみたお菓子だ。
「いいんですかぁ? うれしいなぁ。店長、ここのお菓子有名なんですよ。祐さん、ありがとうございます」
円が満面の笑みを浮かべて、お礼を言ってきた。
他の客から呼ばれたので、円はチャームポイントのポニーテールを揺らしながら去って行った。
「お前もだいぶできるようになったやないか。これなら卒業も近いんやないか?」
三善がいやらしい顔をして話しかけてくる、それは嬉しいね、とだけ答えた。
客が来たことを告げるベルの音が聞こえたので、入り口を見る。
萌香、加奈、天の3人が一緒に来た。
せっかくなので、テーブル席に移動する。
「これ、ホワイトデーのお返し。喜んでもらえると良いんだけど」
そう言って、それぞれに買ってきたものを渡す。
加奈はそれなりに大きな箱、天は細長い箱だ。
そして、萌香には巨大な物を渡した。
それぞれラッピング済みなので、中身は帰ってからのお楽しみ、と言った。
そんな和やかなムードで話しをしていると、それを破壊せんばかりにドアの開くベルの音が高らかになった。
続けて大きな足音を立てて、こちらに男が向かってきた。山崎 拓海であった。
「守屋氏~! 大変なことになったでござるよぉ~」
こっちの方が大変だ。メガネに中途半端に長い髪にぼっちゃり体系に泣きつかれる、こっちの事も考えて欲しい。
「祐さん、そちらの方はお友達ですか?」
天が若干引いた顔で聞いてきた。そりゃ、これを見たら引くか。
「俺の趣味繋がりというか、オタク仲間というか、まあ、友人かな」
正直に言った。下手に取り繕う方がカッコ悪い。
「守屋氏~! 本当に大変…この可愛い女の子達は、」
「お前、普段から二次元にしか興味がないって言ってただろ! ほら、事務所に行くぞ」
山崎を押し出すようにして、会計を済ませて出ていく。
・ ・ ・
女子3人に未練があるのか、微妙に踏ん張る山崎を押し出し、事務所に詰め込んだ。
「で、いったい何の用だ?」
山崎を事務所の応接ソファに座らせ、話しを聞くことにした。
「守屋氏、パソコンある?」
山崎の質問に、ああ、と言ってノートパソコンを持ってくる。
山崎は慣れた手つきで何かをしている。
「守屋氏、オカルトに詳しいじゃんかぁ。実はそれ関連なんだ、多分」
何の話しを山崎はしているのだろうか。
そう思っていると、パソコンのディスプレイをこちらに向けてきた。
「なんだこれ? 行ってはいけない場所? …嫌な写真があるな……」
ディスプレイからは、何の変哲もない廃墟や道祖神の写真などが表示されている。
何もない物も多いが中には怪異ではないが、怪しい人影、浮遊霊の類が見える。
「流石は守屋氏、拙者は信じておりましたぞ~」
何を信じていたのかは分からないが、山崎は興奮している。
「山崎、本題に入ろうか。何が大変か簡潔に伝えてくれ」
先ずは自分が出る必要があるか。そこを確認したかった。
山崎は深刻な顔をして、口を開いた。
「このサイト、ちょっとした裏サイトで、オカルト好きや自称かもしれないけど霊能力者が、よく見る趣味の掲示板みたいなもんなんだ。
その名前の通り、日本各地にあるオカルトスポットを回って、ネットにアップや中継したりすることをしていたんだ」
わざわざ自分から危険な目に会いに行くみたいなことを、よくもまぁするもんだ。
「そんな中で、ここが古くから伝わる怪しい場所ってのが掲示板にアップされてね。
その場所に行った人達から途中で返事がなくなったんだ。
釣りかとも思ったけど、その人達は掲示板の常連だからおかしいと思って、直接連絡をしてみたんだ……。
そしたら帰って来てないって……」
返事もなくなり、帰ってきていないなら道に迷った線もある。何にせよ、先ずは捜索隊だろう。
「で、次に掲示板仲間で捜索隊を結成したんだ。
でも誰も帰って来なかった。入山届がいる山でもないし、そんなに深い山じゃないはずなんだ。
でも家族は誰も警察に連絡してないようなんだ……」
山崎の言葉が正しければ、それはおかしい。普通は家族がいなくなれば、誰かが捜索願を出すだろう。
それに場所も分かっているなら素人の捜索隊などではなく、山を知ったプロの人たちに捜索してもらうのが一番だ。
「んでね。掲示板にこんな書き込みがされたんだ」
山崎がスクロールすると、失踪者の兄を名乗る男が弟を探してください。と電話番号付きで書いてある。
「こんな掲示板に電話番号を載せること事態、どうかと思ったんだけど……。
帰って来なかった人の中には仲の良い友人もいてさ、電話したんだ」
山崎の言う通り、ネットに個人の電話番号を載せるなんて、普通はしない。
「そしたら書き込んだ人、本人が電話に出たんだ。
そして、どうしても探して欲しい、謝礼も出す、何人分でも交通費や宿泊費は出すって言われた。
それで僕達オカルト好きな仲間で、助けに行こうって話になったんだけどさ……」
「ま、誰かが当日にバックれたってオチか」
趣味で危険を冒すのは分からんではないが、危険と分かった場所に入るのは別だ。
「守屋氏~、流石は拙者の見込んだ男でござる~」
何を見込まれたのやらしらんが、山崎が大げさに言ってきた。
「で、おそらく依頼の話だろ? その捜索に参加して欲しいってい、」
「守屋氏! マジ神! 拙者は感動を抑えられぬ~」
誰もまだ行くとは言っていないのに、山崎はテンションが上がっている。
「まあ、謝礼しだいかな。安い値段で動く気にはならないぞ」
まだ相手が見えない。怪異なら、そこまで取る気はないが……。
「1人頭15万円でござる。あと、弟さんのコレクションもつけてくれるそうですぞ」
少し考える。悪い額ではないが何日拘束されるかもしれないし、慣れぬ山となると……。
「コレクションの中には…守屋氏の大好きな駆動騎士ウォードの初期設定資料がありますぞ……」
「山崎、行くぞ!さっさと行く準備をしろ」
そんなレア物、こっちが15万出して買いたいぐらいだ。関係者の少数しか持ってないものを……。
・ ・ ・
一応、ある程度の依頼に対応できるように、登山用の道具等も事務所に置いてある。
靴だけは山登りに適した、黒革の登山靴に変えたが、服自体はそのままだ。
そこら辺に村があるような所とはいっても、一応防寒対策としてレインコートは着て行こう。
場所は九州。ちょうど県の境目にあたるが、地図からすると近くに村がいくつかある。
「守屋氏~、飛行機に乗り遅れてしまいますぞぉ~」
大声で山崎が叫んでいる。ギリギリの時刻で依頼してきて言うのもどうなのか。
「他に行くやつは? お前一人じゃないんだろ?」
2人っきりなんて嫌だ。思ったことを山崎に聞いてみた。
「あと2人いるでござるよ。もう先に行ってしまって、あっちの飛行場で待機しているはずでござる」
2人か。山崎ほどでなければ良いのだが……。
飛行機の中で駆動騎士ウォードの話を、山崎と新シリーズがどうだ等とヒートアップしたオタク談義をした。
他の乗客の人、うるさくてごめんなさい。
飛行場のロビーについて、愕然とした。合流した2人を見たからだ。
1人はテーマパークから出てきたような浪人風な侍。
もう1人はコートやチューリップハットにアルミを巻きつけて全身光り輝いている男であった。
あまりの光景に、今後のイメージが全くできない。
こんなやつらで探しに行くのかと思うと、頭が石になったように重い。
レンタカーを借りて、目的地に近い小さな町に向かう。
俺が運転し、民宿を山崎に予約させながら、自己紹介を行うことにした。
「え~っと、初対面ですので、自己紹介しましょうか。
私は守屋 祐といいます。一応、その道に関しての心得はあります」
とりあえず無難に言っておく。変に期待されるのも困る。
侍が軽く鼻で笑った。バックミラー越しにこちらを見ている
「とても、この世界では通用しそうにはないが……。まあいい、俺は一刀斎だ」
これは参った。あっち系の人だ。名前もハンドルネームか?
キラキラ眩しい男が話しを続けるような形で言う。
「いや…バカにできないぞ、一刀斎。こいつの出で立ち…黒の執行者やもしれん……。
すまない、悪気はないのだ。私の名はセイバー…と呼んでいただこう」
正直、呼びたくない。セイバーって救世主って意味もあったような?
なら、とりあえずその眩しいものから救ってもらいたいと思った。
夜のとばりが下りたころ、やっと目的地についた。
運転は好きだが、こんなに苦痛に感じた運転はなかった。
山崎は水を得た魚のごとくテンションMAXになっている。
3人のよく分からないオタク談義を耳にすると、このまま消えてしまいたくなった。
「とりあえず明日、朝一から消えたと思われる地点の付近に行きましょう。車があるはずなので、それを探しましょう」
この言葉に一同異論はないようだ。まずは手掛かり探し。
それぐらいは分かっているようだ。
その後はまた意味の分からない話しをずっと聞かされる。
拷問の時間が早く過ぎることを願うばかりだ。…気づくと、携帯が圏外になっていた。
階下にいる従業員に聞いてみると、ちょっと前から圏外になったそうだ。
いざというときに幸に連絡を取れないのは少々まずい……。
山崎のいびきに悩まされたが、何とか寝れた。
山の中は暗くなると視界が急激に悪くなるので、朝も早々に出発した。
「守屋氏、この大通りからもうちょっとしたら脇道が見えるでござる。
そこに入って道なりに進んでいけば、皆が行った所に行けるでござるよ」
この3人の足になっていると考えると、少し腹が立つ。
まあ、危険を承知で助けに来た気持ちがあるということは、悪いやつ等ではないのだろう。
車が1台通るのがやっとの道。しかも途中から舗装されてないと来たもんだ。
できるだけ揺らさないように運転したつもりだが、途中で何回も休憩する羽目になった。
「山崎どうだ、後どのくらいか分かるか? もう一時間以上この山道だぞ」
顔が土気色になっている山崎に聞くのも酷だが、残りの2人と話すのは……。
「おそらく…もう着くはず……。確か、道がなくなっているって書いてたし」
道がなくなっているなら、車もそこにある可能性が高い。
あとはそこから、どこに向かうのか。行ってはいけない場所か……。
休憩を切り上げ目的地を目指すことにした。
不服そうなのもいたが、時間は待ってくれないのだ。
遭難しているとしたら、探すのは時間との勝負なのだから……。
・ ・ ・
運転していても気持ちが悪くなりそうな悪路を走り続けていた。
先に進むと本当に道がなくなってきた。獣道と言えばいいような道とは言えない道だ。
普通のレンタカーで走破するのも厳しいか、と思ったとき前方に車が見えた。
山崎が車を降りて確認しに行く。どうやら捜索隊の車らしい。
ここに車があるということは、ここからは徒歩で行くことになる。
トランクスペースから荷物を各自持ち出す。
一刀斎が刀を持っている。その視線に気づいたのか、刀を抜き見せながら言う。
「これは鬼切丸。もし悪霊の類が現れても、一太刀よ……」
鬼切り刃という魔除けのために刃の一部を切れなくした刀はあるが、多分それは模造刀だ。
少し大きな獣道を歩いていくと、遠くに車が見えた。
とりあえずは両方とも同じポイントから移動したことが分かった。
山崎たちに確認してもらったところ、この車が最初に、行ってはいけない場所、に向かった人の物だと言った。
さて、ここからは彼らの記憶が頼りだ。
最初に行った者と、捜索隊は写真をネットにアップしながら、移動していたとのことだ。
しかし、今はなぜ圏外なのだろうか。元々圏外なら分かるが……。
4人で前に来た者達の痕跡を探しながら進んで行く。
携帯の電波圏外の件について気になったので、山崎に確認してみることにした。
「山崎、変だと思わないか? このご時世、多少の山奥でも電波は通じるだろ? だがここは圏外だ。
しかも、前に来たやつらは実況っていうのか? リアルタイムで報告してたんだろ?」
そのような事は電波状況が良くないと難しいのでは?
山崎も悩んだ顔をしながら、答えてきた。
「確かに変だと思う。基地局に何らかの異常があればありえないことも……。
でも、全員ダメなんだよね……。キャリアが違うのに……」
不安にさせてしまったか? だが、これは前に来たやつらとは違う状況ということだ。
そんな話しをしていると、後ろから声が聞こえてきた。
2人組で山登り用の格好をしている。
1人は女性で、もう1人は男性。しかもデッカイカメラを持っている。
「すいません、私達は番組企画をしている会社の者でして。
ネットで噂になっている、行ってはいけない場所を探しているんですが、あなた方もですか?」
そうであると答え、自己紹介を山崎と済ませる。先に行って探している2人には個別にしてもらおう。
思い出したかのように、2人が名刺を出してきた。
白石 美香と大鳥 賢介。
あまり予算がないのであろう。2人でこんな所まで来るなんて……。
一刀斎とセイバーがこちらに戻ってきた。
2人増えたことに驚いてるようだった。
自己紹介をしていたが普通に敬語だった。
まさかの同類扱いをされていたことに気付き脱力する。
しかし、いい知らせを持ってきてくれた。ネット画像で見た看板を見つけたと。
「さっそく行きましょう。大きな手掛かりです」
そう言うと白石が、待って、と言ってきた。
何をするかと思えばカメラを撮り始めた。
ドキュメンタリー風ホラーでも作りたいのか分からないが、こちらは人を探している。悠長にしている暇はない。
これからは、どうやらカメラを回しながら捜索するらしい。
何とも大変なことだと、気の毒に思う。
看板の所に到着した。文字がかすれて所々が読めない。
山崎が興奮気味に看板を見ながら言った。
「これって、あれだよね? ここから先は日本国憲法は通用しません。ってやつ。
都市伝説に出てくるあれだよ」
山崎の言葉に唸るしかない。そう読むことができるのか?
白石と大鳥はそれを撮りながら、山崎が言ったようなことを、そのままカメラに言っているようだった。
とりあえず、この先に行くしかないのか。ネットの実況もここで終わっているそうだ。
全員に進もうと伝えて先に進む。……今、何かを感じた。
悪い気のようなものではない感じだったが。では何を感じたのか……。
他の皆は特に気にせず歩いて行く。俺だけ感じたのか?
とにかく先に進むしかない。何かあれば、その時はその時だ。
木が少なくなっていき森が開けると……穏やかな農村の風景が広がっていた。
古めかしい木造でトタンの屋根の家、優しい音を奏でる川、遠くにお寺のような物が見える。
「山崎…道を間違えたか? ていうか、そもそも看板からは一本道だったよな?」
目の前に広がる光景に山崎だけでなく、他の皆も狐につままれた様な顔をしていた。
この光景からではとてもじゃないが、行ってはいけない場所とは……。
少し先の畑で何かしている老婆が見えた。
一刀斎がここはそれがしに、と呟くと老婆に声を掛けに行った。
一刀斎が老婆に声を掛けたのだろう。老婆がこちら側に振り向いた。
「ひいぃぃあぁぁぁ!」
一刀斎が急に声を上げて尻餅をついた。
何事かと思い駆け出すと遠目からでも分かる。目が赤色に染まっているのだ……。
老婆がゆっくりと近づき手に持っていた鎌を、一刀斎に目がけて振り下ろした。
「おばあさん! ごめんなさい!」
一刀斎に鎌が当たる寸前に横腹に向けて蹴りを入れた。
蹴られた老婆は転がって畑に落ちた。
お年寄りにやることではないが仕方がない。
そう思っていると蹴った時に違和感を感じた気がした。この違和感は……?
思い出そうとしている時、何人もの悲鳴が聞こえてきた。
どこに隠れていたのか。男女問わず、老人達がこちらを囲み迫って来ていた。
ただ、人とは思えない。だからといって怪異とも違う……。では、何か……。
群青百足を出すか? 極力、薄くして…だが力が強すぎる。
でも老人だ。もし当たり所が悪ければ、殺してしまうかもしれない……。
ええい、ままよ! 色無百足で1人ずつ気絶させるしかない。
色無百足はもっとも弱いが、その名の通り霊力を持った人間にも見えづらい百足だ。
壁をすり抜けて先の光景を見ることや、暗闇でも見通すことができるので探偵業の際に活用している。
ただ、怪異と戦うほどの攻撃能力はない。
が、人間相手ならお釣りが来る力はある。その名を呟き、手の甲から呼び出す。
細長い色無百足をムチのように振い老人たちを退け、拳を突きだす力に乗せて突き飛ばす。
近づいてくる者、1人1人を着実に倒していくが、やはり当てた際の感触がおかしい。
確実に撃退しているはずだが、それを上回る数の老人達が次々と集まってくる。
後ろの皆が逃げて、こちらに集まってくる。
「守屋氏~、もうダメかも~……」
泣き出しそうな顔と声で、山崎がしがみついてきた。
このままじゃ、まずい……。
数は減らないし、一刀斎もセイバーも役に立たない。
撮影組ももちろんだ。俺一人では荷が重い……。
祝福の手も霊や怪異でないと効果がない。
人間のようだが、人間ではない……? そうか、こいつ等は。
追い詰められたこの状況で、こいつ等の正体に気付いた。
俺も身近に使用している、使役している者達……。




