9 ぱんつをクンカクンカしながらアッー!
『ぱんつをクンカクンカしながらアッー!』
ぱんつである。その日は、朝からパンツであった。
「--お気に入りの黒いパンツがない。」
高宮マドカは、音もなくルームメイトの背後に忍び寄ると、その首に腕をまわした。このまま手のひらで横に押せば、細いルームメイトの首など、ゴキリ。--壊し方を知っている者にとって、人体は、もろい。壊し方を知らなくても、トラックに引かれたりすると危ないので、道を渡るときは気をつけよう。
ーーともかく。
マドカに密着されたまま(ちょっと嬉しい)、ルームメイトである小柄な男子は、困惑気味に返答した。
「いくらマドカちゃんのぱんつが欲しくても、ボクは無断で取ったりしない。信仰はないけど、代わりに物理IBの教科書に誓うよ」
そんなもんに誓われても困る。ともかくも、マドカは疑いの目でシロを見下ろした。
「・・・昨日は風呂をのぞかれた」
「わざとだよ。ゴメン」
「おとといは、朝起きたら、なぜか隣に貴様が寝ていた」
「故意だけど、何もしてません。」
シロの背中に、硬いモノの感触。ーー例のシグザウエルP220である。ピンク色である。キティちゃんのストラップ付きである。撃つと火薬が飛び散る。調べると硝煙反応が出る。犯人はマドカである。
「--ぱんつも、貴様の仕業でないと、どうしたら証明できるだろうな?」
ふ、と目を閉じるシロ。周囲の声を”聴く”。
「--隣の先輩のぱんつもなくなったって言ってるよ。下の階の一年生も、ね」
「なに?」
と、そこで、彼らの部屋のドアが唐突に開く。
熱血スポーツマンこと葉山ゆうきである。
「お前だな高宮!! おれの紐パンをどこにやった!! あれは、初めて付き合ったバスケット・ボール部の先輩にもらった思い出のぱんつなんだ!!」
「紐パンなんかはいてたのか貴様ッ」
驚愕のあまりに叫ぶマドカ。
「先輩の趣味だったッ。第一、おれが何をはいていようと高宮に見せるつもりはないんだから問題ない!」
「--あぁぁああ、知りたくない。誰がどんな下着をはいているかなんて、知りたくない。ボクはちょっと寮から出て三日くらい山にこもるよ。じゃあねマドカちゃん、葉山」
リストラされたサラリーマンみたいな表情で荷物をまとめ始める読心能力者、白野陣。
◆
「・・・とにかく」
意見は一致を見た。
「何者かが寮に侵入し、学生のぱんつをひとつ残らずとっていったのは確からしい」
葉山が言い、マドカが頷く。
「許せんな」
「ぱんつの話題はもういいよ・・・」
げんなり、とした顔でうめくシロ。
「数学教師の狩野が怪しいな」
「先生のぱんつも全滅らしいよ」
と、シロ。
仕方なく、生徒たちはバスタオル一枚で登校した。
教室を埋めるバスタオル姿の男子学生|(美形)たちーー。女子が見たら、鼻血を吹いて卒倒である。輸血が必要である。
教師陣は全裸だった。
一糸まとわぬ姿である。生まれたままの姿である。ヌーディストが見たら、ついに我々の主張がマジョリティ|(多数派)になったと、歓喜するであろうことは想像に難くない。想像したくない。
「あ~、皆。実に言いにくいことなんだが・・・」
朝のホームルームである。1-A担任の鈴村は、恐縮したように縮こまらせ|(何をとは記すまい)ながら、言った。
「バスタオルの着用は、校則で禁止されている。今すぐ、脱ぎなさい」
脱いだ。
ーー何人かが鼻血を吹きながら倒れ、待機していた保健委員|(もちろん全裸)に運ばれていった。
保健委員は、二人一組で担架を担いで保健室に到着した。別のクラスでも同じことが起きているらしく、長蛇の列|(全裸)ができている。
「先生ッ! 急患です! 今すぐ輸血を!!」
保健医も全裸である。ーーただし、それでも純白の白衣をまとっていた。足元にゆれるスネ毛が、なんともセクスィーである。何名かの保健委員がやられた。床は鼻血によって血の海ができ、廊下は、負傷者たちで溢れかえっている。--ここは戦場だ。
◆
「--くっ、高宮、お前・・・!!」
うめく葉山。すでに第一時限が終わろうとする時刻。マドカは、限りある高校生活を堪能していた。具体的には、自習だ。--自由時間だ。
「ダウト!」
「そう言うと思った。」
シロが舌を出し、カードをめくる。ダウト|(嘘)ではなかった。
「・・・ちっ。次はわたしの番だな・・・」
二人でダウト。二人で七並べ。二人でポーカー。時間は、過ぎていく。
「なぜ平気なんだ・・・! イケメン1000人が全裸なんだぞ!? BLゲー・キャラとしては、鼻血を吹いて卒倒するところのはず・・・!」
うめく葉山。鼻を押さえているが、血がどくどくと出ている。このままでは、命に関わる。
「興味がない。」
言い放つマドカ。
「同じく。」
頷くシロ。
そして、延々と続く二人きりの不毛なババ抜き。
◆
そして、マドカは目を覚ます。不毛なユメだった。もう二度と、見たくない。
そして、(貴重品は、いつでも国外逃亡できるよう、スーツ・ケースにまとめてある)カバンの中に手を突っ込む。
--お気に入りの黒いぱんつがない。
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