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姉と妹が国民的女優ですが、俺は機械をいじっていたい  作者: よんまるよん
第二部「世界が広がっている」

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第24話「それぞれの現場」

 四月の撮影所は、朝から人が多い。

 機材車が並び、スタッフが走り、誰かが誰かに指示を出している。その隙間を縫うように、(はな)は更衣室から外へ出た。

 今日がクランクイン。

 映画『春を告げる鐘』。主演、(ひいらぎ)(はな)

 言葉にすると重い。でも朝の空気は軽くて、花粉と機材油の混じった変な匂いがして、なんか普通の日みたいだな、とぼんやり思う。

「華ちゃん、準備できてる?」

 篠原(しのはら)監督が声をかけてきた。三十代半ば、穏やかな顔をした男性。「本番前は緊張していいから」と最初の打ち合わせで言った人だ。

「できてます」

「よし。じゃあ、まず顔合わせから」

 メインキャスト全員が集まると聞いていた。華は、台本のページを無意識に繰る。葵というキャラのことを、頭の中で何度もなぞってきた。でもまだどこか、自分の手に馴染んでいない感じがする。

 なるようになる。たぶん。


 撮影所の会議室に、キャストが集まっていく。

 蒼真(そうま)は窓際に立って台本を読んでいた。水城(みずき)蒼真(そうま)、二十一歳。(さく)役。少し前に話したことがあって、誠実そうな人だと思っている。

 蒼真が顔を上げた。華と目が合う。

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 二人同時に言って、少し間があった。それから蒼真が「あ、かぶった」と笑った。笑い方が素直だった。台本に戻りながらも、もう一度だけこちらを見る。気づいていないふりをしたが、華には見えていた。

 (りん)は既にスタッフと話していた。こういう場での凛は華よりずっと落ち着いていて、プロ、という言葉がそのまま歩いているみたいだ。

 それから——部屋に入ってきた人物を見て、空気が少し変わった。

 本人は何もしていない。ただ入ってきただけだ。でもスタッフが二、三人、自然と目を向ける。

 宮本(みやもと)奈々(なな)

 黒髪のショートボブ、細身、パーカーの上に薄手のジャケット。普通の格好だ。完全に普通の格好なのに、どこかで見た気がする、という感じではなく——確かにいる、という感じがある。

「よろしくお願いします」

 奈々は、別に大きな声でもなく言った。

 でも部屋中に届いていた。

 華は、少し止まる。

 0歳から二十年やってきた人の空気、というのはこういうものか。


 顔合わせが終わって、最初の撮影は午後から。

 午前中は準備とリハーサルで、昼に一度休憩が入った。

 華が弁当を持って廊下のベンチに座ると、隣に誰かが来た。

「華ちゃん、一緒に食べてもいい?」

 奈々だった。手にコンビニのおにぎりが二個。

「もちろんです」

 奈々は隣に腰を下ろして、おにぎりの一個を口の端に挟んだまま台本をめくり始めた。

 手が空いていない状態で台本を開く人を初めて見た。

「……大丈夫ですか」

「なにが?」

「おにぎり、落ちそうで」

「二十年落としたことないから」

 言いながら、台本にメモを入れている。字が細かい。

「華ちゃんってさ、感覚でやってるタイプ?」

 いきなりの質問に、一瞬考えた。

「そうです、たぶん」

「ははっ」

 奈々が笑った。おにぎりが揺れたが、落ちなかった。

「分かった。私と逆だ」

「奈々さんは計算派ですか」

「熟成派、かな。長くやってると、感情が染みついていくんだよね。感覚でやってるつもりでも、実は二十年分の記憶から引き出してる」

 なるほど、と思った。なるほど、というか、腑に落ちる、という感じだ。

「華ちゃんの演技、正直すごいと思う。台本の中の人が、ちゃんとそこにいる感じ」

「……ありがとうございます」

「お世辞じゃないよ。同い年で同じ現場に立てて、正直ちょっと嬉しい」

 奈々はおにぎりをもう一口かじって、台本のページを跳ばした。

「プレッシャーにはならないでね、念のため言うけど」

「……少しなってます、正直に言うと」

「それでいいよ。ちょっとのプレッシャーは栄養だから」

 二人で少し笑った。

 奈々と話していると、何かが解れていくような気がする。二十年のキャリアを積んだ人なのに、先輩然としたところが一ミリもない。そのことが、華には不思議でもあり、少し救いでもあった。


 午後の撮影が始まった。

 最初のシーンは華と奈々のやりとりが入る場面で、篠原監督は「まずやってみて」と言っただけだった。

 カメラが回る。

 華は(あおい)になる。葵の、まだ何かに気づいていない、春の午後の顔で立つ。

 茉莉(まり)が来る。

 奈々が来る。

 奈々が笑う——そのとき、華は内心で、あ、と思った。

 計算じゃない。でも感覚でもない。もっと深いところから来ているものが、奈々の笑いの中にある。積み重ねた何かが、自然に滲み出ている。

 圧倒された。

 でも不思議なことに、萎縮はしなかった。

 葵だったら、茉莉のこの笑いを、どう受け取るか。

 華は葵として、奈々の茉莉を受け取った。

「カット」

 篠原監督の声。

「いいですね。もう一回、同じでいいです」

 奈々が小さく笑って、華を見た。

 その目が「やるじゃん」と言っていた気がした。気がしただけかもしれないが、華は少し背筋を伸ばした。

 少し離れた場所で、蒼真は自分の出番を待ちながらそれを見ていた。

 華の演技は、止まらない。計算で追えるものじゃないのはリハーサルから分かっていた。でも、ああやって奈々の演技を受け取る瞬間——葵がちゃんとそこにいた。

 蒼真は台本に目を落とした。朔として、あの葵と向き合うシーンがある。ちゃんとやらないと、と思った。それだけのはずだったが、なぜかもう一度顔を上げて、華の方を見た。


 一方、撮影所の東棟、廊下の突き当たり。

 そこは非公式の喫煙スポットだった。外に面した窓が開いていて、換気扇の音がする。スタッフが数人、煙草を持って出入りしている。

 蒼真は煙草の煙を浴びていた。

 吸っているのは奈々だった。

 昼休みが終わって廊下に出たら、奈々が柱の横でショートピースに火をつけていて、蒼真はそのほぼ真横に出てしまった。

「あ、ごめん。煙、大丈夫?」

「大丈夫です」

 秒で返した。

 大丈夫じゃなかった。煙が苦手だ。でも咄嗟に出た言葉だった。

「本当に?」

「……まあ」

「顔が嘘をついてるよ」

 奈々は少し笑って、向きを変えた。煙が蒼真から外れる方向に。

「気を遣わせてすみません」

「いや、私が悪い。喫煙場所、ここじゃなかった」

 奈々はショートピースをひとくち吸って、煙を横向きに吐いた。

「初日の感想は?」

「緊張しました」

「正直だね」

「うそついても仕方ないんで」

「ははっ」

 奈々がまた笑う。大きな笑い方だ。テレビで見る奈々とは全然違う顔。

「華ちゃんと絡むシーン、楽しみだね」

「……はい」

 蒼真の声が、わずかに変わった。

「午前のリハ、華ちゃんの受け方に合わせやすかったでしょ」

「……そうですね。なんか、自然に入ってきて」

「そういうことだよ」

 奈々はショートピースを短くなるまで吸って、携帯灰皿に押し込んだ。

 蒼真が「そういうことって?」と聞こうとした気配があった。でも言わなかった。

 奈々は紫煙の向こうから蒼真を見て、何も言わなかった。ただ、目が少し細くなった。

 分かりやすいな、と思ったが、声には出さなかった。


 同じ時間帯、柊家。

 ロバートからの連絡が来たのは午前中だった。「CEOが来日しています。娘も一緒です。今日、ご挨拶に伺ってもよいですか」。(りょう)は「どうぞ」と返した。特に断る理由もなかった。

 午後になって、ロバートとデイビッド、それからもう一人が玄関に現れた。

 金髪、長身、明るい笑顔。

「初めまして。アリア・マクナマラです」

 日本語のアクセントが少し変だった。でも流暢ではあった。

 遼は「どうも」と言って三人をリビングに通した。デイビッドとロバートはソファに座って仕事の話を始めた。アリアはその隣に座るかと思いきや、遼の作業机の方へ歩いてきた。

「What circuit is this?」(これ、何の回路ですか?)

「Test board. For current regulation——」(テスト用の基板です。電流の——)

「Wait——is English okay?」(ちょっと待って、英語で大丈夫ですか?)

「Fine.」(大丈夫です)

「Oh good, then I can ask more.」(よかった、じゃあもっと聞ける!)

 アリア・マクナマラ、二十歳。TechVision CEOの娘。

 本日の訪問理由、「父に同行した」。

 しかしデイビッドとロバートはソファで書類を広げて話し込んでいる。アリアはその輪に入らず、気づいたら遼の作業机の前に立って、作業内容を矢継ぎ早に質問し続けていた。

 カリフォルニア英語に東京で学んだ日本語のアクセントが乗っかって、独特のリズムになっていた。

「……」

 遼は質問を受けながら、手を止めていない。説明しながら作業を続けている。邪魔だとは思っていないらしかった。技術の話ができる相手を前にすると、遼はこうなる。


 作業机の前。

 アリアは椅子を引き寄せて、ほぼ遼の隣に座っていた。作業の邪魔にならないギリギリの距離、という判定を自分でしているらしかった。

 遼にとってその距離が近いかどうか、本人は気にしていない様子だった。

「This part, what does it do?」(この部品、何をするんですか?)

「Current regulation. I set the threshold here——」(電流の制御です。ここで閾値を設定して——)

「More detail!」(もっと詳しく!)

「The threshold for current regulation. If this component fails, the whole circuit shuts down as a safety measure.」(電流制御の閾値。この部品が壊れたら、安全のために回路全体がシャットダウンします)

「Why not use a redundant system?」(なぜ冗長系を使わないんですか?)

 遼の手が止まった。少し考えている顔。

「For this application, a clean shutdown is safer than trying to recover mid-process. Redundancy would complicate the failure mode.」(この用途では、処理の途中で回復しようとするより、クリーンにシャットダウンする方が安全です。冗長化すると障害モードが複雑になる)

「……That makes sense.」(……なるほど)

 アリアは静かになった。考えているのがわかった。

「You thought about this really carefully.」(すごく丁寧に考えたんですね)

「It's standard, I think.」(普通だと思いますが)

「It's not standard!」(普通じゃない!)

 遼は少し首を傾けた。そうかな、という顔。

 アリアは続けた。

「Back home, most engineers would add redundancy as a default. But you chose simplicity because the failure mode is cleaner. That's not default thinking.」(アメリカだと、ほとんどのエンジニアはとりあえず冗長化します。でもあなたは障害モードがきれいだからシンプルを選んだ。それはデフォルトの発想じゃない)

「……」

「Why do you keep saying 'futsuu'?」(なんで「普通」って言い続けるんですか?)

 遼は少し考えた。

「Because it feels that way.」(そう感じるから)

 アリアは遼を見た。そういう答えが返ってくる人に、あまり会ったことがない。スタンフォードでもMITでも、みんなもう少し自分の見解を主張しながら話す。

「You should stop saying that.」(そう言うのはやめたほうがいい)

「Why?」(なんで)

「That's not a compliment to yourself. And it confuses people who know how good you are.」(それは自分への褒め言葉じゃない。それに、あなたがどれだけすごいか知ってる人が困惑する)

「I see.」(そうですか)

「Yes.」(そうです)

 遼はまた手を動かし始めた。

 アリアはしばらくその手元を見ていた。ハンダごてが動く。煙が上がる。基板に細い線が引かれていく。

「Can I come back tomorrow?」(明日もきていいですか?)

「If I'm working.」(仕事があれば)

「You'll be working?」(仕事、してますか?)

「Probably.」(してると思います)

「Then I'll come.」(じゃあ来ます)

「……Why?」(……なんで)

「Because it's fun.」(楽しいから)

 遼は何も言わなかった。承諾でも拒絶でもない沈黙。それはたぶん、遼にとっての「そうですか」と同じ意味だと、アリアはなんとなく感じた。


 ソファの方で、ロバートは書類を膝に乗せながら、時々こちらに視線をやっていた。

 (娘さんの管理もCTOの仕事なのでしょうか……)

 デイビッドに聞いたら「何が?」と返ってきそうな問いだった。

 当のデイビッドは書類から目を上げて、時々遼とアリアの方を見る。それだけで、何もしない。

 ロバートは小さく、もう一度ため息をついた。


 夕方、撮影所。

 その日のクランクイン初日の撮影が終わって、キャストが解散に向かいかけていた。

 凛は篠原監督と少し話し込んでいた。撮影のフィードバック。いつもなら流れるようにメモを取って帰る場面だが、今日は少し違う。監督の話を聞きながら、凛の表情が微妙に固い。

「柊さん、今日の三場面目のシーン」

「はい」

「あれ、計算してますよね」

 凛は少し止まった。

「……はい」

「分かります。上手いんです。でも——もう一段だけ、計算を外してほしい場面がある」

「具体的には、どのあたりでしょうか」

「柚が葵を見る場面です。柚は葵に何かを伝えたいけど、言えない。その"言えなさ"を、もう少しだけ体から出してほしい」

「……やってみます」

「頼みます」

 篠原監督は穏やかに笑って、次のスタッフに向かった。

 凛は一人で少し立っていた。

 安全圏、という言葉が頭をかすめた。

 別の誰かも最近、似たようなことを言っていた気がする。

 ——上手い。でも安全圏にいる。

 神崎の声。

 凛は台本をカバンに入れた。今日のところは、考えるより帰る方が先だ。


 その頃、奈々は楽屋でショートピースの二本目に火をつけていた。

 一日の最後の一本、と決めている。

 今日は良い初日だった。篠原監督の現場はやりやすいし、華との相性も想像通りだった。

 蒼真のことが少し気になった。

 華への視線、初日で気づいてしまった。分かりやすい。でも不思議と嫌みがない。まっすぐで、真剣だ。

 煙を吐く。

 ああいう若い子を見ると、少し羨ましいな、とは思う。まだ「好きかもしれない」の段階にいられるんだから。

 奈々自身は——いまのところ、そういう人がいない。いないというか、仕事が楽しすぎて他に気が向かないのかもしれない。

 おにぎりを口にくわえたまま台本を開く、という行為を今日も自然にやっていた。二十年で身についた習性というのはなかなか抜けない。

 華が「大丈夫ですか」と心配そうに聞いてきたのが、少し面白かった。あの子は素直だ。思ったことが顔に出る。それが演技に出たとき、ちゃんとした力になる。

 明日も楽しみだな、と奈々は思いながら、煙を細く吐いた。


 柊家のエントランスで、アリアは父と並んだ。

 デイビッドは「How was it?」(どうだった?)とだけ聞いた。

「Interesting.」(面白かった)

「I see.」

 それ以上何も言わなかった。車が来て、二人で乗り込む。

 後部座席で、アリアはスマートフォンを開いた。

 遼の名刺を撮影していた写真を確認する。

 連絡先を交換していなかった。聞き損ねた。

 明日、聞く。

 それだけ考えて、アリアはスマートフォンを閉じた。


 ホテルの部屋に戻ってから、ロバートはデイビッドにメッセージを送った。

「Aria seems to have enjoyed the visit. She spoke with Ryo for quite some time.」(アリアは訪問を楽しんだようです。遼とかなり長い時間話していました)

 返信は一言だった。

「I know.」(知っている)

 ロバートは画面を見て、小さく目を閉じた。

 知っていて何も言わないのがデイビッドという人間だ。二十年一緒に仕事をしていても、このCEOの考えていることは時々わからない。

 仕事の話が長引いて、気づけば夕方になっていた。アリアは遼の作業机の前からほとんど動かなかった。最終的に「そろそろ」とロバートが声をかけるまで、本人は帰る気配がなかった。

 今夜、積んだままの新刊を読もう。技術の話を延々と聞いた後でも、これだけ現実逃避の気力が残っているのは健全な証拠だ、と自分に言い聞かせながら。


 柊家、夜。

 リビングに三人が揃っていた。

 夕食の後片付けが終わって、凛はソファで台本を開いている。華はテレビを見ながら弁当の残りを食べている。遼は机に戻っていた。

「初日、どうだった」

 凛が言った。華に向かって。

「よかったよ。奈々さんがすごくて、びっくりした」

「宮本奈々、私も一回一緒の現場になったことある」

「お姉ちゃんも?」

「うん。あの人の演技、説明が難しい。理屈じゃないんだよね」

「そう! 理屈じゃないのに、ちゃんとそこにある感じ」

「熟成、って本人は言ってた」

「私に教えてくれた! それ!」

 凛が少し笑った。

「華ちゃんはどうだった、初日」

「……少し圧倒された」

「正直ね」

「でも、葵として受け取れた、と思う。たぶん」

「よかった」

 遼の手が動いている音がしている。凛は台本に目を戻した。

 計算を外す、という言葉が、まだどこかに残っている。今夜考えても答えは出ないかもしれないが、考えないわけにもいかない。

 華が「ねえ、今日ね」と言いかけた。

「なに」

「帰ってきたとき、リビングに知らない人がいてびっくりした」

「ロバートさんと、CEOと、CEOの娘さん」

「CEOの娘!? 金髪の人?」

「そうです」

 凛が台本から顔を上げた。

「アメリカ人?」

「はい」

「何しに?」

「技術の話をしたいって」

「技術の話…」華は少し考えた。「面白い人?」

「普通に話せる人でした」

 凛は台本から目を上げて、遼の背中を見た。

「遼」

「なに」

「その人、何歳?」

「二十歳だと思います。華と同じくらい」

「……そう」

 凛は台本に戻った。

 華はテレビに顔を向けたが、少しだけ目が画面ではない方向を向いていた。

 廊下の向こう、遼の部屋からかすかにキーボードの音がする。


 その夜、遼の部屋。

 スマートフォンに通知が来た。

 ロバートからのメールだった。

「Ryo, Aria mentioned she'd like to continue the conversation tomorrow. I hope that's all right. —Robert」(遼さん、アリアが明日も話を続けたいと言っています。問題なければよいのですが。——ロバート)

 遼は画面を見て、少し考えた。

 問題があるかどうか、よく分からなかった。

 技術の話ができる相手は嫌いではない。邪魔にもならなかった。ただ、毎日来られるのが通常運転なのかどうかは、まだ判断がつかない。

 遼は返信を書いた。

「問題ないです。仕事してます。——遼」

 送信して、画面を閉じる。

 プログラムのウィンドウに戻った。今夜中に片付けたい箇所がまだある。

 春の夜。

 渋谷から少し外れた柊家に、窓の灯りがひとつ。

 映画の初日を終えた二人は、それぞれの部屋で何かを考えている。

 遼はただ、プログラムを書いていた。

 明日も普通の日だろう、と思いながら。

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初日を終えた二人は……でいいのでは? 「姉は」がついてると二人とも姉になっちゃうよ
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