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姉と妹が国民的女優ですが、俺は機械をいじっていたい  作者: よんまるよん
第一部「機械をいじっていたい、それだけなのに」

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第8話「異国の休日」

 木曜日の午前。

 都内の高級ホテル、スイートルーム。

 TechVision SystemsのCTO、ロバート・チェンは窓の外を見つめていた。

 東京の街並み。

 高層ビル、そして遠くに見える東京タワー。

「Beautiful city...」(美しい街だ……)

 ロバートは小さく呟いた。

 彼は四十代半ば、アメリカ育ちの中国系アメリカ人。

 MITで博士号を取得し、シリコンバレーで頭角を現した。

 世界的企業のCTOとして、年収は億を超える。

 だが──

 今、彼の心は少年のように高揚していた。

「Finally... I'm in Japan...」(ついに……日本に……)

 ロバートは、誰にも言えない秘密があった。

 それは──

 日本のアニメとマンガへの深い愛。

 そして、コスプレへの情熱。


 午前10時。

 ロバートは部下たちと会議室にいた。

「So, what's our next move with Hiiragi?」(で、柊に対する次の手は?)

 部下の一人が聞く。

「We need to approach him differently. Money doesn't motivate him.」(違うアプローチが必要だ。お金は彼を動機づけない)

「Then what does?」(では何が?)

「Freedom. Research autonomy. We'll offer him a completely independent lab.」(自由だ。研究の自律性。完全に独立したラボを提供する)

「When should we contact him again?」(いつ再び接触すべきですか?)

「Give him a week. Let him finish his thesis first.」(一週間待とう。まず卒論を終わらせてもらう)

 ロバートは淡々と指示を出す。

 完璧なビジネスマンの顔。

 だが、内心では──

「And... everyone take the afternoon off. Enjoy Tokyo.」(それと……午後はみんな休みにしよう。東京を楽しんでくれ)

「Really, sir?」(本当ですか?)

「Yes. We've been working hard. You deserve it.」(ああ。よく働いてくれた。君たちは休む資格がある)

 部下たちは喜んで会議室を出て行った。

 ロバートは一人、残った。

 そして──

 スマホを取り出し、あるアプリを開く。

 画面には、秋葉原の地図が表示されていた。

「Time for my real mission...」(さあ、本当の任務の時間だ……)

 ロバートの目が輝いた。


 午後1時。

 秋葉原。

 ロバートは私服に着替え、街を歩いていた。

 スーツではなく、カジュアルなジーンズとパーカー。

 サングラスとキャップで顔を隠している。

 周りには、アニメショップ、メイドカフェ、ゲームセンター。

 ロバートの心臓が高鳴る。

「This is... paradise...」(ここは……楽園だ……)

 彼は、ゆっくりと街を歩き始めた。


 最初に入ったのは、大型のアニメグッズショップ。

 ロバートは店内を見回す。

 フィギュア、ポスター、Blu-ray、グッズ。

 全てが、彼の心を捉える。

「Oh my god... they have the limited edition...」(なんてことだ……限定版がある……)

 ロバートは、あるフィギュアの前で立ち止まった。

 彼の好きなアニメの主人公。

 限定版で、アメリカでは手に入らない。

「I need this...」(これが必要だ……)

 ロバートは迷わずレジに向かった。

 店員が英語で対応してくれる。

「Thank you for your purchase!」(ご購入ありがとうございます!)

「Thank you... this is amazing...」(ありがとう……素晴らしい……)

 ロバートは満面の笑みで店を出た。


 次に向かったのは、中古のマンガショップ。

 ロバートは棚を見て回る。

 日本語のマンガが、びっしりと並んでいる。

 ロバートは日本語が読める。

 趣味で勉強したのだ。

「Ah, this series... I've been looking for volume 12...」(ああ、このシリーズ……12巻を探していたんだ……)

 ロバートは、慎重にマンガを選ぶ。

 十冊以上、買い込んだ。

 レジで店員が驚いた表情をする。

「Can you read Japanese?」(日本語、読めるんですか?)

 店員が英語で聞いた。

「Yes, I can. I love manga, so I learned.」(はい、読めます。マンガが大好きで勉強しました)

 ロバートは嬉しそうに答えた。

「That's amazing! Enjoy your reading!」(すごいですね! 楽しんでください!)

「Thank you!」(ありがとう!)


 午後3時。

 ロバートは、あるビルの前で立ち止まった。

 コスプレショップだ。

 彼は深呼吸をした。

「Okay... this is it...」(よし……ここだ……)

 ロバートは、階段を上がる。

 二階のドアを開けると──

 そこは、コスプレ衣装の宝庫だった。

 壁一面に、アニメキャラクターの衣装が並んでいる。

 ロバートの目が輝く。

「This is... incredible...」(これは……信じられない……)

 店員が近づいてくる。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「Ah, yes... I'm looking for...」(ああ、はい……探しているのは……)

 ロバートは、スマホで画像を見せた。

 あるアニメキャラクターの衣装。

「あ、これですね。サイズはどうされますか?」

「Large, please.」(ラージでお願いします)

「かしこまりました」

 店員が衣装を持ってくる。

 ロバートは、それを手に取った。

 完璧な再現度。

 縫製も丁寧。

「Perfect... absolutely perfect...」(完璧だ……まったく完璧だ……)

 ロバートは感動していた。

「試着されますか?」

「Yes, please!」(はい、お願いします!)


 試着室の中。

 ロバートは、コスプレ衣装を着ていた。

 鏡を見る。

 そこには、アニメキャラクターに扮した自分がいた。

「...This is amazing.」(……素晴らしい)

 ロバートは、誰にも見られていないことを確認し──

 小さくポーズを取った。

 アニメのキャラクターの決めポーズ。

「Heh...」(へへ……)

 ロバートは笑った。

 四十代半ば、世界的企業のCTO。

 年収億超え。

 だが、今この瞬間──

 彼は、ただのアニメ好きの少年だった。


 午後5時。

 ロバートは、メイドカフェに入った。

 少し緊張している。

「Welcome home, master!」(お帰りなさいませ、ご主人様!)

 メイドが迎えてくれる。

 ロバートは、少し赤面した。

「Ah... thank you...」(あ……ありがとう……)

 席に案内される。

 メニューを見る。

 全てが可愛らしい。

「What would you like to order?」(ご注文は?)

「Um... this one, please.」(えっと……これでお願いします)

 ロバートは、オムライスを注文した。

 メイドが笑顔で答える。

「Certainly! I'll put love into it!」(かしこまりました! 愛を込めて作りますね!)

 ロバートは、また赤面した。

「...Thank you.」(……ありがとう)


 オムライスが運ばれてくる。

 メイドが、ケチャップでハートを描く。

「Now, let's make it even more delicious! Repeat after me: Moe moe kyun!」(さあ、もっと美味しくしましょう! 私の後に続いてください。萌え萌えきゅん!)

 ロバートは、少し躊躇した。

 だが──

「...Moe moe kyun.」(……萌え萌えきゅん)

 小さな声で言った。

 メイドが笑顔で拍手する。

「Perfect! Enjoy your meal!」(完璧です! お召し上がりください!)

 ロバートは、オムライスを食べ始めた。

 美味しい。

 そして、何より──

 幸せだった。

「This is the best day ever...」(今日は最高の日だ……)


 午後7時。

 ロバートはホテルに戻った。

 両手には、大量の買い物袋。

 フィギュア、マンガ、コスプレ衣装、グッズ。

 スイートルームに入り、ベッドに荷物を置く。

 そして──

 スマホで写真を見返す。

 秋葉原の街並み。

 アニメショップ。

 メイドカフェ。

 全てが、宝物だった。

「I can't believe I'm really here...」(本当にここにいるなんて信じられない……)

 ロバートは、満足そうに笑った。

 そして、スーツケースを開く。

 中には──

 自分が作ったコスプレ衣装が入っていた。

 アメリカで、密かに作ったもの。

 誰にも見せたことがない。

「Maybe... I should try this on too...」(たぶん……これも着てみるべきだな……)

 ロバートは、衣装を取り出した。


 三十分後。

 ロバートは、コスプレ姿で鏡の前に立っていた。

 完璧な再現。

 自分で作っただけあって、サイズもぴったり。

「...Yeah. This is good.」(……うん。これはいい)

 ロバートは、ポーズを取る。

 アニメのキャラクターの決めポーズ。

 何度も練習したポーズ。

 完璧だ。

 その時──

 スマホが鳴った。

 ロバートはコスプレ姿のまま、スマホを取る。

 部下からのメッセージだ。

「Sir, we've prepared a new proposal for Hiiragi. Should we review it tomorrow?」(サー、柊への新しい提案書を準備しました。明日レビューしますか?)

 ロバートは、コスプレ姿のまま返信する。

「Yes. Let's meet at 9 AM.」(ああ。朝9時に会おう)

「Understood.」(了解しました)

 メッセージを送り終える。

 ロバートは、再び鏡を見た。

 コスプレ姿の自分が、ビジネスのメッセージを送っている。

 そのギャップに、自分でも笑えてきた。

「Nobody can know about this...」(誰もこれを知ることはできない……)

 ロバートは苦笑した。

 そして、衣装を丁寧に畳む。


 その夜。

 ロバートは、ベッドに横になっていた。

 今日買ったマンガを読んでいる。

 日本語で。

 ページをめくる。

 物語に引き込まれる。

「This is why I love Japan...」(これが日本を愛する理由だ……)

 ロバートは小さく呟いた。

 柊遼を確保する。

 それが、この出張の目的。

 だが、それだけではない。

 日本に来ること自体が、ロバートにとっては夢だった。

 アニメとマンガの聖地。

 コスプレの文化。

 全てが、彼を魅了する。

「I need to come back here... even if Hiiragi says no.」(また戻ってこないと……たとえ柊が断っても)

 ロバートは笑った。

 そして、マンガを読み続けた。


 翌朝、金曜日。

 ロバートは、再びスーツ姿でホテルのロビーにいた。

 完璧なビジネスマン。

 昨日の秋葉原での姿は、誰も想像できない。

 部下たちが集まってくる。

「Good morning, sir.」(おはようございます)

「Good morning. Let's review the proposal.」(おはよう。提案書をレビューしよう)

 ロバートは、淡々と指示を出す。

 だが、内心では──

 昨日買ったフィギュアを、どうやってアメリカに持ち帰るか考えていた。

「スーツケースに入るかな……」

 ロバートは、小さく笑った。


 同じ頃、柊家のリビング。

 遼は朝食を食べていた。

 凛と華も一緒だ。

「遼、今日も大学?」

「ああ」

「卒論、もうすぐ終わる?」

「まあな」

「頑張ってね」

「おう」

 遼は淡々と答える。

 そして、スマホでニュースを見る。

 技術系のサイトだ。

 海外企業のニュースが流れている。

 TechVision Systems。

 ロバート・チェンCTOが日本出張中、という記事。

「……まだ日本にいるのか」

 遼は小さく呟いた。

 凛が聞いた。

「何?」

「いや、別に」

 遼は画面を閉じた。

 そして、朝食を食べ続ける。

 遼は知らない。

 そのCTOが、昨日秋葉原でコスプレ衣装を買い込んでいたことを。

 そして──

 再び自分に接触しようと、計画を練っていることを。


 その頃、ホテルの会議室。

 ロバートは部下たちと、新しい提案書をレビューしていた。

「We'll offer him complete research freedom. No meetings, no reports unless he wants to.」(完全な研究の自由を提供する。会議も報告書も、彼が望まない限りなし)

「That's unprecedented, sir.」(前例のないことです)

「I know. But he's worth it.」(分かっている。しかし彼はそれだけの価値がある)

 ロバートは真剣な表情だった。

 だが、心の片隅では──

 昨日買ったフィギュアのことを考えていた。

「あれ、机に飾ろうかな……」

 ロバートは、小さく笑った。

 世界的企業のCTO。

 そして、秘密のアニメオタク。

 その二つの顔を持つ男の、静かな戦いが続く。

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