春を告げる鐘 台本 Part1
入手しました。
これ以上のことは言えません。
表紙には「内部資料・転載禁止 関係者外秘」と書いてあります。
今も書いてあります。
読んでいる今この瞬間も、そう書いてあります。
映画「春を告げる鐘」の、台本です。
撮影はまだ始まっていません。つまりこの台本は、まだ誰も観ていない映画の設計図です。キャスト紹介から、シーンごとのト書き、セリフ、全部あります。宮下麻衣さんが書いて、篠原拓海監督が使う、あの台本です。
なぜ私の手元にあるのか。
聞かないでください。
——私はこれを見なかったことにするつもりでしたが、できませんでした。
キャスト紹介
■ メインキャスト
日向 葵
演 柊 華
高校2年生・17歳。
成績は上位。生徒会も部活も無難にこなす。
「なんとなく」で日々を生きてきた。悪意はない。ただ、やりたいことが一度もなかった。
茉莉と出会うことで、「今日を丁寧に生きる」ということを、初めて覚えていく。
前半は抑制された演技。後半、感情が溢れる。
桐島 茉莉
演 宮本 奈々
転校生・17歳。
神経膠腫グレードⅣ(膠芽腫)。転校前に「半年から1年」の余命を宣告されている。
「最後の春を、普通の高校で過ごしたい」という本人の希望で転校してきた。
明るく屈託がない。でも自分の「後」については一切話さない。
「死を知っている人の明るさ」を体現する、この映画の核。
三浦 朔
演 水城 蒼真
葵の幼馴染・17歳。
茉莉のことを遠目に見ている。
何かが引っかかっている。何かは分からない。
三浦 柚
演 柊 凛
朔の姉・26歳。
感情を表に出さない大人。でも切り捨てない。
茉莉のことを、たった二度の対面で見抜いた。
■ 助演・特別出演
野口 先生
担任教師・30代。
日向 真紀
葵の母・40代。
神社の老婦人
名前は出ない。春の始まりと終わりに登場する。
病院の看護師
演 春日 芽衣
■ スタッフ
監督 篠原 拓海
脚本 宮下 麻衣
音楽 川村 遼
撮影監督 長谷川 誠
美術 高橋 千代
製作 橘 智明
主題歌 「春告鳥」
白石 奏斗 feat. AURUM
台本
S-1 桜並木・路上 朝
暗転から明ける。
桜が散っている。
葵、登校する。
ナレーション(葵)
「やりたいことが、なかった。ずっと、なかった。それが不満だったわけじゃない。ただ——空白のままでいることに、慣れていた」
S-2 教室 朝のHR
葵、窓際の席に座っている。
野口、入ってくる。出席を取る。
野口
「今日から、転入生が来ます。入ってください」
茉莉、入ってくる。前に立つ。
茉莉
「桐島茉莉です。よろしくお願いします」
野口
「席は……窓際の、前から三番目が空いてる。そこに」
茉莉、葵の隣に歩いてくる。座る前に葵を見る。
茉莉
(小声で)「よろしくね」
葵
「……うん」
茉莉、座る。
S-3 廊下 昼休み
葵、廊下を歩いている。
茉莉、後ろから来る。
茉莉
「ねえ」
葵
「何」
茉莉
「名前、教えて。朝ちゃんと聞けなかった」
葵
「日向葵」
茉莉
「葵ちゃんか。私は茉莉。よろしく」
茉莉
「帰り道、西口のほう?」
葵
「同じ方向」
茉莉
「じゃあ一緒に帰ろう」
葵、特に返事をしない。断らなかった。
S-4 教室 放課後直前
朔、自席にいる。
茉莉の方向を一度見る。
茉莉、別の生徒と話している。
朔、視線を窓に戻す。
S-5 商店街 放課後
葵と茉莉、並んで歩く。
茉莉
「今日だけで五回聞かれた。転校慣れてるの、って」
葵
「……慣れてないの?」
茉莉
「慣れてるふりは上手くなった」
茉莉、足を止める。たい焼き屋を見る。
茉莉
「入ろう」
葵
「今から?」
茉莉
「うん」
S-6 商店街・ベンチ 放課後
二人、たい焼きを持ってベンチに座っている。
茉莉
「葵ちゃんって、やりたいことある?」
葵
「……ない」
茉莉
「へえ」
間。
葵
「……変?」
茉莉
「全然。ないって言い切れる人、あんまりいないから」
間。
葵
「茉莉は?」
茉莉
「ある。でも今は言わなくていい」
葵
「なんで」
茉莉
「言ったら、変わるから」
S-7 商店街・分かれ道 夕方
二人、立ち止まる。
茉莉
「また明日」
葵
「……うん」
茉莉、歩き始める。振り返らない。
葵、その場に立ったまま、茉莉の後ろ姿を見る。
S-8 葵の部屋 夜
葵、机に向かっている。教科書を開いている。
ナレーション(葵)
「変な子だと思った。でも嫌いじゃなかった。『言ったら、変わるから』。その言葉だけが、夜になっても残っていた」
暗転。
映画「春を告げる鐘」台本 内部資料
脚本 宮下 麻衣




