閑話 影
影──
「やぁ、西片くん。中田くん」
「先週の動画は、見てくれたかな」
「先週お伝えした通り、ようやく君たちに良いお知らせを届けられそうだよ」
「君たちもいつ、その生活が終わるのか。気になっていたんじゃないかな」
「私もようやく一息つける」
「とても嬉しい気持ちだよ」
「明日、そのお知らせの動画をお届けしよう」
「ぜひ、楽しみに待っていただけたら……うれしいな」
先週、あと数日であそこから出られるんじゃないか、という『誤解』させるメッセージ動画を送り付けた。
そして、今週はその続きの動画を作成した。これから奴らに渡している端末に送り付けてやる。
「リーダー……これ、マジですか?」「人間のすることじゃねぇ……です」
これからやることをアホ2人に伝えたらそう言った。
でもあの2人がドン引きするとは思わなかった。
「君たちのやったことと、何が違うんだい?」
そう言ったら目が合わなくなった。
まだ、許されたわけじゃない。それを思い出してくれて、嬉しいよ。
東雲嬢にやったこと。その結果、東雲嬢がどれだけ苦しんだのか。
ななねんかんだぞ
好きな人に汚いものだと思われていると、ななねんかんもずっと苦しんだんだ。
助けられた今でも彼女は猜疑心を捨てられないだろう。
バキバキバキバキという音を立てて、持っていたマウスが壊れてしまった。
北条さんも東雲嬢のことを報告する度に、罪の意識でどれだけ辛い思いをしたのか。
一時期は睡眠薬が無ければ寝られずフラフラしたまま仕事へ行く日もあった。
キーボードが。
日外さんも表面上は飄々としているが、溜まるストレスは確実にあり、同じような馬鹿を潰すことにその怒りは向けられた。
彼女もまた、西片や中田の作戦に、知らぬとは言え加担してしまった事実をいつまでも抱えていた。
東雲嬢が既に許していても、カウンセリングで何度も何度も何度も何度も泣いていた。
予備のマウスが。
上司は……北条さんから逃げてちょっと情けないなって思っちゃったこともあるけれど、一端を知って、彼もまた悩んでいたんだ。
常識的に考えれば恋人かつ婚約者がいるんだから、他の人を気にするなんて普通はやっちゃいけないことなんだ。
それでも、彼の体と心は止まらないから、私たちは北条さんに怒られない範囲でバックアップを行った。
止めないと、昼も夜も寝ずに動き続けるから。
……1秒前まで動いていた人間がバタンと倒れたり、胃潰瘍で血を噴水のように吹くのを見るのはもう嫌なんだ。
マルチディスプレイ用のモニタが壊れた。
……オープンキャンパスのあの時、上司を止めた私が言うのもなんだが、許されるのなら地獄の苦しみを味合わせてぶち殺してやりたかったさ。
だが、それは許されない。上司たちの治らない傷になってしまうから。
だから、この作戦を思いついた時、自分は天才だと思ったね。
そして丁度良く2人とも『やらかした』
上司たちが罪の意識を1mmも持たないでいいように、親共が提案したことにした。
孤島の配信者と、とある鉱山の肉便器。
他の被害者への慰謝料もあるからね、しっかり稼いでもらわないと困るんだよ。
終わりが見えなくて、心を壊して自殺されたら……『つまらない』
だからたまに飴を与えてやった。
まぁそうは言っても家族からのビデオレターくらいだけどね。
中田は、妹からのメッセージを喜び、悔いた。
西片は、動画の両親に向かって謝った。
その気持ちを、永遠に持ち続けて欲しかった。
そう、終わらせないさ。
あんしんしてくれ!
まだまだお前らをおもちゃにしてやるから!
存分に楽しめ!
私は、君たちをすぐには殺さない!
優しいぞ!
もっと苦しめ。
死ぬまでな。




