第1話 『卒業式の約束――誰にも言えない恋のはじまり』
三月の終わり、卒業式の日。
式が終わり、別れの涙と笑顔が交錯する校庭の片隅に、
ひとりの高校1年生の男子――**神谷 陽翔**は、ある女性教師を待っていた。
その教師の名は――水城 梓。
英語を教える27歳の若き女性教師で、生徒にも同僚にも信頼される存在。
けれど陽翔は知っている。
彼女が黒板に書くときの、繊細な指先の動き。
ふとした瞬間、クラスの誰にも向けていない、たった一度だけの視線を、自分にくれたことを。
校舎裏、陽翔が待っていたその場所に、
式の片づけを終えた梓が現れた。
「どうしたの?……こんなとこで待ち伏せなんて」
陽翔は、目を逸らさずに言った。
「先生。俺、ずっと先生のことが好きでした。……1年、見てるだけで苦しかった」
梓は息を飲んだ。
「陽翔くん、それは――」
「卒業式の今日だけ、伝えたかった。……俺、あと2年この学校に居る。
でも、卒業式の日に俺が迎えに来たら、その時、またちゃんと告白させてください。
それまでの間――
“誰にもバレないように、先生と恋をしてもいいですか?”」
一瞬、校庭の歓声が風に流れた。
梓は目を伏せる。教師として、理性は拒む。
けれど、心のどこかでずっと気づいていた。
授業中、たまに目が合うと、ほんの少し頬が熱くなるのを。
「……ほんの少しの目線や、偶然の手の触れ合い。それだけでも満足です。
誰にも言わない。バレるようなことは絶対にしない。
ただ、俺にだけ……ちょっとだけ、優しくしてください」
沈黙の後――
梓は、ため息を一つだけ吐いて、そっと言った。
「……そんなルール、学校にはないのよ」
「でも、教師も生徒も、心までは縛れない。……いいわ、陽翔くん。
――卒業式の約束。2年後まで、秘密のままにしておきましょう」
そして、彼女は振り返ることなく去った。
陽翔の胸の奥が、燃えるように熱かった。
これは恋ではなく、誓いだ。
3年間、誰にも悟られず、心だけを交わす――最も苦しくて、最も純粋な秘密の恋の始まりだった。
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