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卑屈な令嬢の転落人生   作者: 夕鈴
本編

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13/32

卑屈な令嬢の転落人生6 後編 

卒業パーティーが終わり3か月後、暑さも和らぎ過ごしやすくなった頃、国王はモール公爵と共に王宮に帰った。

隣国の王子と宰相が訪問し、歓迎の晩餐会が催された。

国王は王妃の歓迎に上機嫌だったため、息子の留守を咎めなかった。国王が上機嫌だったのは晩餐の始まる前までだった。

隣国の宰相から第一王子がシャーロットと婚約破棄したという話を聞いて息を飲んだ。

王子が王国で不要なら妃に迎え入れたかったが男爵家に輿入れしたため妃に迎えられませんと残念そうに語る姿に食事が喉を通らなかった。国王の動揺を王弟と王妃がフォローしたため無事に晩餐は終わった。

晩餐が終わり国王は第一王子を呼び出した。王弟と王妃も同席した。


「父上、お帰りなさいませ」


国王は澄ました顔の第一王子に眉を吊り上げた。


「シャーロットを男爵家に嫁がせただと!?自分のしたことがわかっているのか!!」

「父上、シャーロットは罪を犯しました。自身より能力のある伯爵令嬢を妬み」

「どこにシャーロットより能力のある令嬢がいる!?」

「資質です」


国王は王妃が育てたシャーロットの侮辱に声を荒げようとした。


「兄上、落ち着いてください。どうぞ、これを」


国王は王弟に渡された書類を読んで絶句した。

第一王子とアリシアの卒業式での騒動に学園での横暴の報告書を読み、最後には王子の継承権の見直し願いが学園生徒と卒業生の署名つきで用意されていた。これは敬愛するシャーロットへの仕打ちに取り巻きのアルナ達が動いたものだった。

王妃は悲痛な表情を浮かべ悲しそうに声を出した。


「私には伯爵令嬢に資質があるように思えません。シャーロットが10歳で終わらせた課題を1枚も仕上げず、学園の統制もとれません。なにより令嬢達に彼女を支持する者が一人もいません。婚約者候補への推薦もできません。上位貴族の令嬢達から婚約者候補への辞退の話がありましたわ。シャーロットさえ務まらないのに自身には荷が重いと。10年も婚約していたのに冤罪で断罪され下位貴族に強引に嫁がせる王家を信用できないと。罰するなら亡命するのでどうぞご自由にと」


後ろ盾もない第一王子に未来はなく庇いようがなかった。

王家は強制的に婚姻を結ぶ権利を持っていた。臣下への使い方は慎重にならないといけなかった。

国王は顔色悪く悲しそうなの王妃を見た後、息子を静かに見つめた。

成人している息子に慈悲はなかった。それに息子は国王にとって最大の禁忌を犯していた。


「廃嫡だ。王族として臣下の支持を得られない者に未来はない。」

「父上!?」

「王族位も取り上げる。資質のある令嬢と生きるがよい。個人資産は自由にしていい。一月後に出て行けばいい。好きに生きよ。」


呆然とする第一王子を残し国王と王弟と王妃が出て行った。

王弟は妃を娶っていないが恋人に産ませた子供を養子に出し他国に留学させていた。

その王子を呼び戻す手筈が整えられていた。第一王子が廃嫡になり継承権を持つのは王弟の次点が養子に出した王子である。

***

第一王子の廃嫡が決まり、王妃は寝込んでいた。

家臣達は病弱な王妃なら心労で寝込んでも疑わなかった。

国王は臣下の前で気丈に振る舞い、自身が帰ってくると気が抜けて弱る王妃を大事にしていた。

体が弱いのに精一杯王妃として務めを果たす王妃を寵愛していた。

頻繁に留守にすることに不満を言わず、むしろ民の前に国王が姿を見せる機会が多いほど望ましいと美しい笑みを浮かべて話し民の前で励む姿が一番魅力的と言われてからは率先して視察に出ていた。遠方の視察では国王が不自由しないように王妃が細々した指示を出し、手紙も届いた。

王宮にいる時以上に気遣う王妃の愛情を感じる視察を国王は楽しむようになった。

国王は王妃の手のひらで転がされていた。

モール公爵は何も言わずに微笑むだけだった。

強引に突っ走り、思い込みが激しいところは親子そっくりだと思っていた。そして学園に入学させるまでは頻繁に視察に同行させていた第一王子に複雑な心情を持っていた。


モール公爵夫妻は3か月ぶりにモール公爵邸に帰宅した。

執事長から報告を聞き、シャーロットの婚姻を知り、モール公爵夫人は顔を顰めた。

モール公爵は驚いたが婚約破棄され男爵家に嫁いだシャーロットの心配はしていなかった。最強の護衛がついており、弱気でも何があっても対応できるようにモール公爵令嬢として厳しく躾けていた。


「父親だけでなく、子供も・・。知ってたわよ。こんなことなら暗殺しておけば良かった。憎い血でも子に罪はないから同情して優しくしたのに。慈悲の心なんていらなかったわ。お母様を呼ばないと。旦那様、コノバに」

「スミレ、落ち着いて。シャーリーは大丈夫だよ。ミズノとヒノトがいる。どちらか帰ってきたら顔を出すように伝えてくれ」


執事に命じてモール公爵は留守の間の報告を聞いていた。

留守はシャーロットとシャドウに任せていた。婚約破棄の報告が届かなかったのでシャドウがあえて隠していたのも気づいていた。

第一王子が暴走してしまったことに苦笑した。

喧嘩にしても、やりすぎだった。


「スミレ、離縁させ、今度は好きな相手に嫁がせてあげればいい。この状況で殿下の婚約者に戻ることはないだろう」

「そうですね。やはり好いた方に嫁ぐのが一番です。私はあの子が不憫で・・。また王家に差し出せと言われても許しません。」

「でもわからないんだよ。二人が喧嘩するのはいつものことだが、ここまでするかい?殿下が強引な婚姻を思いつくとは思えないんだよね。殿下の性格なら不敬罪で斬首・・・。そうなったら妃殿下達が止めるだろうが。駄目だな。昔から上手く読めない」

「旦那様、非常識を」


ノックの音に入室許可を出すとミズノが入室してきた。


「ミズノ、礼はいらないわ。シャーリーはどう?」

「お嬢様は楽しそうに生活されてます。こちらの状況は何も知りません。」

「良かったわ。どんな風に過ごしてるの?」

「離れで生活しています。午前中は男爵と視察や執務を共にされ、午後からは自由に過ごされています。男爵が毎日苺を用意してくださり、上機嫌で過ごされています。お嬢様が何も望まないので男爵様が贈り物をくださいます。男爵様の贈り物を身に着けられて、照れている姿がお可愛らしいです」

「あら・・・。旦那様、もしかして」

「さぁね。シャーリーが楽しそうなら良かったよ。」


モール公爵夫人の雰囲気が和らいだ。


「明日は休みだから会いに行こうか」

「そうですね。楽しみです。旦那様と二人で出かけるのも久しぶりです」


モール公爵夫妻が和やかに過ごしていると王宮から使者が訪問した。

渡された書状をモール公爵は凝視した。

真顔の夫を不思議に思い、モール公爵夫人が書類を覗き笑った。

第一王子の王族位剥奪と明日の早朝の呼び出しが綴られていた。


「陛下もか・・・。一言相談してほしかった。どうしていつも肝心なことを。謹慎と厳重注意ですませると思っていたが・・・。」

「旦那様、お気を確かに。」

「決定事項だから説得しても無駄か。覆せない」

「旦那様、王家は放っておきましょう。自己責任ですわ」


モール公爵は妻の提案に頷くことはできなかった。

翌日にモール公爵夫妻は国王に謁見した。

王妃が療養中の話を聞き、モール公爵は状況を理解した。国王は王妃に心労をかけた者を許さないため恋ゆえの暴走だった。

国王よりシャーロットの離縁の手続きを整え、連れ戻す命令を受けたモール公爵夫妻は礼をして迎えに行く準備を整えた。


「シャーリーへの謝罪はないのね。王妃に会わせるための命令ね・・・。」


馬車の中で不機嫌に呟くモール公爵夫人を宥めながらモール公爵は物思いにふけっていた。

第一王子をシャーロットが気に入っていないのを知っていた。でもなんだかんだでうまくやっていた。

シャーロットがヒノトとミズノ以外で感情的になるのは第一王子のことだけだったので、シャーロットが誰かに恋をしない限りは二人はうまくいくと思っていた。

二人の婚約が決まってからは第一王子とシャーロットの関係がうまくいくように気に掛けていた。

二人にはお互いだけは何があっても信じるように言い聞かせていた。何かあれば協力して立ち向かうことも。私的な場では素で向き合い互いを大事にしなさいとも教えていた。

後先考えずに暴走した第一王子を見て、シャーロットの保護者達が動いたのがわかりため息を溢した。今回はシャーロットの父であるモール公爵は第一王子に手を差し伸べられなかった。

モール公爵令嬢への仕打ちをモール公爵家として捨て置くことはできなかった。

できるのは廃嫡になっても生活できるように影で手を回すしかなかった。

王妃達に騙されている友人を不憫に思っても国王は幸せそうだった。そして自業自得だった。

ただ第一王子だけは自業自得と突き放せなかった。

シャドウにも弟代わりに、世話をするように頼んでいた。シャドウは第一王子が気に入らなくても表に出さなかった。そして厳しく躾けられていたため年下の王子に意地悪や報復するほど子供ではなかった。シャーロットとの婚約が決まってからは妹が苦労しないように第一王子に仕えることにも積極的に動いていた。

モール公爵にとって唯一救いだったのはシャーロットが幸せそうなことだった。

王子の婚約者になってからは髪の毛を巻いていたシャーロットが真っすぐな髪に戻っていた。コメリ男爵に向ける恋慕の視線に笑っていた。

レイモンドも誠実で優しい青年だった。シャーロットが貴族の顔を見せずに向き合う他人は第一王子以外で初めてだった。

モール公爵夫人は行きと違い、帰りは上機嫌だった。

昨晩はシャーロットの離れに泊まり、二人は夜遅くまで男爵領での生活について聞いていた。


「シャーリーが恋するなんて。苺とヒノトとミズノしか興味がなかったのに。まだ無自覚だけど。ずっと惚気が止まらないんだもの。諦めていたけど人生何があるかわかりませんね。お母様達を誘ってまた行かないと」


モール公爵はレイモンドに心の中で謝った。


「スミレ、邪魔をしてはいけないよ。婚姻してるんだから、頼まれないならやめなさい。二人のペースで」

「確かに二人っきりが一番ですね。初恋に免じて今回の甘さは許してあげましょう。お祝いに陛下は私が引き受けます。王家の都合で離縁はさせないわ。陛下はミコトのためにロレンスの婚約者にシャーリーを指名して傍に置くでしょう。自分の私欲を満たすためにしか能力を発揮しない。次は絶対に負けない」

「シャーロットを脅したのにかい?」

「大事なものを守るためには強くならないと。ウルマ伯爵家や殿下の訪問を通して二人は絆を深めます。苦難を手に手を取って乗り越えるのは常識ですよ。次に会う時は進展してるかしら。シャーリーは疎いから自覚するかしら。そこはレイモンドの頑張り次第よね。コノバでお祝いしないと。旦那様、説得に時間のかかるフリをしましょう。久しぶりに二人っきりですよ」


モール公爵はコノバの女性陣がレイモンドに迷惑をかけないように行先をコノバ公爵家に変更した。コノバ公爵家の女性陣はシャーロットの初恋に祝杯をあげ、男性陣は複雑な顔をしてため息を溢した。

モール公爵夫人の希望でコノバ公爵家で一泊し王都に帰宅した。

王宮に参内し謁見の間でモール公爵夫妻は頭を下げた。モール公爵夫人は悲痛な顔を作って国王に向き直った。


「陛下、申し訳ありません。傷ついた娘は王都に帰ることを望みませんでした。」

「シャーロットはどうしている」

「コメリ男爵家で丁重にもてなされてます。ようやく食事も取れるようになったと。どうか娘のことはお忘れください」

「新たな婚約を」

「どうかお許しください。。王家の婚約者として過ごした娘に少しでも慈悲の心を持ってくださるならもう放っておいてください。コメリ男爵は誠実な方でした。娘も大事にしていただけるでしょう。どうか。参内するのは心の傷が癒えるまでお待ちください。突然の婚約破棄に望んでいない婚姻。娘にとって忘れられない誕生日でしょう。」

「そうか・・・。」


悲痛な声で懇願するモール公爵夫人の言葉に国王は頷いた。国王を憎んでいるモール公爵夫人は罪悪感をうえつけたかった。国王は王家による強引な婚姻の権利を放棄していなかった。悪しき風習をなくすためにどう働きかけても駄目だった。

国王は王子の廃嫡よりもシャーロットを可愛がっていた王妃が余計にふさぎ込むことが心配だった。


療養中で面会謝絶中の王妃はモール公爵夫妻の訪問を聞き、真っ青な顔で国王の執務室を訪問した。

国王からシャーロットの話を聞き、倒れたのを王弟が支えた。

国王が立ち上がって駆け寄るのを王弟は温和な笑みで制した。


「兄上、私がお運びします。せめて賠償金の手続きを。お金で解決はできませんが時が傷を癒すのを待ちましょう。妃殿下もシャーロットのために王家が動いたと知れば心が軽くなるでしょう。貧しい男爵領で不憫な生活を送るシャーロットの生活が改善すれば・・」


国王は弟の言葉に頷いた。

いつも療養中の王妃が面会を許すのは侍女以外ではシャーロットだけだった。

王妃の体調が回復し国王が会いに行くとシャーロットから受け取った花束を抱きしめながら、慈愛に満ちた顔をしていた。国王はもう子供を授かれない王妃が娘のように可愛がる姿を眺めるのも好んでいた。国王は王妃の回復を祈りながら、指示を出し始めた。


王弟は王妃を抱き上げて、後宮のベッドに寝かせた。


「しばらく療養します。シャーリーに会いたい。また里帰りの命が出ないかしら」

「ゆっくり休んで」

「行ってらっしゃいませ」


国王にも第一王子にも関わりたくない王妃の長い療養生活が再開した。国王も面会謝絶にしていた。社交は王妃が務めなくても、モール公爵夫人のスミレが代行するので問題なかった。お飾りの王妃と陰で言われても気にしなかった。王妃は神も国も信じていない。心に響かないものは大事にする価値がなかった。

国王が退位したら暗殺して王弟と市地に降りるつもりだったがロレンスが王位を継ぐなら計画を変更しないとと思いながら眠りについた。



*****

第一王子は王妃を訪問すると寝込んでいるため面会謝絶だった。

宰相からは後ろ盾と支持を取り戻さないと難しいと言われた。

友人達を訪問しても多忙なため不在で捕まらなかった。

モール公爵家も面会を断った。モール公爵令嬢に冤罪をかけた第一王子の後ろ盾につかないとシャドウから文が届けられた。

第一王子はシャーロットや友人に文を送るも誰一人返事はなかった。


学園でも第一王子の廃嫡の噂は広まっていた。

アリシアを見かけたアルナは笑みを浮かべて近づいた。


「ウルマ様、おめでとうございます。晴れて殿下と結ばれますね」

「まぁ!?ありがとう。」


アリシアはようやく自分が認められたと喜んでいた。シャーロットのように美しいドレスを着て、羨望の眼差しを受け、贅沢三昧な暮らしを思い描きうっとりしていた。

今日のアルナはアリシアの不敬をあざ笑うことはしなかった。


「殿下もウルマ様と一緒になるために王族位を返上されるとは。思いきったことをされますね」

「え?」

「あら?ごめんなさい。そのお話はこれからかしら。自由に恋愛できない私はある意味羨ましく思いますよ。物語のようですもの。私はこれで。どうか幸せになってくださいませ。」

「ちょっと、待ちなさい」


アリシアの呼び止める声など気にもとめず、アルナは足を進めた。アルナは下位貴族達を掌握していた。そのためアリシアに声を掛ける者も命令に従うものもいなかった。

アリシアは学園で孤立しているのに気付いていなかった。生徒が遠巻きなのは未来の王妃に照れていると思っていた。シャーロットが遠巻きにされているのをよく見ていた。実際はシャーロットが人目を盗んで一人になり休憩していただけである。

第一王子の廃嫡の噂を耳にしてアリシアは手を切ることを決めた。

アリシアは贅沢で羨望される生活をしたかった。王妃は無理なら他の男を探すことにした。生徒会の役員達は上位貴族ばかりだった。

どんなに優しく話が楽しくてもお金のない男をアリシアは嫌いだった。小遣いが少なく、欲しい物が買えない惨めな思いはごめんだった。夜会のドレスも同じ物ばかり。父は自由にお金を使うのにアリシアに許されないのが納得できなかった。アリシアは王子との待ち合わせ場所には向かわずに、生徒会室を目指した。



第一王子が待っていてもアリシアは現れなかった。

生徒会が忙しいのかと生徒会室に顔を出すとアリシアが副会長の腕に抱きつき振り払われているのを見かけた。令嬢は身内や婚約者以外には、エスコートとダンス以外で安易に肌に触れさせないものだった。

目を見張っている第一王子にアルナが聞こえるように呟いた。


「お金のある殿方が好みですって。」

「は?」

「知りませんの?婚約者がいるのに他の殿方に近づき、誘惑していたのを。良識ある貴族は婚約者のいる者を相手にしませんわ。殿下以外は。独り言です。きっと王族に戻ればまた近づいてきますよ」


アルナは礼をして立ち去った。第一王子はアリシアと目が合ったがすぐに逸らされた。アリシアが副会長に抱きつき振り払われているのを見て立ち去った。

一気に熱が下がった。怒りよりも呆れが強かった。去ったものを追いかけるほどの執着はなかった。第一王子は王宮に帰るも手紙の返事はなかった。

王妃は療養中だった。

しばらくして友人達からは家の命令で力になれないと返事が送られてきた。そしていつも傍にいたはずの側近候補達はしばらく前から国外に訪問していると知った。

国王を説得できる残りはシャーロットだけだった。近衛騎士の友人にこれからの生活の用意をしたほうがいいと進言されても、手を動かす余力がなかった。


****


ウルマ伯爵家ではウルマ伯爵夫妻が絶句していた。

モール公爵より面会依頼がありモール公爵邸に訪問していた。


「ようこそ、お越しくださいました。こちらをご覧ください」


モール公爵は正面に座ったウルマ伯爵に二枚の書類を渡した。

王家とモール公爵家からの賠償金の請求書だった。


「ご令嬢が娘に冤罪をきせ、第一王子殿下を唆し、コメリ男爵との強引な婚姻をさせました。娘への不敬の調べもついています。モール公爵家からはモール公爵令嬢への不敬の賠償を求めます。また王家からは婚約破棄に伴う損害の請求です。妃教育への費用と王家の婚約者への不敬等詳細はご自分でご確認を。もし裁判を起こすならいくらでも相手をしますよ。流石に一括は厳しいので我が家の分は分割で構いません。ではお引き取り下さい」


ウルマ伯爵は見たことのない賠償金額に真っ白になった。爵位を売っても足りなかった。

アリシアが王子を惑わしたことさえ知らなかった。

呆然としながら金策に走り回ることになった。

真っ青な顔で出て行くウルマ伯爵夫妻をモール公爵夫人とシャドウが見ていた。


「父上、請求額少なすぎませんか?」

「子供のしたことだ。家としては見過ごせないから、現実的な金額だろう。うまくすれば爵位を売る必要もない。」

「甘いですよ。わかりました。」


不満そうな息子が仕掛けるのがわかってもモール公爵は何も言わなかった。

シャドウはウルマ伯爵家に力を貸す者がいないように圧力をかけ、事業の妨害をするつもりだった。最愛の妹に可愛げのないなど罵倒したのを許すつもりはなかった。

モール公爵夫人も第一王子の断罪はアリシアの提案だったと知りシャドウの味方だった。どんな理由でも悪しき風習を使わせようとしたのは許せなかった。

婚約破棄は正しい方法なら許した。正直に相談して破棄を申し入れれば快く受け入れた。ただ選んだ方法がモール公爵夫人の逆鱗に触れる方法だった。そして最愛の夫を悩ます親子に憎しみを覚えた。第一王子に本気で憎しみを覚えたのは初めてだった。


コメリ男爵領への干渉をシャドウが手を回していたため、レイモンド達の回りだけが現状を知らずに穏やかな時間が流れていた。

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