野菜はとてもよく売れた。
「とんでもなく売れてしまいましたね……」
「あぁ……」
メリル市の露店街――バザールの片隅で、エミリアとアビゲイルは呆然としていた。
運んできた野菜は、ものの数時間もしないうちに完売した。
「ははは! あれだけ良質の野菜もってきておいて、売れないとでも思ったかいっ!? がっはは!」
「……お婆さん、ものすごく元気になっていますね」
「あぁ。店をたたむとか言っていたのはなんだったんだ」
ソーセージバゲット店のお婆さんは、ものすごく元気になっていた。
動かなかった右腕が動いているだけでなく、なんか声も大きい。
気持ちもなんだか大きくなっている。
肌艶もよく、背筋もぴん。
そして、前に来たときよりも店が大きくなっていた。
街中に同じ看板の店が何軒かあったし。
アビゲイルいわく「チェーン経営に乗り出したらしい」ということだった。
お婆さんはとても精力的だ。
「聖女様に手を握っていただいて以来、元気がみなぎっちまってねぇ!」
「それはよかったです!」
「どうだい、そんなに野菜が採れるってんなら、アタシが買い取ろうか」
「なに!? 大丈夫なのか、そんな急激な事業拡大なんて」
「ははは! バザールはアタシの庭みたいなもんさっ! 野菜だろうが喧嘩だろうが売れるもんは何でも売るさ!」
「たくましいな……」
本当に、別人のように生き生きしている。
野菜は、自分たちが食べる以外はソーセージバゲット店のお婆さんに買い取ってもらい、バザールで売ってもらうことになった。
「こんなに高い仕入れでいいのか?」
「アビゲイル様と聖女様相手に、アコギな商売なんざできないよ!」
「がはは!」とソーセージバゲット店のお婆さんは豪快に笑った。
「そういえば、お婆さんのお名前は?」
「……あぁ、そういえば聞いていないな」
「えっ! アビゲイルさん、義手まで作ってたのにっ」
「名前など関係ないだろう。魔力のパターンやタイプと、身体の寸法さえわかれば義手は作れる」
「わぁ……お名前もわからない方に親切にして、手を尽くして助けるなんて……やっぱりアビゲイルさんって優しいんですね!」
「むっ!? か、勘違いするな、ただの研究の一環としてだな!」
アビゲイルは顔を赤くして、もにょもにょと何かしらの言い訳をしていた。
本当にいい人だなぁ、とエミリアは思った。
野菜が思ったよりも早く売り切れになってしまったのは、嬉しい誤算だ。
ソーセージバゲット店のお婆さんと今後のことを軽く打ち合わせを終え、晴れて「契約農家」となった。さっそく冒険者ギルドに向かうことにした。
「こりゃあ、売れるよ! 楽しみにしときな!」
ソーセージバゲット店のお婆さんの声が、とても頼もしかった。
白馬バッヂの『初級冒険者』としての活動期間が終わり、今日から正規のクエストを受注することになっているのだ。エミリアは「たくさん人助けができる!」とわくわくしながらギルドへの道を歩いた。
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