最終話
レントは扉を開け、その中に入る。
壁を透視できるわけではないので、その瞬間から目の前にいる人物たちから未来が広がり始める。これから何が起きるのか、レントの目に移り始めていた。
中にいたのは明らかに貴族だと思えるような恰好の、富豪感丸出しのオヤジだった。恐らく今まで霧島可憐にちょっかいを出していた男だろう。
逃げもせずこの部屋にとどまっていた伊野は、この部屋の中にいる残り二人のおかげだろう。
一人は赤髪を短髪にまとめた眉のないいかつい男で、もう一人は黒髪をポニーテールにしたまるで武士のような男だった。
どちらも着ているのは例の軍隊仕様のもので、他の敵と同じだ。
見るからに強そうなこの二人も、レントは余り注視していない。
すぐに目を合わせたのは、豪奢に椅子に座る貴族のような男だった。
「お前が彼女…霧島可憐を狙っている大本なのか?」
男はレントの方を見る。
「…確かにその通りだ。」
「普通に白状するんだな。」
「これから死ぬ男に何を言おうと、結果はさほどかわらんよ。」
男はレントの方を興味なさげに見ている。よほど横に立つ二人に自信があるらしい。
「なら名前は?もしも俺が死ぬと思えるなら、ちゃんと答えられるよな?」
「私はルード・ベルディ・アウグスト。この国の古くからの貴族だよ。」
「俺はレント、お前を捕まえる男の名前だ。覚えておいてくれ。」
「…ふん、つまらん冗談だ。二人とも、やってくれ。」
男は面倒臭そうに手を挙げると、横に立つ二人に指示を出した。
「その言葉を待ってました。」
先にレントの方へと踏み出したのは、見た目から攻撃的な赤髪の男だった。
「俺の名前はガロン、といってもお前は死ぬか。一応言っておくが、あの武士風のやつは坂本 千早という名前だ。」
「ご丁寧にどうも。」
「気にするな。じゃ、さようなら。」
ガロンはまるで動く気などないように見える直立姿勢から、まるで瞬間移動するかの如くレントの目の前に突然姿を現した。
普通の者ならこの唐突な動きに対応することができず、このままゲームオーバーになるところだろう。しかしレントは未来を知っている。
彼が目前に迫ることを事前に予知し、その動きに綺麗に対応して見せる。
ガロンが伸ばしてきた右手を逆にレントが掴み、そのまま足元にクロスガンの銃口を向ける。
「んあ?」
一瞬して音もなく両足に先に二本の矢が撃ち込まれていることに気付き、ガロンは何が起きているのか理解できていないかのような表情をしていた。
そのままクロスガンを持ち上げ、堅い鋼鉄部分でガロンの顎をかち上げる。膝から崩れ落ちた瞬間、側頭部に向けて膝を放った。そしてガロンの意識は一瞬して現実から解き放たれ、その場に倒れた。
「馬鹿な…」
その光景を見た坂本は驚愕に目を見開いている。しかし、そんな隙を見送るほどレントは馬鹿ではない。一瞬して坂本へとクロスガンの銃口を向けると、そのまま放った。
坂本は腰に差す刀を抜刀、跳んできた矢を一刀両断にした。
そのままレントに対応しようとしたのか、両足を大きく開き、もう一度腰の鞘に刀を戻した。
いわゆる居合の構えをとったのだ。
間合いに入れば一瞬で切り裂かれてしまうはずのそこに、レントは全く警戒せずに歩み寄る。
「愚かなッ!!!!!」
そして間合いに入った瞬間、坂本が居合を一閃。
レントはまるでラーメン屋にかかる垂れ幕をくぐるかのように、その斬撃をかわした。
坂本はそんなレントに対して目を見開くことしかできない。
しかしそのころにはレントはもうすでに次へと動き出している。
クロスガンを横に振るい、それが坂本の顎へとクリーンヒットし、その場で彼は崩れ落ちた。
そんなありえない光景をしばらく見ていたルードもまた、目を見開いている。
想定以上の存在が目の前にいることにようやく気付き、今更あわている。
もうすべては遅いというのに、それでも彼は慌てているのだ。
「ところで…ここはどこだ?」
レントが言ったのはそれだけだった。人が作ったゲートに入ってきたので、もちろんこの場所がどこかなんて知らず、それをルードに聞いていた。
●
ギルド「人狼の牙」では打ち上げが行われていた。
無事に全ての黒幕を捕まえ終え、霧島可憐を無事に救ったのだ。
全員が笑顔で酒やなんやらを飲んでいる。
ギルド内にも別に彼女のファンはいたようで、そうした面々もこの場所に集まっていた。
今日だけは一般客の入店を断り、ギルド内部だけで打ち上げを行っている。
そうして打ち上げの明るい雰囲気を、レントは隅っこの席からまるで他人事のように眺めていた。
出された飲み物をちびちびと飲みつつ、善人が喜ぶ様子を。
しばらく時間が経つと、彼の側に本日の主役である霧島可憐が訪れた。
「あの…本当にありがとう!」
「いや、気にすることはないよ。俺も君を守れてよかった。」
「これから一緒に冒険することになるんだよね。」
彼女は最初の頃とは違い、どこか嬉しそうにそう言っていた。
まるで冒険そのものが楽しみであるかのように。
「…どうしたの?」
「うんうん、本当に楽しみなだけ。嬉しいんだ。私。」
「え?」
「これからもよろしくね!レント君。」
そういって彼女はレントを抱きしめた。
強く、ただ強く。
そして耳元でささやく。
「本当にありがとう、あなたにあえてよかった。」
その光景を見ていたアイシャと目が合う。その目はまるで夜叉そのもので、レントは頬に冷や汗を津たらせた。
この小説はここまでにします。想定よりもだいぶ長く書いたくらいです。
楽しかった。
ご愛読、本当にありがとうございました。




