第三十八話
控室で一休みすると、二人は無事イベント警備を終え、帰路についた。
ただせっかくアキバまで来たのに手ぶらで帰るのはもったいないという話になり、二人は話し合いの末買い物をしてから帰ることにした。
ライブ会場、トゥギャザーワンを後にしたのが夜の九時なので、後一時間ほどしかどこの店もやっていないようだったが、それでも少し見るくらいなら可能なはずだ。
それにアキバは夜の十時だというのに、大量に立ち並ぶビルの店舗の灯りのおかげでまるで昼間のように明るい。まだ色々な人が活動している最中だ。
余談だがオガサワラの夜の十時はもっと静けさがあり、とっくに閉まっている店すらある。
「アキバはマグショップが沢山あるみたいだね。便利そうだからいくつか見繕って買ってみようよ!」
ライブが終わり万里雄の口調はようやく元に戻った。どうも霧島可憐を生で見たいという欲求があの口調を引き起こしていたらしい。レントはホッと胸をなでおろしていた。
「でもアキバのマグはどちらかというと家電的な役割を持ったマグがほとんどみたいだな。冒険に使えるものがあるといいが。」
レントは振り向けば大量にあるマグショップをウィンドウショッピングしながらそんな感想を漏らす。実際アキバはレントの言った通り生活良品寄りのマグがほとんどだ。一般客向けにマグを作ったり、仕入れたりしているので、冒険者向けのショップは極一部だ。
「日本でもそうだったけど、アキバといえばやっぱり掘り出し物だよね。きっと家電的なマグでも冒険に使えそうな掘り出し物があるさ。」
そういうと万里雄は、親指で大通りではなく裏通りの方を指さした。掘り出し物を探すなら裏通り、アキバというよりも秋葉のセオリーだが、それはグラン・サトウでも同じだ。
「そうだな、裏通りの店なら十時以降もやっている店があるかもしれないし、行ってみようか。」
二人は大通りから裏通りへと足を運んだ。やはり大通りとは違い、太いビルというよりは細長いビルが大量にあり、背も低い。大通りから出てしまうと、街灯すらまばらで、表通りの明るさが嘘のようだった。
そんな裏通りには小さな店舗が点々と立ち並んでいた。
「お、中古マグだって。行ってみようよ。」
二人が最初に向かうことにしたのは日本にもよくある中古を取り扱うマグショップだった。ビルの一階部分だけに建設されたその店の前には「アキバのほとり」という看板が出ている。
そこまで大きくはない店舗だが、注目を集めようと外にまで品物が乱立しており、裏通りでも一際目を引くマグショップだった。
万里雄は早速店舗の外に並ぶマグを物色する。
「これは…電子レンジだね。」
そういって万里雄が見たのは、物を入れるだけで温めることができる箱型マグだ。名称は魔導レンジというらしい。何を手本に考えられたのかは一目でわかる。
食堂の料理を無料で食べることのできる二人には無用の長物だ。
立ち並ぶ品々はどれも地球のオマージュ品で、電気か魔力かといった程度の差くらいしかない。
二人を動かしているのはもはや興味で、冒険を楽にしようだとかは特に考えていなかった。なんとなく懐かしき日本を思い出すのにはいい場所であり、思い出話にも花が咲いた。
そんな中、唯一二人の目を引くマグがあった。
「これは…凄いな。」
「まさか…こんなものがあるなんて…これは買うしかないのでは?」
万里雄がレントの方を見る。
二人が見つけた品物は空間収納リストバンドという摩訶不思議なものだった。一見それはただのリストバンドでしかないが、かなりの優れものだ。
説明文を見るに、地面でも、壁でもどこでもこのリストバンドを設置すると、その奥に別空間が現れ、その中に物を自由に入れられるというものだった。普段はリストバンドとして手首に巻くことができ、持ち運び簡単な、まさしく冒険者向けのアイテムだった。
ただ中古とはいえ値段は性能に見合ったものだった。
これ一つで先日DIYしたクロスガンの二倍の値段があり、二十万円という高額商品だ。他の中古品を見てもこれほどの値段をしているのは冷蔵庫などの大型マグくらいだ。
レントはその妥当な値段に悩みながらも万里雄の方を見る。
「これはDIYできないのか?」
「う~ん、ごめん。多分今の僕には無理だ。かかっている魔法を見たんだけど、今の僕が再現するには魔力が足りないな…。これ、相当な逸品だよ。」
「…確かに俺たちの今抱える最も大きな問題は物の持ち運びだ。これがあれば大きな換金部位すら容易に運べるのは間違いない。」
レントは顎に手を当てて深く考えた後、宣言した。
「よし、買おう!きっとこのマグが今後の俺たちの冒険を豊かにしてくれるはずだ!」
「僕も賛成だね。今までいろんなマグを構造理解して来たけど、この魔法でこの値段は相当な破格だよ。僕たちはまさしく掘り出し物を見つけたんだ!」
万里雄もレントの提案に頷く、間違いなくこれはお宝に等しいものだ。
二人はリストバンドを持ち、レジに向かう。するとそこには優し気なおじいさんが座っていた。レジカウンター奥にあるテレビを新聞を読みながら見ている。
「あの、すみません。これを下さい。」
「はいはい、どうもです。」
レントが声をかけると、おじいさんは二人の方へと意識を向けた。そして次にカウンターに置かれた品物をみる。
「おや…まさかこれを買いに来るとは…お二人は冒険者で?」




