第二十六話
「そしてそのクロスガンの最も優れた箇所は、使用者の魔力を使う訳じゃないってことさ。」
「おいおいマジかよ、だから俺でも使えるのか。」
「うん。電池みたいなものに近いかな。その大きな持ち手の横に、小さなハンドルがあるだろ?」
レントは木製の持ち手部分につまみのような箇所があるのを見つけた。どうもあける原理はキャップと同じで回転させればいいようだ。
そこを回転させると、つまみごと引き出すことが可能で、そこに乾電池のような物が付いていた。
「そうそれ、それが電池になってて、まぁ電池じゃないけど、仮に電池って呼ぶね。その電池は持ってるだけで周囲の魔力を取り込んで充電できる仕組みだよ。この世界は空気中に魔素っていうのが飛んでいて、それを取り込んでいるんだ。充電?方法は他にもあって、例えば魔物の魔石の側に置いているだけでも溜まるし、まぁ色々あるよ。」
魔物は体内に魔力の結晶、魔石を宿すことから魔物と呼ばれている。獣ではないのだ。
それからもいくつか万里雄から教習を受けつつ、二人は時間を過ごした。
そうしていれば時刻はあっという間に夕食時になり、二人は食堂へと向かった。
レントは夕食後、出来る限りクロスガンの使い方を復習した後、眠りについた。
というのも翌日、二人には非常に重要な役割があったからだ。
翌朝、無事に時間通り目覚めたレントはまず隣の部屋をノックする。もちろん身支度もしていない。
いくらノックしようとも中の住民から返事はない。これ以上音を出せば他に寮に暮らす人たちへの迷惑になることは明らか。レントは強硬手段をとることにした。
実は万里雄と彼はお互いに自室のカギを共有している。もちろんバレンにも許可を取り、スペアのカギを借りていた。というのもレントは二日目にして彼がある問題をかけていることに気付いていた。
それは寝坊だ。
彼には寝坊癖があり、朝に弱い。
レントは預かっていたカギを使って扉を開けた。
「グガァァァァ。」
まるで怪獣のような声で寝る彼の元へとすぐに駆け寄り、その体を思いっきり揺さぶる。ただしそれでも万里雄は起きない。大きな脂肪の乗った腹がポヨポヨと揺れるだけだ。
「予想通りだ。」
レントはすぐに次の作戦をとる。キッチンからコップ一杯の水を汲みだすと、それをお万里雄の顔にかけた。
「あぼぼぼっぼおぼぼっぼぼぼぼぼぼ!!!!????」
万里雄は一瞬にして目を覚ます。もちろん寝ている人間に水をかけるのは非常に危険なことだが、時と場合によってはそれが必要になることもある。
「朝だぞ。準備をしよう。今日は少しでもましな身なりをしなきゃだぞ。」
「そうだったね。」
万里雄は少し疲れたような表情で返事をする。こんな起こされ方をすれば誰でもそうなるだろうが。
すぐに自室へと戻ったレントは、身だしなみを限界まで整えた。
といってもいつもの貧相な服に、貧相なズボンという服装まで変えることはできないが。
そして約束の時になった。
約束の十分前にはサルバに会い、ギルド長室に入った。
そして丁度十分後、ギルド長室がノックされる。
魔界の国賓は二人で、サルバにお辞儀するとレントと万里雄の目の前に座った。
今回は椅子をいつもより一つ多く準備し、誕生日席に配置している。そこにサルバが座っていた。
一人はまるで古き時代の英国貴族のような服装をした男で、もう片方は黒い大き目のローブを被り、フードを深くかぶっているため性別すら分からない。。
英国紳士は白髪に白い眼をしており、それが魔人の特徴でもある。やや長めの顎と鼻の下に真っ白な髭を小さく蓄えている。その口は大きくへの字に曲がっており、どことなく高圧的な印象を受ける。彼らは通常小さな角を額に生やしているが、日常生活におけるその露出はマナー違反とされ、身体機能の一つとしてその角を隠すことができる。
彼の英国紳士のような服装は緑色を基調としており、非常に鮮やかだった。
「初めまして。わたくしはドッド・パライアソンと申します。魔皇国では…人界風にいうと…公爵といったところになりましょうか。」
ドットは意外にも表情を笑顔に変え、そう宣言した。
魔皇国、序列一位の貴族であると。
余談だが魔皇国とは、魔界で最も大きな国であり、いわゆる魔王を有する国である。魔王と呼んでいるのは実際は人界だけであり、魔界では魔皇と呼ばれている。
サルバはこれほどの立場の人間が来ることを想定していなかったのか、口を大きく開けて驚いている。もはやだらしないといっても過言ではない。
ドッドの自己紹介が終わると、うつむいていたもう片方のローブが顔を上げた。
そしてそのフードをとった。
「私の名前はシオリ・コラプソ、魔皇国の姫です。」
後ろで一つ結びにした白い髪を前に流し、非常に美しい透き通るような白い眼をしている。その肌も病的なほど美しく、まるで陶器のように光を反射していた。大きな瞳は少しだけ垂れ目で、眉毛は整えているものの少しだけ太く残している。地球でも一時期流行った眉だ。顔にはほとんど化粧を施してはいないようだがその頬は少しだけ赤い。どこか優しい印象を残すその顔立ちは、間違いなく美しかった。またその肢体も同じで、彼女の美しさを掻き立てるかの如く豊満で、なおかつ引き締まっていた。
その名乗りを聞いて、さらにサルバは口を大きく開けて彼女の方を見ていた。
口を開けていないものの、レントの反応も似たようなものだった。
彼女を見た瞬間、まるで時が止まったかのようにその動きを止めた。
その女性に、見覚えがあったからだ。




